成年後見制度が大きく変わります ―「補助」への一元化と終身制の見直し―
認知症や知的障害などにより判断能力が十分ではない方を支える成年後見制度について、これを抜本的に見直す民法等の一部改正法案が、令和8年6月17日、国会で成立しました。制度の創設(平成12年)以来およそ四半世紀ぶりの大改正であり、これまでの実務が大きく変わることが見込まれています。本稿では、改正の全体像とポイントを概観します。
1 制度見直しの背景
現在の成年後見制度は、平成12年に介護保険制度と同時にスタートし、判断能力が不十分な方の財産管理や契約締結を支える仕組みとして定着してきました。もっとも現行制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の三類型を画一的に法定し、いずれを利用するかを選択する仕組みであったため、運用上いくつかの課題が指摘されてきました。例えば、利用の動機となった課題(たとえば遺産分割)が解決しても判断能力が回復しない限り利用をやめられないこと、成年後見人に包括的な代理権・取消権があるため本人の自己決定が必要以上に制限される場合があること、本人の状況の変化に応じた後見人の交代が実現しにくいこと、などです。
高齢化の進展や単身高齢世帯の増加により制度へのニーズの増加・多様化が見込まれるなか、障害者権利条約に関する国連障害者権利委員会からの指摘も背景となり、政府は令和6年2月に法制審議会へ諮問し、法制審議会での約1年半の審議を経て、今回の法改正に至っています。
2 「補助」への一元化
今回の改正の最大の柱は、法定後見の枠組みの再編です。現行の三類型のうち「後見」と「保佐」を廃止し、適用範囲を拡大した「補助」の制度に一元化され、家庭裁判所が、本人に必要な範囲で、特定の行為についての同意権・取消権や、特定の法律行為についての代理権を補助人に個別に付与する形に改められます。
補助人の同意を要する行為として想定されているのは、預貯金の払戻し、借財・保証、不動産その他重要な財産に関する権利の得喪、相続の承認・放棄や遺産分割、訴訟行為など、従来の「保佐」における保佐人の同意を要する行為に相当するものです。日用品の購入その他日常生活に関する行為は対象外とされ、本人の生活上の自律は確保されます。
一方、判断能力を欠く常況にある方については、新たに「特定補助人」を付する制度が設けられます。これは現行制度の「後見」に相当するものにあたり、「特定補助人」は、重要な財産上の行為についての取消権のほか、意思表示の受領や財産の保存行為を行う権限を有します。もっとも、従来の成年後見人のような包括的な権限を持つものとはされず、あくまで本人の状態と必要性に応じて支援内容を設計する制度へと転換することになります。
なお、改正法施行の時点ですでに「後見」・「保佐」を利用している方については、原則として改正法施行後も「後見」等が継続することになりますが、新制度による「補助」利用を改めて申し立てることも可能とされています。
3 「終身制」の見直し
改正法によるもう一つの大きな変更が、いわゆる終身制の見直しです。現行制度では、いったん成年後見制度の利用を開始すると、判断能力が回復しない限り原則としてその利用をやめられませんでした。改正後は、家庭裁判所が、その必要がなくなったと認めるときは、請求により「補助」に係る審判を取り消すことができるものとされます。さらに、補助人は毎年一回、本人の状況等を家庭裁判所に報告し、報告を受けた家庭裁判所は、要件がなくなったと認めれば職権で「補助」に係る審判を取り消すことができます。これにより、遺産分割や特定の不動産取引など、限られた目的のために「補助」制度を利用し、目的を達したら終了させるといった、柔軟な活用が可能になることが見込まれています。
4 本人意思の尊重と補助人の交代
新制度においては本人の意思の尊重もより明確化されました。補助人は、事務を行うに当たって適切な方法により本人の意向を把握し、これを尊重しなければならないものとされます。また、家庭裁判所は、不正行為などの従来の解任事由がない場合であっても、本人の利益のため特に必要があるときは補助人を解任できるようになり、本人のニーズに合った担い手への交代が図りやすくなります。補助人への報酬についても、家庭裁判所が定める際に事務の内容等を考慮することが明確化されました。
5 任意後見制度の見直し
任意後見についても見直しが行われます。基本的な枠組みは大きくは変わりませんが、明らかに監督の必要がないと認めるときは任意後見監督人を選任しないことも可能となり、予備的な受任者をあらかじめ定めておく仕組みも設けられます。さらに、本人が補助開始の審判等を受けると任意後見契約が終了するという規律が削除され、任意後見人と補助人の併存が認められます。あわせて、本人が受任者以外に公正証書であらかじめ指定した者を、法定後見・任意後見の開始の請求権者に加えることができるようになりました。判断能力が十分なうちに「いざというときに誰に支援を頼むか」を自ら選んでおける点で、本人の自己決定をより尊重する仕組みといえます。
6 遺言制度の改正
今回の改正には、遺言に関する規定の見直しも含まれています。とりわけ注目されるのは、遺言の全文を記載・記録した証書を遺言書保管官の前で口述するなどして法務局に保管する「保管証書遺言」の創設で、パソコン等で作成した遺言にも道を開くものです。また、自筆証書遺言・秘密証書遺言等における押印要件の廃止、死亡の危急に迫った者の遺言や船舶遭難者の遺言についての録音・録画による新たな方式の追加、証人・立会人の欠格事由の見直しなども行われます。相続実務に直結する改正として留意が必要です。
7 施行時期
施行時期は、原則として公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日とされ、2028年度中の施行が見込まれます。ただし、遺言の押印要件の廃止等は公布から1年以内、保管証書遺言の関係は3年以内と、項目ごとに段階的に施行されます。政府は施行後3年を目途に施行状況を検討するものとされており、今後の運用指針の動向にも注視が必要です。

(出典:法務省ホームページ https://www.moj.go.jp/content/001455456.pdf)


