消費者契約法・特定商取引法の改正について

法律コラム

消費者契約法・特定商取引法の改正について



弁護士 大髙 友一

 

BtoC取引における取引ルールの基本を定めている消費者契約法と特定商取引法の改正法案が先の通常国会に提出され、成立しました。改正法では消費者保護の拡充が図られており、消費者が救済される場面が増える反面、BtoC取引を行う企業にとっては注意を要する場面が増えることとなります。本稿では、改正法の概要をご紹介します。

 

1.改正消費者契約法

消費者契約法は、事業者と消費者との間で締結される消費者契約(労働契約を除く)に広く適用される民事ルールであり、事業者による不当な勧誘行為がなされた場合の取消権や消費者に不利益な契約条項の無効を定めている法律です。平成13年4月に施行された後、民事ルールの部分については全く改正がなされていませんでしたが、消費者被害の現状を踏まえ、以下の点が改正されることになりました(平成29年6月3日施行予定)。

⑴過量販売契約に対する取消権の導入

判断能力が低下している高齢者などに不要な物品を大量に購入させるという消費者被害が跡を絶ちません。そこで、こうした消費者被害の救済のため、いわゆる過量販売契約に対する取消権が導入されることになりました。

具体的には、事業者が消費者契約の締結について勧誘するに際し、当該消費者契約の目的となるものの分量等が、当該消費者にとって「通常の分量等を著しく超えるものであること(過量性があること)」を知っていた場合には、消費者は当該契約を取り消すことができるようになります(改正法4条4項)。この「通常の分量等を著しく超えるものである」かどうかについては、契約の目的となるものの内容、取引条件、消費者の生活状況や消費者の認識などの要素により判断されることになりますが、具体的な判断基準については裁判例等の集積を待つ必要があるものと思われます。

⑵不実告知における「重要事項」の拡張

事業者が消費者契約の締結について勧誘するに際し、「重要事項」について事実と異なることを告げ、それによって消費者が誤認をして契約をした場合には、消費者は契約を取り消すことができるものとされています(4条1項1号)。この「重要事項」については、現行法では基本的にその消費者契約の目的となるものに関連するものであることが必要とされており、例えば「法律で木造住宅については定期的なシロアリ駆除が義務づけられました」という説明のように、消費者において契約を締結するかどうかの判断に重大な影響を及ぼしうるものの、シロアリ駆除という契約の目的となるものとは直接関連しないものについては、たとえ不実の内容であったとしても、現行法では消費者から不実告知取消権の行使は難しいとされていました。

改正法では、「消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」(改正法4条5項3号)が「重要事項」に加えられ、上記の「法律で木造住宅については定期的なシロアリ駆除が義務づけられました」というような勧誘についても、シロアリ駆除という契約目的が行政によるペナルティ(=損害)を避けるために通常必要であると判断される事情として、不実告知取消権の対象となりえるものと考えられます。

⑶「勧誘」にあたる場合の解釈

消費者が取消権を行使できるのは、事業者による「勧誘」において不当な行為がなされた場合に限られますが、この「勧誘」の中に広告や表示といった不特定多数の消費者に対する働きかけを主たる目的とするものも含まれるかについては、消費者庁の公式解釈としては含まれないとされつつも、「勧誘」にあたるとする裁判例もあり、解釈に争いがありました。法改正事項ではありませんが、今後、消費者庁の逐条解説に不特定多数の消費者に対する働きかけを主たる目的とするものも「勧誘」となりうる旨の記載がなされることが予定されています。

⑷無効となる契約条項の範囲拡大

現行法では、事業者の債務不履行や不法行為による損害賠償責任を免除する契約条項や過重な違約金を定める契約条項などが消費者に不利益な契約条項にあたるものとして無効となることが明記されています。今回の改正で、加えて以下のような契約条項についても、無効となることが明記されました。

・事業者に債務不履行等があった場合でも消費者の解除権を放棄させる条項(改正法8条の2)

・消費者の不作為をもって意思表示がなされたものとみなす条項(ただし、信義則に反して消費者に不利益となるものに限る、改正法10条)

 

2.改正特定商取引法

特定商取引法は、消費者被害が多発する特定の取引形態(訪問販売、通信販売、連鎖販売取引等)に着目して、必要な行政規制を加えるとともに、一定の民事ルールについても定めた法律です。以前は政令によって適用対象となる商品や役務(サービス)、権利が指定されることとなっていましたが、平成20年改正で商品や役務についてはこの政令指定商品制が廃止され、広くBtoC取引全般に適用のありうる法律となっています。特定商取引法は定期的に改正がなされていますが、今回の主な改正点は以下のとおりです(平成29年12月までに施行)。

⑴通信販売におけるファクシミリ広告の提供禁止

現在、通信販売において、消費者からの事前の請求及び承諾がない消費者に対しては電子メール広告を送信することが禁止されています。今回の改正で、通信販売におけるファクシミリ広告についても同様の規制が導入されることになりました。

⑵電話勧誘販売における過量販売規制の導入

前記のとおり、今回の消費者契約法改正において消費者契約一般に過量販売取消権が導入されますが、特定商取引法においては以前から訪問販売における過量販売解除権が規定されていました。今回の改正で、訪問販売に加えて、電話勧誘販売においても同様の過量販売解除権が導入されることになりました。

⑶行政による執行の強化

行政による特定商取引法違反業者に対する取り締まりを強化するため、以下のような改正がなされています。

・違反業者の役員等の個人に対する業務禁止命令制度の創設(社名を変えることにより違法行為を継続することの防止)

・業務停止命令制度の強化(業務停止命令の期間を最長2年に延長)

・指示制度の整備(行政において被害者に対する被害回復措置などを指示できるように)

・行政の調査権限、罰則等の強化