消費者契約法の改正について

法律コラム

消費者契約法の改正について



弁護士 大髙 友一

 

令和4年通常国会において消費者契約法等の一部を改正する法律が成立しました(令和5年6月1日施行予定)。消費者契約法は、消費者と事業者との間で締結される消費者契約全般に適用される民事ルールで、事業者による不当な契約条項の使用や不当な勧誘行為を規制することにより、消費者の利益を守るとともに適切な市場環境を維持するため法律です。今回の消費者契約法改正(第3次改正)は、平成28年の第1次改正(平成29年6月施行)及び平成30年の第2次改正(令和元年6月施行)に続くもので、不当勧誘に該当する行為類型や無効となる契約条項の追加、事業者による情報提供等の努力義務の強化を中心とした改正がなされています。本稿では、この消費者契約法第3次改正の概要をご紹介します。

 

1 不当勧誘行為類型の追加

消費者契約法では、事業者が不当な勧誘行為を行い、その結果として消費者に契約を締結したような場合、消費者は契約を取り消すことができるものと定めています。今回の改正では、このような不当勧誘行為のうち消費者に「困惑」を生じさせる類型として、さらに3つが追加されました。

(1)勧誘目的を告げずに退去困難な場所に同行しての勧誘

消費者契約の締結について勧誘をする目的であることを告げず、かつ勧誘対象の消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、その消費者をその場所に同行し、その場所において消費者契約の締結について勧誘をすること(改正法4条3項3号)。

これはいわゆるキャッチセールスなど、勧誘目的を告げずに消費者を店舗などに連れ込んで契約を迫る商法などを主にターゲットにしたものです。

(2)威迫する言動を交えて、相談の連絡を妨害

消費者が、店舗などで消費者契約の締結について勧誘を受けている際、親族や知人等の第三者と連絡することを希望したにもかかわらず、事業者が威迫する言動を交えてこれを妨害すること(同4号)。

現行法の下でも消費者が勧誘を受けている場所から退去することを事業者が妨害したときは「退去妨害(同1号)」に該当し、消費者は取消権を行使できます。改正法は、勧誘を受けている場所からの退去の妨害だけでなく、第三者への相談の妨害であっても契約の取消しを可能とするものです。

(3)契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にすること

消費者が消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、その契約の目的物の現状を変更し、その実施又は変更前の原状の回復を著しく困難にすること(同9号)。

現行法の下でも、いわゆる「さおだけ商法」のように、契約締結前に事業者が契約内容となっている商品やサービス等を先行して提供するなどして消費者が契約締結を断りにくいようにした上で契約を迫るようなケースでは、消費者は取消権を行使できます。改正法は、これに加えて、例えば、契約前に商品の内容を確認するなどとしてパッケージを開封するなどといった、必ずしも契約内容の実施とは言えなくても消費者が契約締結を断りにくくなるような一定の状況を事業者が生じさせた場合には契約の取消しを可能とするものです。

 

2 免責範囲が不明確な契約条項の無効

消費者契約法では、消費者の権利を不当に制限する一定の契約条項を無効とすることを定めています。この不当契約条項の一つとして、事業者の債務不履行や不法行為による損害賠償責任を制限もしくは免責する条項があります。

具体的には、例えば、事業者の故意もしくは重過失により生じた債務不履行や不法行為による損害賠償責任を一部でも免責する条項は無効とされます。一方、事業者の軽過失により生じた債務不履行や不法行為による損害賠償責任を免責する条項については、責任の全部を免責する条項は無効とされるものの、事業者の賠償責任額の上限を定める条項のように責任の範囲を制限する条項については基本的に有効とされています(以上、法8条1項2項)。

しかし、一般に用いられている消費者契約の条項の中には、上記のように本来は軽過失による場合に限って有効と認められるはずの事業者の責任制限条項につき、軽過失に限定されるべきことを明示せず、例えば「法律上許される限り、賠償限度額を●万円とする」というような規定の仕方をするものが見受けられます。このような条項は、専門家がきちんと解釈すれば、「法律上許される限り」という文言によって、この条項は事業者に故意や重過失がある場合には適用されないということは明確となっているとも言えるのですが、一般の消費者はそのような解釈は直ちにはできません。逆に、消費者が被害を受けても、軽過失による場合も含めて事業者の責任が限定されると即断して、事業者に対する請求を諦めてしまうおそれがある条項とも考えられるところです。

このようなことから、改正法では、事業者のこれらの責任を制限する条項については、軽過失による場合に限って適用されるものであることを明らかにしていない場合は無効とするということが明示されることとなりました(改正法8条3項)。

 

3 事業者による情報提供等の努力義務の強化

改正法では、消費者と事業者との間には情報力や交渉力の格差があること、また知識や経験は消費者によって様々であることを踏まえた事業者の努力義務が、第2次改正に引き続いてさらに追加されました。

具体的には、①事業者が定型約款(民法549条の2)を利用した消費者契約を勧誘するにあたって、消費者が約款開示請求をするために必要な情報の提供努力義務(改正法3条1項3号)、②契約により定められた消費者の解除権行使に関して必要な情報の提供努力義務(同4号)、③事業者が契約に定められた解約に伴う違約金や損害賠償額の予定に基づく請求を行うにあたって、これらの違約金等の算定根拠の説明努力義務(改正法9条2項)、などが追加されています。

 

(消費者庁作成資料による)