民法改正について −シリーズ第1回 消滅時効−

法律コラム

民法改正について −シリーズ第1回 消滅時効−



弁護士 宮崎 慎吾

 

現行民法の改正については長い間議論がなされてきましたが、ついに今年6月2日に改正民法が公布され、実際に施行される日も近づいてきました。そこで、何回かに分けて、今回の改正によって大きく変化があると思われる点を、ごく簡単にではありますが紹介いたします。第1回のテーマは「消滅時効」です。

消滅時効とは、権利が一定期間行使されない場合に、その権利が消滅してしまう制度です。例えば、ある人にお金を貸した後、返済を請求しないまま消滅時効期間が経過し、借主に「もう時効だから払いません」と言われてしまうと、貸主はお金を返してもらう権利を失ってしまいます。

現行民法は、消滅時効の期間を原則として10年間とした上で、様々な例外を規定しています。

例えば、医者の診療債権は3年、旅館の宿泊代や飲食店の飲食代は1年、というように債権の種類ごとに時効期間が規定されています。また、商法でも民法の原則が修正され、「商取引」に基づく債権の時効期間は5年とされています。

しかしながら、上記のような区別は現代においては合理的理由が無いと考えられ、また、商取引については「商取引」であるかどうかの基準が不明確である等の問題もあったため、改正民法では、このような区別規定は削除(商法の規定も併せて削除)されることになりました。

これによって消滅時効期間は統一され、「債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年」「(権利を行使できることを知らなくても、客観的に)権利を行使することができるときから10年」となりました。もっとも、いくつかの例外はあり、例えば不法行為による損害賠償請求権の時効期間は、「損害および加害者を知ったときから3年(生命、身体の侵害については5年)」「(損害や加害者がわからない場合でも)不法行為のときから20年」とされています。また、特別法において短期消滅時効の規定が残るものもあり、完全に統一されたわけではありません。しかしながら、現行民法に比べると消滅時効期間はかなり整理され、分かりやすくなりました。

その他、消滅時効に関する重要な改正として、時効中断制度の改正があります。例えば、改正民法では「協議による時効の完成猶予」制度が新たに導入されました。これは、債権者、債務者が書面で合意をし、時効の完成を猶予することができるとしたもので、現行民法上は認められなかった制度です。債権者からすると、時効完成を止めるためだけに訴訟等を提起する手間が省けることになりますし、債務者としても、訴訟等によることなく債権者と協議ができるというメリットがあると考えられます。もっとも債務者から見ると、時効完成の利益を自ら放棄するものなので、合意をする際には、その効果について十分理解しておく必要があります。

以上、非常に簡単にではありますが、改正民法における消滅時効の改正点をいくつか紹介しました。

改正法の施行後に限った話ではありませんが、自分の債権・債務について、消滅時効がいつ来るのか、また消滅時効期間が近づいてきたときに何をしなければならないのかを考えておくことは非常に重要です。消滅時効の問題で困ったことがありましたら、是非ご相談下さい。