民法改正について(第5回 保証契約)
弁護士 宮崎 慎吾
「民法改正について」第5回です。今回は「保証契約」を紹介します。
保証契約とは、債務を負う者(主債務者)がその債務の履行をしないときに、主債務者に代わって債務を履行することを約束する契約です。
債権者と保証契約を締結した者を保証人と言い、保証人は他人(主債務者)の債務を履行する責任を負うこととなります。そのため、債務の内容をしっかりと確認せずに保証人となった場合には、思わぬ大きな責任を負わされることがあります。
そこで改正民法では、保証人に対して、どのような債務を負うことになるのかを十分に確認できる機会を与えることにしました。
具体的には、個人が保証人になる場合、極度額を定めない根保証契約は無効とされました。根保証契約というのは将来発生する可能性のある債務まで保証する契約のことで、契約時には正確な保証金額が分かりません。そこで、主債務者の債務がどれだけ膨らんでいっても、保証人は最大○○円までしか支払う義務を負いません、とあらかじめ決めてしまうのが極度額の定めです。極度額の定めを義務とすることで、保証人が想定外に大きな債務を負わされることを防いでいます。旧法でも貸金や手形割引債務といった類型の契約においては同様の規定があったのですが、改正によってそれ以外の根保証契約においても極度額の定めが必要とされました。
次に、事業のための債務保証について、保証契約締結日の1ヶ月前までに保証人の保証意思を表示した公正証書作成が必要となりました。ただし、主債務者が法人で経営者等が保証人になるときや、主債務者が個人でも共同事業者が保証人になるとき等には作成は不要とされています。つまり、事業と関係の薄い人が事業上の債務を保証する際には、保証の意思を十分確認した上でなければ保証契約はできません、ということです。
最後に、保証人に対する情報提供義務が新設されました。保証人は、主債務者に代わって債務を履行しなければならない立場にありますから、主債務者が負う債務の状況を正確に知ることはとても重要です。
新設された情報提供義務は、おおまかに言うと、①保証人になってもらうとき、②保証人から情報提供の請求があったとき、③主債務者が期限の利益を喪失したとき、の3場面で発生します。
まず、①「事業のための債務を主たる債務とする保証」で「個人が保証人になるとき」には、主債務者は、保証人になってもらおうとする人に対して、財産及び収支の状況、他に負担している債務の有無、その額、および履行状況等を説明する必要があります。この情報提供義務が果たされず、かつ、それを債権者が知り、または知ることが出来た場合、保証人は保証契約を取り消すことが出来ます。こんなに資産状況が悪いと知っていたら保証なんてしなかったのに、という保証人を保護するためです。
次に、②保証期間中に保証人から債権者に情報提供の請求があったときは、債権者は、主債務者からの不履行の有無、残額、そのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供する必要があります。この情報提供請求は、債務者から委託を受けて保証人になった者ならば誰でも(法人であっても)行使できます。個人、法人に限らず保証人にとって必要な情報であり、債権者にとっても、提供するための労力がそれほど大きくない情報だからです。
最後に、③主債務者が期限の利益を喪失した場合には、債権者はその事実を知ってから2ヵ月以内に、保証人に対して期限の利益を喪失したことを説明する必要があります。期限の利益を喪失するということは、主債務者に債務不履行(支払が滞る等)があるのが通常です。この場合、今後の支払も期待できない可能性が高く、そのまま放置していると遅延損害金が膨らんでいく等保証人に不利益になります。そこで、保証人に早期支払いの機会を与えるためにこのような情報提供義務が新設されました。なお、この情報提供義務は保証人が個人である場合に限られます。
以上、保証に関する民法改正の概要を簡単に紹介いたしました。保証契約は法人、個人にかかわらず身近な契約であることから、改正民法の中でも影響が大きな部分ではないかと思います。実際に、すでに保証契約を締結している場合や、これから保証契約を締結しようとする場合に、民法改正がどう影響するのかという法律相談が多くあります。
もしも保証の問題で困ったことがありましたら、是非ご相談下さい。