景品表示法への課徴金制度導入
弁護士 大髙 友一
■景品表示法の役割と重要性
昨年秋に、関西の有名ホテルやレストランのメニュー表示において実際に使用していた食材とは違う食材名がメニューに書かれていたということがわかり、大きな社会問題となりました。まだ、皆さんの記憶にも新しいところかと思います。
メニュー表示にとどまらず、商品やサービスの広告とか表示というものは、売り手にとっても買い手にとっても重要なものです。売り手にとっては、商品やサービスの情報を提供することにより、数ある同じような商品から自分たちのモノやサービスを買ってもらえるようにするために、買い手にとっては少しでも良いものを買うための判断材料にするために、広告や表示というものが非常に重要な役割を果たします。
このような広告や表示において、事実ではない表示がなされたり、実際よりもよく見せかける表示がなされたりすると、買い手は適切に商品やサービスを選択できないようになりますし、売り手の方も真面目に広告や表示をしている売り手の商品やサービスが売れにくくなってしまうことになってしまいます。
もちろん、自由競争のマーケットにおいては、売り手も買い手も、その利益が最大化するように行動することが大前提ですから、売り手が他の競合商品との差異を積極的にアピールするというのはむしろ当然の行動です。しかし、このアピールが行き過ぎて、買い手の自由且つ適切な選択を阻害するようになってくれば、むしろ弊害の方が大きくなってきます。なぜなら、商品やサービスに関する正確かつ十分な情報を買い手が有することが、買い手の自由かつ適切な商品選択の前提であり、自由競争の大前提だからです。
このようなことから、商品やサービスの広告や表示については、いわば自由競争の土俵に関するルールとして、適正な表示がなされるよう多くの国で規制がなされており、日本でも景品表示法という法律によって不正表示について規制を行うとともに、行政等による執行手段が整備されています。日本の景品表示法はもともと独占禁止法の特則として昭和35年に制定され、その後、広告や表示に関する問題が生じるたびに不当表示規制や執行手段が強化されてきました。平成21年からは消費者庁の発足に伴って所管省庁が公正取引委員会から消費者庁に移され、消費者の利益保護のための法律として活用されています。
■今国会で成立した景品表示法改正
昨秋にメニューの不適切表示が社会問題化して以降、政府において景品表示法の執行強化が検討され、本年3月に法案が国会に提出され、6月6日に成立しました。この改正法の主なポイントは以下のとおりです。
①行政の監視指導体制の強化
消費者庁が持つ景品表示法の執行権限を関係省庁や都道府県にも委任ないし付与。
②適格消費者団体等との連携
景品表示法上の差止請求権限を持つ適格消費者団体に必要な情報提供
③事業者のコンプライアンス体制の確立
事業者に表示等の適正な管理のための必要な体制整備を義務づけ。具体的内容については、法施行後、消費者庁において必要な指針を定める。
④景品表示法違反行為に対する課徴金制度整備の検討
法施行から1年以内に検討の上、必要な措置を講じる。
以上のポイントの中でも最もインパクトのある事項は、④の景品表示法違反行為に対する課徴金制度整備の検討でしょう。景品表示法違反行為に対する課徴金制度の導入は、平成20年にも一度検討され法案も国会提出されていますが廃案となり、その後は大きな動きはない状況が続いていました。今回の改正法上は法施行から1年以内に検討とされていますが、実際には改正法の国会審議と並行して政府の消費者委員会において課徴金制度の検討が行われ、改正法成立直後の6月10日に課徴金制度導入の必要性を指摘する答申が出されており、早ければ今秋の臨時国会に改正法案が提出される見込みです。
■提案されている課徴金制度の概要
消費者委員会の答申の主なポイントは以下のとおりです。
①景品表示法違反行為に対するインセンティブを削ぐため、課徴金制度を導入する必要背が高い
②有利誤認表示(商品やサービスを実際よりも「良い」ものと見せる表示)や優良誤認表示(商品やサービスを実際よりも「お得な」ものと見せる表示)を対象とすべき。
③不当表示がなされた場合には、事業者において不当表示を意図的に行ったものではなく、一定の注意義務を尽くしたことについて合理的な反証がなされない限り、原則として課徴金を賦課すべき。
④中小企業に配慮し、一定の規模以下の事案については、課徴金の対象から除外する。
⑤課徴金率については、違反事業者に不当利得を残させないという観点から、適切な率を今後検討する。
⑥違反事業者が自主的に返金等の被害回復を行った場合には、課徴金額から一定の控除をするような仕組みについても検討する。
以上のポイントのうち、課徴金率については、平成20年改正法案において提案されていた不当表示の対象となった商品等の売上額の3%というのが今後の検討における一つの参考にはなりますが、前記答申では違反事業者に不当利得を残させないという観点が強調されており、これよりは高い率が提案される可能性が高いのではないかと思われます。
■おわりに
いずれにせよ、商品やサービスの内容が高度化している現代社会においては、消費者取引における広告や表示の適正確保はますます重要になってきています。事業活動を行うにあたっては、これまで以上に広告や表示に関するコンプライアンスに留意が必要でしょう。