広告掲載も「勧誘」に該当する?! 消費者契約法における「勧誘」の意義について-クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決-
弁護士 大髙 友一
弁護士 佐藤 碧
消費者契約法上、事業者が消費者を「勧誘」するに際し、同法上規定されている不当な行為(不実告知等)が行われた場合には、契約の取消等が可能とされています。
この「勧誘」要件の解釈については議論のあるところでしたが、最高裁平成29年1月24日判決は、この「勧誘」の意義について判断を示したものとして注目されていますので、以下でご紹介いたします。
1.事案の概要
被上告人は、クロレラを原料にした健康食品の小売を行っているところ、新聞折り込みチラシに、クロレラの効用として免疫力を整え細胞の働きを活発にするなどの効用がある旨の記載や、クロレラの摂取により高血圧、腰痛、糖尿病等の様々な疾病が快復したという体験談などの記載を行って配布していた。適格消費者団体である上告人は、上記チラシの配布行為は消費者契約法上の「勧誘」であって不実告知(同法4条1項1号)に該当するとして、同法12条1項及び2項に基づき差し止めを求めていた。
2.争点
チラシの配布等の行為が消費者契約法に規定される「勧誘」(4条1項等)に該当するか。
原審(大阪高判平成28年2月25日判時2296号81頁)においては、事業者が行う不特定多数の消費者に向けて広く行う働きかけは「勧誘」には含まれないから、本件チラシの配布は「勧誘」には該当せず、適格消費者団体による差止対象とならないと判断された。
3.最高裁の判断
最高裁は以下のように判断し、本件におけるチラシの配布行為について、原判決の「勧誘」についての判断は法令の解釈適用を誤ったものと判断した。ただし、被上告人は既に上記チラシの配布を行っておらず、今後も行うおそれがないと認められることから、上告人による本件差止請求は結論として棄却している。
「ところで、上記各規定にいう「勧誘」について法に定義規定は置かれていないところ、例えば、事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るから、事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を上記各規定にいう「勧誘」に当たらないとしてその適用対象から一律に除外することは、上記の法の趣旨目的に照らし相当とはいい難い。
したがって、事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、そのことから直ちにその働きかけが法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たらないということはできないというべきである。」
4.本判決の意義
消費者契約法上、パンフレットやチラシ、広告のような不特定多数に向けた働きかけが「勧誘」に含まれるかどうかについては、法施行時から議論があり、法改正の議論も行われてきたところです。この点に関して、従来の消費者庁の公式見解は、「客観的にみて特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思形成に直接影響を与えているとは考えられない場合は『勧誘』に含まれない」(消費者庁逐条解説)ものとされていましたが、本判決は、この「勧誘」要件について、最高裁として、広告等の不特定多数の者に対する働きかけについても「勧誘」に該当する場合があるとの判断を示しました。
本判決の判旨においては、具体的にどのような広告であれば「勧誘」に該当するのかについて判断基準は示されていません。「個別の消費者の意思形成に直接影響を与える」という点が重視されていると思われますが、どのような広告がそういった場合に該当するのかについても示されていません。したがって、具体的な「勧誘」該当性の判断基準については、なお裁判例や議論の蓄積が行われる必要があると考えられます。
しかし、本判決によって、商品やサービスについての広告が、その内容によっては消費者契約法違反による契約の取り消しにつながる、あるいは適格消費者団体の差止請求の対象となる可能性が認められたものであり、消費者被害救済の観点のみならず、企業法務の観点からも実務上の意義はきわめて大きいといえます。
5.事業者に求められる対応
消費者契約法の観点以外にも、広告については、横断的には景品表示法、業態によっては特定商取引法や健康増進法などの法律により規制されており、不当表示に該当する場合には行政処分の対象となりえます。特に、景品表示法は、再発防止などを命じる措置命令の他、課徴金納付命令の制度が新設され、平成28年4月の施行後、既に3件ⅰの課徴金納付命令が出されるなど、注目を集めているところです。
今回の最高裁判決を受け、不適切な内容の広告については、さらに民事上の契約取り消しや差止請求の対象となりうるということで、広告に対する消費者の目はより厳しくなることが予想されます。景品表示法上のガイドラインⅱ等を参考に、改めて広告の適正や管理体制の見直しを行う必要があると思われます。
ⅰ平成29年1月27日 三菱自動車工業株式会社に対する件、平成29年6月7日 日本サプリメント株式会社に対する件、
平成29年6月14日 三菱自動車工業株式会社及び日産自動車株式会社に対する件
ⅱ「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年11月14日内閣府告示276号)