取引先が倒産!債権回収を諦めていませんか? ~動産売買先取特権の活用を知るべし!~
弁護士 豊 島 ひ ろ 江
売掛債権を有する取引先について破産開始決定通知が来たとき、「しまった!やられた!商品納入したばかりなのに…」「銀行と違って担保権もないし、破産したらもうどうしようもない…」と諦めることも多いでしょう。ですが、諦める前に、「動産売買先取特権」の行使ができないかを検討しましょう!
動産売買先取特権とは、動産を売買したとき、売主は、売買した動産から他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受けることができる法定の担保物件です。あらかじめ担保の合意が無くても、単に「動産の売買」をしているだけで法律上与えられる担保権です。但し、この行使には裁判所の手続きを経る必要があります。動産売買先取特権の行使場面は、①動産が取引先のもとに残っている場合と②動産が転売されてしまって第三者に納品されている場合の2つです。
1 動産が取引先のもとに残っている場合
この場合には、動産売買先取特権に基づき、取引先のもとにある商品そのものを差押えして、商品を競売して、競売代金から配当を受けて債権の回収を図ることができます。
かつては、裁判所で動産競売開始許可決定を取得するのは要件的に困難でしたが、要件が緩和されて使い易くなりました。ただ、裁判所の決定をもらうには、①対象商品が特定され代金額がわかる売買契約書(発注書・請書)、②対象商品が買主に納入されたことを示す受領印のある納品書、③売掛債権の支払期日の到来、それを示す請求書などの書類の提出が必要となります。常日頃からこれらの書類を揃えておくことが重要です。
取引先の破産直前に商品を納品した場合など、商品が取引先倉庫にあることが確実な場合には、動産売買先取特権を法的に行使して、商品を差し押さえて債権回収を図りましょう。
2 動産が転売されている場合(物上代位)
この場合には、取引先である買主のもとには商品はない場合ですが、転売先から転売代金の弁済をまだ受けていない状態であれば、その代金債権を差押え、これを取り立てて、他の債権者よりも優先した弁済を受けることができます。これを「物上代位」と言います。
物上代位の行使に際しても裁判所で担保権の実行としての債権差押命令をもらうには、①売主と買主との間の売買契約書や発注書・請書、②買主および転売先が引渡しを受けたことを証する受領印のある納品書、③売掛債権の支払期日が到来していることの証明などの書類の提出が必要ですが、さらに、④買主と転売先との間の売買契約の存在とその商品が、売主買主間の商品と同一であることを証明する必要があります。実際には、売主が商品を転売先に直送したときや、転売先が売主に大いに協力をしてくれたときなどでなければなかなか証拠書類を整えるのは困難ではあります。しかし証拠書類さえ揃えられれば非常に有効な債権回収の方法となります。
活用ポイント! 動産売買先取特権を有効に行使するために
以上のとおり、動産売買先取特権を有効に行使するには、対象商品の特定と所在、転売した場合にはその同一性、売主の取引先に対する売買代金の弁済期の到来が重要な要件となります。そのため、日頃から、対象商品が特定されている発注書・請書・納品書を一連書類としての作成・管理、期限の利益喪失約款の合意、転売先情報の取得、転売先との協力関係の構築など、事前の努力が重要となります。売買取引を行う際には日頃からこれらの点に対応して、万一の場合に備えましょう。詳しくはご相談ください。