生成AIの利用に関する著作権法上の問題点について

法律コラム

生成AIの利用に関する著作権法上の問題点について



弁護士 中原 大和

 

1 はじめに

生成AIの発達に伴い、生成AIを取り巻く様々な法的課題についての議論が盛んになってきています。特に、生成AIと著作権に関しては、生成AIの生成物に著作物性が認められるかという点が争われる事例も出てきております。

そこで、以下では、生成AIの生成物に著作物性が認められるのはどのような場合かについて簡単に説明した上で、中国で実際に問題となった事例を紹介させていただこうと思います。

 

2 生成AIの生成物の著作物性

(1)前提

著作権法上、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定されています(著作権法2条1項1号)。

生成AIの生成物の著作物性については、一般的に次のように考えられております。つまり、生成AIの利用者が、生成AIに対して何らプロンプト(生成AIに与える指示のこと。)を与えず、又は簡単なプロンプトを与えるにとどまるような場合、利用者が「思想又は感情を創作的に表現した」とは言えず、生成AIが自律的に生成物を生成したと考えられ、そのような生成物は著作物には当たらないと考えられています1

もっとも、利用者が、生成AIを、思想又は感情を創作的に表現するための「道具」として利用したと言える場合には、AI生成物は著作物に当たると考えられています。そして、利用者が生成AIを「道具」として利用したといえるためには、①利用者が「創作的意図」を有しており、かつ、②利用者が「創作的寄与」と評価できるような行為を行ったと言える必要があると考えられています2

なお、生成AIが自律的に生成した物であっても、人がその生成物に創作的表現といえるような加筆・修正を加えた場合には、その部分については著作物性が認められると考えられています。

(2)創作的意図の判断方法

創作的意図とは、思想又は感情を、ある結果物として表現しようとする意図をいいます。この創作的意図については、生成AIを利用するという事実行為から通常推認し得るものであり、また、具体的にどのような態様の結果物を生成するかについてあらかじめ確定的な意図を有することまでは要求されず、生成当初の段階では、「生成AIを利用して自らの個性の表れとみられる何らかの表現を有する結果物を作る」という程度の意図があれば足りると考えられています3

(3)創作的寄与の判断方法

主に問題となるのは、創作的寄与があったと言えるかどうかです。この創作的寄与の有無の判断においては、生成のためにAIを利用する一連の過程を総合的に評価する必要があると考えられています4

具体的には、以下の点が考慮されると考えられています。

①プロンプト等の分量・内容

AI生成物を生成するに当たって、創作的表現といえる具体的で詳細な指示を与えたという事情は、AI生成物の著作物性を肯定する方向に働くと考えられます。他方で、長大な指示であったとしても、単にアイデアを示すようなプロンプトを入力したに過ぎない場合には、AI生成物の著作物性を否定する方向に働くと考えられます。

②生成の修正・試行回数

試行回数が多いことそれ自体は、著作物性を肯定する方向には働かないと考えられています。もっとも、一度生成された物を確認した上で、当初の意図に照らしてプロンプトを修正しつつ、試行を繰り返すといった場合には、著作物性を肯定する方向に働くと考えられています。

③複数の生成物からの選択

単なる選択行為それ自体は、著作物性を肯定する方向には働かないと考えられていますが、完成した作品の中から1つを選ぶのではなく、作品の一部を選択しながら作り上げていくといった場合、人の選択による関与の度合いは大きくなるため、選択する内容や回数いかんでは、著作物性を肯定する方向に働くと考えられています5

 

3 事例紹介 ―(2023)京0491民初第11279号

(1)事案の概要6

原告は、2023年2月、Stable Diffusionという画像生成AIを利用し、プロンプトを入力するなどして若い女性の画像(以下「本件画像」といいます。)を生成し、中国版のSNS上にアップロードしました。その後、原告は、被告が別のSNS上に本件画像をアップロードしているのを発見しました。被告は、原告から本件画像の利用について許諾を得ていませんでした。

そこで、原告は、原告の著作権を侵害したとして、被告に対して損害賠償等を求めて訴えを提起しました。

この事案では、本件画像が著作物に該当するか否か等が争点となりました。

(2)判決

中国著作権法3条では、「著作物とは、文学、芸術及び科学分野において、独創性を有し、かつ、一定の形式で表現可能な知的成果」をいうと規定されており、本判決においてもこれらの要件に該当するか否かが判断されました(以下では、特に「独創性」を有するといえるか、「知的成果」といえるかに関する判断を紹介します)。

まず、「知的成果」といえるかどうかについて、次のとおり判断されました。原告は、Stable Diffusionを用いて本件画像を生成しているところ、画像の構想から最終的な画像の選択に至るまでの過程において、具体的なプロンプトの設定、関連パラメータの設定・調整等を何度も繰り返し、最終的に多数の生成物の中から本件画像を選択している。このような過程に鑑みれば、原告は本件画像の生成過程において一定の「知的成果」を投入したといえ、本件画像は「知的成果」であるといえる。

次に、「独創性」の点について、次のとおり判断されました。原告は、キャラクターや表現形式などの画面の要素をプロンプトによって設計し、画面の配置や構図等をパラメータによって決定している。また、原告は、プロンプトやパラメータを入力して最初の画像を得た後、プロンプトを増やしたりパラメータを修正したりするなどして継続的な調整を行い、最終的に本件画像を生成・選択している。このような生成過程には、原告の美的選択と個性判断が反映されている。したがって、本件画像は原告の個性的表現が反映されたものであり、「独創性」を有する。

 

4 おわりに

生成AIの生成物の著作物性が争われた事例はまだ日本には存在しておらず、今後日本においてどのような判断が行われるかは分かりません。そのため、生成AIを利用する際には、他国の事例を参考にしながら、どのような問題があるかについて慎重に判断する必要があると思われます。

生成AIを利用する中で法的問題点について判断が必要となった際には、著作権以外のことであっても気軽にご相談いただければと思います。

 

 

1 文化庁著作権課「AIと著作権」(令和5年6月)57頁。

2 文化庁「著作権審議会第9小委員会(コンピュータ創作物関係)報告書」(平成5年11月)第3章Ⅰ1参照。

3 同上。

4 文化庁著作権課「AIと著作権」(令和5年6月)59頁。

5 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)39頁~40頁。

6 吉田憲(2024年)「中国商事紛争解決の理論と実務(53) AI生成物の著作物性を認めた中国の裁判例について」JCAジャーナル71巻10号、36頁-39