取引先が倒産!債権回収を諦めていませんか?(2)商事留置権の存在を知るベし!~取引先からの預かり物はありませんか?~
弁護士 豊島 ひろ江
売掛債権を有する取引先について破産開始決定通知が来たとき、「やられた!何も担保権ないし、破産したらどうしようもない…」「取引先から加工用に預かっている資材があるのだけど、売掛金を回収できないなら、早く引き上げてもらいたい。」となっていませんか?ですが、取引先から財産的価値のある所有物を預かっている場合には、「商事留置権」を検討しましょう!
商事留置権とは
①両当事者が法人や事業者などの商人で、②両当事者の事業から生ずるなど商行為により生じた債権が存在し、③弁済期が到来しているときには、債権者は、④契約による保管など商行為により自己の占有開始をした、⑤債務者所有の物又は有価証券を留置することができます。この権利を商事留置権といいます(商法521条本文)。
たとえば、取引先から加工用の資材を保管した状態で加工商品を納めていたところ、加工代金の支払がないうちに取引先が破産した場合や、取引先の商品の金型を預かって委託製造を行っていたところ取引先が破産した場合など、加工代金・売掛代金の支払いがあるまで取引先所有物全部の引渡しを拒絶することが出来ます。
また、倉庫業者が取引先から商品を預かって保管をしていたところ、取引先が倉庫代金を支払わずに破産してしまった場合や商品の配送業務を委託されていたところ、配送前に委託先が破産を開始した場合には、倉庫代金・運送代金の支払を受けるまでは商品全部の引渡を拒むことが出来ます。
破産開始決定があった場合
売掛債権先である取引先が破産を開始した場合、破産財団に属する財産につき存する商事留置権は、特別の先取特権に転化し、別除権として破産手続によらないで行使することができます(破産法66条1項、65条1、2項)。したがって、保管物に財産的価値がある場合、費用をかけて、動産競売を行い、換価代金から優先弁済を受けるかどうかを検討するべきでしょう。
なお、民事再生・会社更生手続開始の場合には、商事留置権は別除権・会社更生担保権として保護を受け、保管物が債務者の事業に必要な場合には、再生債務者・更正管財人との間で受戻・和解的解決による債権回収の可能性があります。
商事留置権の成立要件
商事留置権が成立するのは、商人どうしの取引に限定されますので、個人顧客との取引、たとえば、個人から自動車の修理を受けて修理したのに、修理代金を回収できない場合には商事留置権は成立しません(この場合には民事留置権となります。なお民事留置権は破産の場合には消滅してしまいます)。また、商事留置権は、保管物は取引先の所有物である必要があり、第三者の所有物は対象にはなりません。
その他、引渡前に工事代金が不払いのままで注文者が破産した場合に、ビルや敷地について商事留置権が成立するかなども問題となります。
活用ポイント! 商事留置権行使のために
以上のとおり、取引先の物を預かっていれば、特に担保の契約がなくても、その物の返還を拒絶することにより一定の回収を図ることができる可能性があります。加工や修理のために取引先から材料や商品を預かったりする場合には、「預かり物」が担保になることを思い出してください。「他人の物」という意識から、破産管財人等から返還を求められた場合、あるいは取引先が苦しい状態になったときに返還を求められ、うっかり無条件に返還をしてしまうことのないよう、「物の返還は代金と交換」という意識を忘れないようにしましょう。従業員の方が知らずに返還することのないように、日頃から認識を共通にしておきたいですね。もっとも、価値の無い預かり物は早急に引き取りに来てもらうよう請求することも大事です。なお、返還を拒絶するには、取引先への債権が弁済期にあることが要件となっていますので、万一に備えて、取引先が破綻したときには当然に期限の利益を喪失する合意などを予め契約しておくことは重要です。詳しくはご相談ください。