外国人技能実習制度の抜本改正(育成就労制度の新設)について

法律コラム

外国人技能実習制度の抜本改正(育成就労制度の新設)について



弁護士 太田 健二

弁護士 下迫田啓太

1 はじめに

外国人技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労」制度を新設することなどを内容とする改正出入国管理法などが、令和6年通常国会で成立しました。改正法の施行時期は、公布から3年以内とされており、令和9年(2027年)の夏までに現行の技能実習制度が大きく変更されることになりますので、その改正内容についてご紹介いたします。

なお、本稿は、法改正の直後の令和6年6月下旬時点での情報を元に執筆していますので、その点につきご留意いただければと思います。

 

2 改正の趣旨・目的

技能実習制度は、国際協力の一環として、日本で学んだ技能実習生が技能・技術・知識等を母国(開発途上国等)に持ち帰り、母国の経済発展に寄与する人材づくりに寄与することを目的としてスタートしましたが、実際には、日本での労働人材の確保が主な目的になってしまっていると言われており、厳しい職場環境に置かれた技能実習生の失踪などの問題も相次ぎました。

そのため今回の改正では、技能実習制度を抜本的に改め、長期的に日本の産業を支える外国人材を育成・確保することを目的とした「育成就労」制度が新設されることになりました。

 

3 主な改正内容

今回の改正により、現行の技能実習制度は、新設される育成就労制度に移行することになります。主な変更点は以下の通りです。

⑴ 育成就労制度の目的

現行の技能実習制度の目的は、国際貢献・人材育成とされています。これに対して、新設される育成就労制度は、育成就労産業分野(育成就労制度が対象とする職種・分野)において、「特定技能」制度1の「特定技能1号」水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保することを目的としています。

⑵ 対象職種・分野の変更

技能実習制度が対象とする職種・分野は、特定技能制度が対象とする職種・分野(特定産業分野2)と必ずしも一致していませんでしたが、育成就労制度では、原則として、対象とする職種・分野(育成就労産業分野)と特定産業分野を一致させることで、育成就労の終了後に特定産業分野で活躍できる外国人材を育成・確保することを目指すことになりました。

このような観点から、現行の技能実習制度の対象職種・分野について、変更がなされる予定です。具体的な育成就労制度の対象職種・分野(育成就労産業分野)は、今後、主務省令により指定されることになっています。

⑶ 期間等の変更

技能実習制度育成就労制度の期間等の違いは、下記の図の通りです。育成就労制度は、特定技能制度への移行を想定した制度となっており、期間も原則3年となっています。

⑷ 転籍の柔軟化

技能実習制度では、技能実習生の転籍(就労先の変更)について、「やむを得ない事情」(現在の実習実施者の下で技能実習を続けさせることが技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護という趣旨に沿わない事情。例:人権侵害行為など)がある場合を除いて、認められていませんでしたが、育成就労制度では、転籍を認める「やむを得ない事情」について、その範囲を拡大・明確化するとともに、手続を柔軟化することになりました。

加えて、現行制度では認められていない技能実習生本人の意向による転籍についても、①日本語や技能などで一定の水準を満たしていることや、②同一機関での就労が一定期間(業界ごとに1~2年の範囲内で決定)を超えていること、③同一の業務区分内での転籍であること等を条件に、認められることになりました。なお、国会審議では、転籍の柔軟化によって地方から都市部に人材が流出するのではないかという懸念が出され、与野党の修正協議を経て、大都市圏に過度に就労が集中しないように必要な措置を講ずる旨が附則に明記されました。

⑸ その他の制度変更

技能実習制度の下では、技能実習生が母国の送出機関に手数料などを支払い、多額の借金を抱えた状態で来日するケースが認められました。今回の改正では、送出機関への適正な費用等の基準を定め、育成就労計画の認定にあたり、当該送出機関がこの基準に適合しているかを審査することとされました。

また、日本における外国人労働者の監理団体などについても、制度変更が行われることになっています。

主な変更箇所 (現行)

技能実習制度

(新設)

育成就労制度

制度目的 人材育成を通じた国際貢献 特定技能制度に繋がる人材の育成および確保
対象職種・分野 特定産業分野とは一致せず 原則として特定産業分野と一致させる
在留期間 最長5年 原則3年
在留資格(名称) 「技能実習(1~3号)」 「育成就労」
転籍の可否 原則不可 一定要件の下で認める
派遣の可否 不可 農業・漁業分野では可
来日時点での

日本語能力

なし(介護分野を除く) 原則として日本語能力試験N5レベル(など)
産業分野ごとの受け入れ人数枠 なし あり

4 育成就労制度への移行時期など

改正法は、令和9年(2027年)の夏までに施行されますが、具体的な制度開始時期については、今後、政令により決定されます。

また、施行日時点において、現行の「技能実習」の在留資格で在留する技能実習生の在留資格・在留期間・技能実習計画は、現行制度のまま運用されます。

なお、激変緩和措置として、制度開始から3年の移行期間が設けられる見込みであり、育成就労制度の全面的な実施時期は、6年後の令和12年(2030年)ころになる見通しです。

 

5 受入企業への影響

育成就労制度は、将来にわたって日本で活躍する人材を育成・確保することが目的とされています。国際的な人材獲得競争が激化する中で、育成就労制度には、日本の経済社会の重要な担い手となっている外国人材の安定的な確保に資することが期待されているといえます。

他方で、育成就労制度の下では、現行制度では例外的な場合にしか認められていなかった転籍(就労先の変更)の条件が緩和され、一定の要件を満たせば認められるようになります。これにより、地域間・受入企業間での人材の獲得競争の激化、大都市圏への人材の流入も想定されます。外国人材を「安価な労働力」と考えるだけでは人材の定着は図れず、労働環境や処遇の改善・向上に努めることや、技能や成果を正当に評価することが、より一層重要になるだろうと考えられます。

また、育成就労制度は、特定技能制度への移行を想定した制度であるため、受入企業としては、一定の技術・技能の習得や日本語能力の向上のための取組みを行うべきことになります。このため、現行の技能実習制度と比べ、受入企業の負担が増加する可能性があります。

 

6 おわりに

新設の育成就労制度については、国会で改正法が成立したばかりであり、制度の詳細や運用方針などが決まっていない点も多くあります。今後制定される予定の主務省令やガイドラインにより、具体的な制度内容や運用方針が示される見込みですので、動向を注視する必要があります。今後、3年以内に予定されている新制度の開始に向けて、ガイドラインなどを踏まえて準備等を行うことが求められていると言えます。

 

 

 

1 「特定技能」制度は、人材の確保が困難な一部の産業分野等における人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を労働者として受け入れる制度です。技能実習制度と異なり、一定の技能や日本語能力を持っていることが要件となっています。

2 特定技能制度の対象職種・分野(特定産業分野)としては、「介護」、「ビルクリーニング」「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」、「建設」、「造船・舶用工業」、「自動車整備」、「航空」、「宿泊」、「農業」、「漁業」、「飲食料品製造業」、「外食業」の12分野が指定されているほか(ただし「介護」は別途在留資格があるため特定技能1号のみ)、令和6年3月の閣議決定で、新たに「自動車運送」、「林業」、「鉄道」、「木材産業」の4分野が追加されました。

 

(参考資料)

・厚労省HPより(https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001231483.pdf)

・法務省HPより(https://www.moj.go.jp/content/001407013.pdf)

・公益財団法人国際人材協力機構HP(https://www.jitco.or.jp/ja/news/article/33762/)

・出入国在留庁HP(https://www.moj.go.jp/isa/05_00042.html)