優越的地位の濫用に関する問題

法律コラム

優越的地位の濫用に関する問題



2012年8月 弁護士 黒栁 武史

近時、カルテルや不当廉売等、独占禁止法違反が問題とされるケースが増加しています。本稿では、その中の「優越的地位の濫用」に関する問題について解説します。

【事例】

大手スーパーのA社は、A社との取引が自社の売上の大部分を占めている複数の納入業者に対し、A社が取扱う商品の陳列等の作業を行わせるため無償で従業員を派遣させていた。また、販売期間中に売れ残った季節ものの商品を、納入業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、損失補償等を行うことなく納入業者に返品していた。

【問題と背景】

小売業者と納入業者との取引において、従業員派遣の要請や商品の返品等の行為が行われることは珍しくはないと思われます。しかし、これらの取引を、取引上優越する地位にある一方当事者が相手方に強制すれば、場合により「優越的地位の濫用」として、独占禁止法(以下「法」といいます)に基づく行政処分のリスクや、損害賠償等の民事責任を負う可能性があります。特に、平成21年の法改正により、優越的地位の濫用も課徴金納付命令の対象となったため、濫用行為を継続すれば莫大な額の課徴金の納付を命じられることにもなりかねません。

実際に、近時、事例のようなケースで、小売業者に対し、公正取引委員会(以下「公取委」といいます)が優越的地位の濫用を理由に、当該行為の排除措置(差止等)に加え、高額の課徴金の納付を命じるケースが相次いでおり、中には課徴金額が40億円以上に上るケースも見られます。

摘発事例が相次いでいる背景には、法改正に伴い、公取委が違反調査や立件に積極的に取り組んでいるとの事情があると思われます。そして、公取委は、今後は小売業者だけでなく、例えば卸売業者の納入業者に対する優越的地位の濫用行為についても監視を深めていく旨を明言しており、今後さらに優越的地位の濫用が問題とされる事例の増加が予想されます。そのため、どのような行為が優越的地位の濫用に該当するかを理解し、濫用行為の予防に努めることがより一層重要になると考えます。

【優越的地位の濫用の意義・内容】

優越的地位の濫用は、取引上優越した地位にある一方当事者が、相手方に対し、正常な商慣習に照らして不当に、法2条9項5号イからハのいずれかに該当する行為を行う場合に認められます。

取引上優越した地位とは、例えば、納入業者がA社との取引に依存している等の事情により、A社が納入業者に対して著しく不利益な要請等を行っても、納入業者がこれを受け入れざるを得ない場合における、A社の納入業者に対する地位をいいます。

また、法2条9項5号イからハに該当する行為として、取引に係る商品等以外の商品等を購入させること(同イ)、金銭・役務等の経済上の利益を提供させること(同ロ、従業員の派遣要請はこれに該当します)、商品の受領拒否・返品、対価の支払遅延、減額(同ハ)などの行為が規定されています。ただ、法の規定のみから具体的に如何なる場合に優越的地位の濫用と評価されるのかを判断することは困難です。この点公取委は、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」と題するガイドラインを公表しており
http://www.jftc.go.jp/hourei.files/yuuetsutekichii.pdf)、同ガイドラインの中には、問題となる行為の具体例や想定例が掲載されています。同ガイドラインや過去の違反事例を参照し、どのような行為が問題とされるかを具体的に理解することが重要であると考えます。

【濫用行為の予防のために】

濫用行為が認定された事案では、事前に従業員派遣や返品等の条件を明確にしていない点や、納入業者が受ける不利益が合理的範囲を超えること(納入業者に、派遣等による直接の利益が認められないことや派遣の対価が無償又は低額であること、返品に伴い生じる損失の負担を行っていないこと)等が問題とされています。そのため、優越的地位の濫用を未然に防止するためには、当事者間で、取引条件について事前に十分協議し、内容を明確にした上で書面化するとともに、派遣等に通常必要となる費用や返品によって通常生じる損失を負担するなどの方法により取引条件を合理的なものとする、といった対応を行うことが重要になると考えます。

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