大阪に日本国際紛争解決センターが開設されました!
2018年8月 弁護士 豊島 ひろ江
2018年5月1日、大阪中之島合同庁舎にて、日本で初めての国際仲裁・ADR専用施設である日本国際紛争解決センター(大阪)(Japan International Dispute Resolution Center: JIDRC (Osaka))が開設されました。同センターの開設により、大阪が、仲裁地・仲裁審問地として魅力的であることが世界に発信できるようになりました。
国際紛争解決手段としての仲裁手続
1.仲裁手続のメリット
国際紛争解決の手段としては、裁判所による訴訟手続よりも仲裁手続の方が良いと考えられています。裁判手続の場合、一方当事者の国の裁判では、公正中立な判断が期待できるかどうか心配だからです。また、外国の裁判所の判決が被告の国では執行できないリスクもあります(たとえば日本で判決を得ても中国では執行できないので、中国で判決を得る必要があります。)。 これに対して、仲裁手続では、当事者が、国籍を問わず、各事案に応じた専門家を仲裁人として選ぶことができ、公正中立な判断が期待できます。また、多くの国が加盟しているニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)に基づき、加盟国への仲裁判断の執行が確保されます。また、仲裁手続は公開されず、企業秘密を守ることが可能となります。 他方で、仲裁手続は訴訟手続と比べると、仲裁機関、仲裁人、審問場所の利用にかかる費用が高額になりがちであることがデメリットの一つと考えられています。
2.契約時における仲裁合意
紛争が起こったときに仲裁手続を利用するには合意が必要であり、通常、国際取引の契約書を作成する段階で合意します。これを仲裁合意と言いますが、一般的には、当事者のどちらか一方の都市などを仲裁地と決め、どこか既存の常設の仲裁機関を利用することが合意されます。たとえば、「本契約に関するすべての紛争は一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、(日本国の)大阪において仲裁により最終的に解決されるものとする。」というような内容です。
他方で、私的整理の場合、協議対象となる債権者全員との間で合意に至らなければ、再生計画を実施することはできません。この点は、法的整理の場合(民事再生であれば、総債権者のうち、過半数の債権額及び人数の債権者の賛成が得られれば、再生計画が認可されます)よりもハードルが高く、私的整理を進めていく場合は、対象となる全ての債権者の意向を確認し、全員の賛成が得られるような再生計画を策定する必要があります。
仲裁地の選定
1.国際的な仲裁機関
仲裁合意においては、通常、常設の仲裁機関の利用を合意することが多いですが(これを「機関仲裁」といいます。常設の仲裁機関を利用しない仲裁は「アドホック仲裁」といいます。)、常設の国際的な仲裁機関には、日本商事仲裁協会(JCAA)、国際商業会議所(ICC)国際仲裁裁判所、アメリカ仲裁協会国際紛争解決センター(ICDR)、ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)、香港国際仲裁センター(HKIAC)、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)などがあります。
仲裁地の選択が、仲裁機関の選択に影響を及ぼすことも多いですが、仲裁機関の選定と仲裁地の選択は必ずしもリンクするものではありません。たとえば、シンガポール国際仲裁センターを利用するとしても、仲裁地は日本・大阪でということは可能なのです。
2.仲裁のための専用施設
仲裁地の選択においては、シンガポール、ロンドン、ニューヨーク、パリ、香港などといった都市が人気です。当事者が日本企業であっても、日本の東京や大阪が仲裁地として合意されることは多くはありません。日本が仲裁地として選ばれない理由のひとつは、日本には香港やシンガポールのような国際的な紛争解決の専用施設等が整備されておらず、日本を仲裁地とする積極的なメリットが認知されていない点が指摘されています。
実際、これまでは、日本で仲裁を行う場合、ホテルの会議室、貸会議室や代理人弁護士の法律事務所の会議室を仲裁の審問会場として利用されてきました。仲裁には、仲裁手続きを行う審問室、当事者双方の控室、仲裁人の控室の4部屋が必要となりますが、ホテル等で1週間程度4部屋を借りるには相当な費用がかかるうえ、一方当事者の法律事務所の会議室では中立性・公平性の点で問題があります。いずれも仲裁の審問をする施設としては十分ではなく、廉価なコストで仲裁が行える専用設備の充実は仲裁を行う上で重要となります。
日本国際紛争解決センター(JIDRC)
1.日本国際紛争解決センター(大阪)の開設
そこで、この度、日本はアジアの仲裁地No.1を目指すべく、官民の協力のもとで、日本国内に国際紛争解決センターが設置されました。2018年2月16日、一般社団法人日本国際紛争解決センターが設立され、2018年5月1日には、大阪中之島合同庁舎にて、日本で初めての国際仲裁・ADR専用施設である日本国際紛争解決センター(大阪)が開業しました。
同センターでは、仲裁をはじめとする国際紛争解決のための専用施設、具体的には、同時通訳ブースや仲裁人控室等を備えた大会議室、中会議室及び小会議室を提供しています。価格設定は、たとえばシンガポールや香港のセンターの施設と比較すると3〜4分の1となっており、また賛助会員であれば更に減額した価格での利用が可能となります。 比較的交通の便もよく、周辺には、複数のホテルがあり、海外からの当事者の滞在にも便利です。セミナーの会場としての利用も可能であり、オープン以来、国際仲裁・ADRに関連したセミナーにも利用されています。詳しくは、日本国際紛争解決センターのホームページをご参照ください。http://www.idrc.jp/
2.仲裁地や仲裁審問場所としての「大阪」
このように、日本国際紛争解決センターが大阪に設置されたことにより、大阪は、国際仲裁の仲裁地として大変魅力的な場所となりました。今後、仲裁条項には、どこの仲裁機関を利用するかに関わりなく、仲裁地を「大阪」と合意すれば、日本国際紛争解決センター(大阪)を利用することが可能となります。
また、すでに別の仲裁地を合意している場合であっても、実際の審問場所を「大阪」にすることが可能です。
日本国内である大阪で仲裁を行うことができれば、日本企業であれば社内的にも紛争に対応する体制が作りやすく、また諸費用も低額に抑えることが可能となります。
また相手方にとっても、安価に施設が利用できることは経済的に大きなメリットがあります。 日本国際紛争解決センター(大阪)の開設によって、仲裁地「大阪」あるいは審問場所「大阪」の魅力が世界に広く認知される日がくることを期待しています。
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