消費者契約法の改正について
弁護士 大髙 友一
平成30年通常国会において消費者契約法の一部を改正する法律が成立しました(平成31年6月15日施行予定)。消費者契約法は、消費者と事業者との間で締結される消費者契約に関して、事業者による不当な契約条項の使用や不当な勧誘行為を規制し、消費者の利益を守るための民事ルールです。今回の消費者契約法改正(第2次改正)は、平成28年の第1次改正(平成29年6月施行)に続くもので、不当勧誘に該当する行為の追加を中心とした改正がなされています。本稿では、この消費者契約法第2次改正の概要をご紹介します。
1.不当勧誘行為類型の追加及び要件の緩和
消費者契約法では、事業者が不当な勧誘行為を行い、その結果として消費者と契約を締結したような場合、消費者は契約を取り消すことができるものと定めています。今回の改正では、このような不当勧誘行為のうち消費者に「困惑」を生じさせる類型に大幅な追加がなされたほか、「不利益事実の不告知」に関する要件の緩和がなされています。
⑴ 「困惑」類型の追加
改正法では、以下の6項目の新たな「困惑」を生じさせる不当勧誘行為類型が追加されました。
① 不安をあおる告知
消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、進学・就職等の社会生活上の重要な事項もしくは容姿・体型等の身体の特徴・状況に関する重要な事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、事業者がその不安をあおり、正当な理由もなく、契約の目的となるものがその願望実現のために必要であると告げること(改正法4条3項3号)。
これはエステや就職セミナーなどで、消費者の不安をあおり、その不安につけ込んで化粧品や情報商材などを売り込む商法などを主にターゲットにしたものです。
② 恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用
消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、勧誘者に対して恋愛感情等の好意の感情を抱き、当該勧誘者も同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、事業者が、これに乗じて、契約を締結しなければ当該勧誘者との関係が破綻することになる旨を告げること(同4号)。
これは、消費者が営業担当者に恋愛感情等を有していることにつけ込んで、商品等を売り込むいわゆるデート商法を主にターゲットとするものです。
③ 加齢等による判断力の低下の不当な利用
消費者が、加齢・心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生計・健康等に関して、現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、事業者が、その不安をあおり、正当な理由もなく、契約を締結しなければ現在の生活の維持が困難となる旨を告げること(同5号)。
これは、高齢者を中心に判断力が低下した消費者を狙って、その判断力低下につけ込んで不安をあおって売り込む商法を主にターゲットにしたものです。
④ 霊感等による知見を用いた告知
事業者が、消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは消費者に重大な不利益が生じることを示してその不安をあおり、契約を締結することにより確実にその不利益を回避することができる旨を告げること(同6号)。
これは、いわゆる霊感商法をターゲットにしたものです。これまでは「貴方には悪霊が取り憑いている」などといった勧誘方法については、それが事実でないことを証明することが必ずしも容易ではありませんでしたが、今回の改正法により救済の道が広がります。
⑤ 契約締結前に契約内容の一部を実施
消費者が契約の申し込みまたは承諾の意思表示をする前に、事業者が契約内容の一部を実施し、その実施前の原状の回復を著しく困難にすること(同7号)。
これは、いわゆる「さおだけ商法」のように消費者が契約を承諾する前に契約作業を行ってしまい、それによって断りにくくして契約締結をせまるような商法を主にターゲットにしたものです。
⑥ 契約締結前に行った営業活動への補償 請求等
消費者が契約の申し込みまたは承諾の意思表示をする前に事業者が行った営業活動に関して、正当な理由もなく、当該消費者のために特に行ったものである旨もしくはその営業活動により生じた損失補償を求めること(同8号)。
これも「さおだけ商法」と同様に、消費者が契約を承諾する前にいろいろなサービスを提供し、それによって断りにくくして契約締結をせまるような商法を主にターゲットにしたものです。
⑵ 「不利益事実の不告知」の要件緩和
「不利益事実の不告知」による取消権は、事業者が一定の事項に関して消費者の利益になるような説明をしながら、それに付随する不利益な事実を説明しなかったような場合に認められる取消権です。例えば、南側に新しい高層マンションの建築計画があることを知りながら、日当たりが良いなどといって分譲マンションの購入を勧めるような場合がそれにあたります。現行法ではこの「不利益事実の不告知」による取消が認められるためには「不利益事実の不告知」につき事業者に故意があったことが必要とされており、このことが取消権の行使を妨げているとの指摘がなされていました。
そこで、改正法では、事業者の故意に加えて重過失があった場合にも取消権の行使ができるものとされました。この改正により、「不利益事実の不告知」の活用がより進むことが期待されています(改正法4条2項)。
2.無効となる不当な契約条項類型の追加
⑴ 消費者の後見等を理由とする契約の解除
居住用建物の賃貸借契約など一般に利用されている契約書の中には、消費者が成年後見等の審判を受けたことを契約解除事由と定めているものが少なくありません。しかしながら、成年後見制度の理念からすると、単に消費者が成年後見等の審判を受けたことの一事をもって事業者が契約を解除できるものとするのは不当性が高いものと考えられます。
そこで、改正法は、事業者に対し、消費者が後見、保佐、補助開始の審判を受けたことのみを理由とする解除権を付与する条項を無効とするものとしました(改正法8条の3)。
⑵ 事業者が自らの責任を自ら決める条項
現行法でも事業者の損害賠償責任を免除する条項や消費者の解除権を放棄させる条項は無効とされています。しかしながら、「当社が過失のあることを認めた場合に限り、当社は損害賠償責任を負うものとします」といった条項のように、一見、免責条項ではないような体裁を取りながら、その責任の有無の判断権を事業者に留保することによって、実質的に免責条項と同様の機能を果たしうる条項が用いられることがあります。
こういった条項は現行法で無効とされる免責条項等と同様に不当性が高いと考えられることから、改正法では、事業者が自らの責任の有無等や消費者の解除権の有無を決定する権限を付与する条項を無効とするものとしました(改正法8条、8条の2)
3.事業者の努力義務内容の明確化、具体化
改正法では、消費者と事業者との間には情報力や交渉力の格差があること、また知識や経験は消費者によって様々であることを踏まえた事業者の努力義務が追加されました。具体的には、①事業者は、契約条項を作成するにあたり、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ平易なものとなるよう努めること、②事業者は、契約の目的となるものの性質に応じ、個々の消費者の知識・経験を考慮した上で必要な情報の提供に努めること、とされています(改正法3条1項)。