名義株をめぐる会社支配権争いと旧代表取締役の責任―東京地判令和7年4月24日金判1731号32頁を題材に―

法律コラム

名義株をめぐる会社支配権争いと旧代表取締役の責任―東京地判令和7年4月24日金判1731号32頁を題材に―



弁護士 中原 大和

1 はじめに

中小企業やオーナー企業では、様々な理由から、実際に資金を出した人物とは異なる人物の名義で株式を保有しているケースがあります(いわゆる「名義株」の問題)。

今回取り上げる東京地判令和7年4月24日金判1731号32頁は、まさにこのような名義株をめぐる会社内部紛争が問題となった事案です。

本件では、名義上の株式引受人と実質的な資金出捐者が異なる場合に、誰を株主と認定すべきかが争われました。また、それを前提として、旧代表取締役を解任した株主総会決議の効力、解任後に会社財産を処分した旧代表取締役の不法行為責任、さらに解任前に締結された契約が代表権濫用行為として無効となるかも問題となりました。

以下では、本件裁判例を紹介し、名義株をめぐる実務上の注意点について整理します。

 

2 裁判例の紹介

⑴ 事案の概要

本件の原告会社Xは、インターネット上で複数の掲示板を運営し、そこから得られる広告料を主な収益源とする会社でした。

同社の実質的な経営者であった人物Aは、一定の事情から、自らの名義ではなく、第三者の名義を用いて株式を引き受けさせていました(設立時には別の発起人名義を用い、その後の増資時には、後に代表取締役となる被告Y1名義を用いていました)。

ところが、その後、原告会社Xが国税局による査察調査を受けるという事態が生じました。これを契機として、当時代表取締役であった被告Y1は、Aを経営から排除し、自らが関与する新会社Y2に原告会社Xの業務を移管しようとしました。具体的には、被告Y1は、原告会社Xの従業員を一斉に解雇し、Y2側で業務委託として稼働させたほか、原告会社Xの預金口座から出金を行い、原告会社X名義のクレジットカードを利用し、取引先に対して広告料の振込先をY2に変更するよう連絡するなどの行為に及びました。

これに対し、Aは、自らが原告会社Xの唯一の株主であることを前提として、被告Y1を取締役から解任し、自らを取締役に選任する旨の書面決議を行いました。

その後、原告会社Xは、被告Y1に対し、代表権を失った後に会社財産を減少させた行為等について、不法行為に基づく損害賠償を請求しました。また、被告Y1が関与するY2に対しては、原告とY2との間で締結された業務委託契約等(ただしY1の解任決議前)に基づいて支払われた金員について、不当利得返還請求を行いました。

 

 

 

⑵ 名義株をめぐる問題

本件では、Aが真の株主であったといえるかという点が争点の一つとなりました。

被告Y側は、定款、株主総会議事録、同族会社の判定明細書などの書面上、Y1が株主として記載されていたことを根拠に、自らが正当な株主であると主張しました。

しかし、裁判所は、他人の承諾を得てその名義を用いて株式を引き受けた場合には、名義人ではなく実質上の引受人が株主となるとした最二判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁の考え方を前提に、①株式取得に係る実質的な出捐、②当事者間の合意、③経営支配の実態等を考慮し、Aを原告会社Xの唯一の株主であると認定した上で、Aが行った被告Y1の取締役解任決議についても有効であると判断しました。

⑶ 代表権喪失後の財産処分行為

次に問題となったのが、被告Y1が解任決議後に原告会社Xの財産を処分した行為です。

代表取締役であった者であっても、株主総会決議によって取締役を解任されれば、当然ながら会社を代表する権限を失います。したがって、その後に会社財産を処分することは、もはや代表取締役としての権限に基づく行為とはいえません。

本件でも、裁判所は、被告Y1が解任決議の存在を認識した後に、原告会社Xの預金口座から出金を行った行為、原告会社X名義のクレジットカードを利用した行為、取引先から原告会社Xが受領すべき広告料について不適切な処理を行った行為などについて、会社財産を違法に減少させるものとして、不法行為責任を認めました。

⑷ 代表権喪失前の契約締結行為

本件では、被告Y1が解任される前に、代表取締役として新会社Y2との間で業務委託契約や金銭消費貸借契約を締結していたことも問題となりました。

原告会社Xは、これらの契約は、被告Y1が原告会社Xを害する目的で締結したものであり、代表権の濫用に当たるから無効であると主張しました。その上で、新会社Y2が受領した金員には法律上の原因がないとして、不当利得返還を求めました。

しかし、解任前の代表取締役が代表権の範囲内で契約を締結した場合、その契約が当然に無効になるわけではありません。代表権濫用の場面では、相手方が代表者の濫用目的を知っていたか、又は知らなかったことについて過失があったといえるかが問題となります。

本件では、新会社Y2の当時の代表者が、被告Y1による代表権濫用の事実を知っていた、又は知らなかったことについて過失があったと認めるに足りる証拠はないとされました。

そのため、裁判所は、新会社Y2との関係では契約を無効とはせず、契約に基づいて支払われた金員には法律上の原因があるとして、不当利得返還請求を認めませんでした。

 

3 実務上の注意点

このように、名義株は、会社支配権紛争の火種になりやすいと思われます。

誰が真の株主と言えるかについては、株主名簿や税務関係書類だけでなく、出資資金の出所、名義貸与に関する合意書や確約書、議決権行使の実態、配当の受領状況、会社経営への関与状況などが総合的に判断されます。

そのため、仮に名義と実質が一致しない状態がある場合には、少なくとも権利帰属を明確にする客観的資料を整備しておく必要があります。もっとも、そもそも名義株の状態自体が紛争リスクを高めるため、可能な限り早期に実質と名義を一致させておくことが望ましいといえます。

 

4 おわりに

名義株については、会社の経営が順調なときには問題にならなくても、経営権争いや相続などを契機として、一気に重大な紛争に発展することが想定されます。特に中小企業では、株式の帰属が会社支配権そのものを意味しますし、誰が株主かが曖昧なままでは、取締役の選任・解任、事業承継、M&A等の場面においても大きな障害となり得ます。

名義株の問題は、紛争が起きてから対応するのでは遅いことが多いように思います。会社の設立時や増資時に便宜的な名義を用いることがあったとしても、その状態を長期間放置することは、会社にとって大きなリスクとなり得ます。

そのため、企業におかれましては、株主名簿、出資関係、過去の増資資料、名義貸与に関する合意の有無、実際の資金の流れなどを定期的に確認し、名義と実質にずれがある場合には、早期に整理しておくことが重要だと思われます。