消費税増税に伴う買いたたきの防止について
弁護士 太田 健二
1.買いたたきとは
令和元年10月1日から、現在8%の消費税が10%に上がることが予定されています。そこで、税率改定に伴い生じがちな問題である「買いたたき」について考えてみたいと思います。
買いたたきとは、取引先に対して、消費税の転嫁を拒否するパターンの一つで、簡単にいえば消費税率アップに伴い、税率がアップした分の代金を支払わなければならないのに、それに見合う代金を支払わない場合をいいます。
一般に消費税転嫁対策特別措置法と呼ばれる法律に規定があり、同法3条で、「特定事業者は、平成二十六年四月一日以後に特定供給事業者から受ける商品又は役務の供給に関して、次に掲げる行為をしてはならない。」として、「一 商品若しくは役務の対価の額を減じ、又は商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。」と規定されています。
買いたたきが行われると、公正取引委員会による調査が行われ、指導や場合によっては勧告・公表といったペナルティが科される危険があります。
買いたたきが問題となるのは、①買手が大規模小売事業であり、売手から継続して商品又はサービスの供給を受ける場合、②買手が大規模小売事業者でない場合でも、「個人事業者・人格のない社団等・資本金等の額が3億円以下である事業者」である売手から継続して商品又はサービスの供給を受ける「法人である事業者」の場合です。
2.実際に問題となる買いたたきの具体例
買いたたきは、売手(供給者)への支払を低く抑えたいと考え、意図的に行われる場合もありますが、多くは、うっかりミスによるものとされています。
起こりがちな例としては、従来、「消費税込」で支払金額を決めていた場合に、消費税率改定後も、支払金額を据え置く場合が挙げられます。この場合、本来であれば、税率改定に伴い消費税がアップした分、買手が売手に支払う金額も増やさなければなりませんが、支払金額を据え置くことで、売手に増税分の負担を押しつける結果になるため、このような行為を買いたたきとして規制しています。
このような場合、うっかりすると、買手側は、「代金は税込○○円で決めているから、税率改定後もその金額で支払っておけば問題ないだろう。」などと考え、あるいは、そのようなことを意識することもないまま、漫然と税率改定前と同じ金額の代金を支払うといったことが起きかねません。そして、それを不満に思った売手から公正取引委員会に通報されるといった事態になるおそれがあります。
なお、取引先である売手から、消費税増税分の値上げの要請・申出がない場合や、税率改定前から「税込価格」で契約していた場合であっても、消費税率が改定されれば、改定分の消費税額を上乗せした金額を支払わなければならないので注意してください。
買いたたきで問題となる事例が多いのは、「税込」で支払金額を決めていた場合の駐車場(課税対象となる場合)や建物の賃料、原稿執筆者に対する原稿料の支払いの場合などです。このような事案では、売手から値上げを言い出しにくかったり、売手も問題点に気づかず、従来の税込価格のままで支払が続いてしまう可能性がありますが、このような事案が多く公正取引委員会の調査対象となっているので注意が必要です。
そのほかにも、売手が免税事業者の場合に、買手が消費税率アップ分を上乗せせず、従来の価格のまま売手に支払いを行うといった場合も買いたたきに当たります。この場合も前記1②に当たるためです。
また、買手が販売する商品が食料品など軽減税率(8%)の対象品目である場合、買手が、自社の商品が軽減税率の対象品目であることを理由として、商品の包装材料等を納入する事業者に対し、包装材に適用される標準税率(10%)での代金の支払いを拒み、軽減税率分(8%)の代金しか支払わないといった行為も買いたたきに当たります。
なお、買いたたきには、一定の例外があり、消費税率が改定された分をそのまま代金に反映させない合理的理由があれば買いたたきとはされない場合もあります。
例えば、原材料の価格などが客観的にみて下落しており、当事者間の自由な価格交渉の結果、原材料価格等の下落を対価に反映させる場合や、買手からの大量発注、売手と買手による商品の共同配送、原材料の共同購入等により、売手にも客観的にコスト削減効果が生じており、当事者間の自由な価格交渉の結果、当該コスト削減効果を対価に反映させる場合などですが、例外に当たる事例は、かなり限定的に考えられています。
また、消費税率の改定には、経過措置が適用されるケースもあり、この場合は、10%への税率改訂後も8%の税率が適用されます。
この場合には、旧税率が必ず適用され、旧税率で支払をしても買いたたきには当たりません。経過措置が適用される分野としては、請負工事等や資産の貸付などいくつかの分野がありますので、この点についても留意して、不明な点があれば専門家に相談するなどした方が良いでしょう。
うっかり、買いたたきを行い、企業名や違反行為の内容が公表されるようなことになれば、社会的な信用を失うなど、経営上大きなダメージを受けることになってしまいますので、消費税の税率改定を控え、早めに自社の取引に問題がないかチェックしておくことをおすすめします。