商業施設内の遊戯施設の安全に関するガイドラインについて
弁護士 大髙 友一
近年、ショッピングセンター等の商業施設内に子ども向けの遊戯施設が設置されることが多くなり、それに伴いこれらの遊戯施設における子どもの事故が少なくない件数で発生しています。内閣府消費者委員会の調査によりますと、死亡事故こそなかったものの、平成26年度だけで少なくとも88件の骨折等の事故が商業施設内の遊戯施設において発生していることが明らかとなっています。
このような商業施設内の遊戯施設は、その多くが屋内であるため天候や気温に左右されず、また柔らかいエア遊具が多いため安全に見え、子育て中の保護者が買い物時に子どもを遊ばせることができることなどから人気があり、大規模なショッピングセンターに限らず中小の小売店舗や飲食店などでも設置されるようになっています。しかしながら、上記のとおり、商業施設内の遊戯施設においては骨折を含む重大な事故が少なからず生じているにもかかわらず、これまでは商業施設内の遊戯施設における、明確な安全基準がなく、指導監督に当たる行政機関も定められていない状況にありました。
そこで、経済産業省は、消費者委員会からの建議を受けて、本年6月に「商業施設内の遊戯施設の安全に関するガイドライン」を公表し、商業施設内に遊戯施設を設置運営する事業者が取り組むことが望ましい事項に関する規範を定めました。このガイドラインは、あくまで、商業施設事業者を始めとする関係事業者による自主的な取り組みを促すものではありますが、商業施設内の遊戯施設において利用者による事故が発生した際に事業者が法的責任を負うかどうかの重要な判断基準の一つとなり得るものと考えられます。
以下、このガイドラインのうち、商業施設の事業者が商業施設の共用部や自社店舗等の内部に設置し、来場客に対し提供している遊戯施設に関する部分について、その概要をご紹介します。
⑴遊戯施設の設計・設置
設置場所に遊びを指導し見守る者が常駐するか、設置場所が屋内であるか屋外であるかに応じて、参考にすべき安全基準の目安が示され、これに沿った設計・設置を行うことが望ましいものとされています。
⑵点検保守
商業施設事業者はあらかじめ点検項目を定めた上で、適切な周期(毎日、週一回など)で日常点検を行う必要があるものとされています。また、点検項目は、消費者事故等の発生状況等も踏まえ定期的に見直すことが望ましいものとされています。その上で、日常点検及び定期点検の結果に基づき、必要な保守・メンテナンスを行うことが必要であるとされています。
⑶事故対応
商業施設事業者は、消費者事故等が発生した場合においては、事故の程度に応じて、遅滞なく、商業施設の事故対応者等から救急・警察等へ連絡を行うなど、必要な処置を講じる必要があるものとされています。
⑷再発防止
商業施設事業者は、客観的に事故の状況を把握し、事故原因の特定や再発防止策の検討に活用するため、必要に応じて、遊戯施設の使用状況を映像で管理しておくことが望ましいものとされています。また、自社の商業施設で発生した事故について、社内のデータベース等で集約・管理することが望ましく、その上で、商業施設事業者は、収集した事故情報について、再発防止の必要性に応じて、重大事故等に相当する事故情報などを社内及び遊戯施設の調達先、業界団体、経済産業省や消費者庁等の行政機関などの関係者と共有した上で、同様の事故が発生しないよう、収集・共有された事故情報も活用しながら再発防止策を講じることが望ましいものとされています。
⑸マニュアル等の整備
商業施設事業者は、上記の⑴~⑷に関する事項について、あらかじめ社内の体制やルールを整備するとともに、分かりやすいマニュアル等を作成し、従業員を始めとする関係者に周知を行うことが望ましいものとされています。