創業時の株式保有の考え方と注意事項
弁護士 鍵谷 文子
働き方に関する価値観の変化、国や自治体による様々な創業支援体制、ITの進化などにより、自分のビジネスで起業することを検討される方は今後も増えていくと思われます。
起業にあたって株式会社を設立する場合、出資した創業者は、会社の『株式』を持つことになります。一人で創業し一人で100%の株式を持つ場合は問題となりませんが1、仲間と共同して創業する場合などには、各人が株式を何パーセントずつ持ち合うかが非常に重要です。持ち合い方によっては、後々になって大きなトラブルに発展することもありえます。
本記事では、どのような場合に問題となるか、トラブルを避けるための取り決め、について簡単に整理してみたいと思います。
1 どのような場合に問題となるか?
株式会社の設立にあたっては、様々な機関設計の選択肢がありますが、ミニマムで置かなければならない機関が、株主総会と取締役です(「取締役会非設置会社」といいます。)。
株主総会は株式会社の最高機関であり、取締役会非設置会社の株主総会では株式会社に関する一切の事項を決議することができます(会社法295条1項)。
① 共同で創業した会社の株主総会で特に問題となりうる場面として、取締役の選任の場面が考えられます。創業取締役を再任する、第三者を新たに取締役に入れる、などの場面です。
取締役の選任(再任)を株主総会で決議するためには、過半数の賛成が必要です。
【Case 1】
創業者であるAさんとBさんの2人がそれぞれ50%ずつの株式を持っているケースを考えてみましょう。
この場合、AさんとBさんの両方が賛成すれば問題ありません。一方で、創業後に2人の経営方針に関する意見が食い違ってしまったらどうでしょうか。Aさん、Bさんのいずれも「過半数」の株式は持っていませんので、決議ができません。
② 次に、設立した会社の経営が順調に進み、新たに大手企業との取引ができることになったことをきっかけに、監査役を入れようとする場面(監査役設置会社に移行する場面)はどうでしょうか。
新たに監査役という機関を置くためには、まず定款変更が必要です。定款変更を株主総会で決議するためには、3分の2以上の賛成が必要です。
【Case 2】
3人で創業した会社で、Aさんが34%、BさんとCさんの2人がそれぞれ33%ずつの株式を持っているケースを考えてみましょう。ここで、BさんとCさんは今も同じ意見のもとで経営しているのですが、Aさんは途中で意見が合わなくなり、会社を辞めてしまいました。Aさんは株主総会にも来ないと言っています。
この場合、BさんとCさんの2人だけでは合計66%しかありませんので、3分の2には足りず、決議ができません。
2 トラブルを避けるための取り決め(株主間契約)
⑴ 上記のようなトラブルを避けるため、最初から株式の保有割合を、Aさん67%、Bさん33%などのように差をつけておくなどの工夫も考えられます。
⑵ もっとも、現実的には、一緒に起業した仲間とは株式の保有割合も平等にしたいと考えるケースも多いでしょう。このような場合には、株主間契約を締結しておくことが考えられます2。
株主間契約でまず取り決めておきたい事項は、上記1の各ケースをふまえ、①意見が一致しないときの対応、②会社を辞めるときの対応、です。
①については、例えば、契約で、意見が一致しないときは「協議に応じなければならない」「真摯に協議する」などを規定しておくことなどが考えられます。あくまでも「協議」であり、究極的には、協議をしても最後まで意見が一致しない場面も想定されますが、協議のきっかけがあらかじめ約束されていることは重要です。
②については、会社を辞めるときは、会社に残る株主が株式を買い取ることができることを規定しておくことが考えられます。例えば、AさんBさんのうちBさんが会社を辞める場合には、AさんがBさんの保有株式を買い取る、という取り決めです。この規定では、株式の買取価格(最初の出資額、買取時点の時価、無償など)についてもあらかじめ決めておくこともトラブル回避のためには重要です。
3 創業に向けて仲間と一生懸命に取り組んでいる時点では、意見が一致しなくなる未来はなかなか想像しづらいところかと思います。
しかし、万が一そのような場面に至った場合に備えて、お互いが協議しスムーズに新たな道を歩むことが選択できる仕組みを取り決めておくことはとても重要です。
意見が対立するような状況に至ってからの契約締結は難しいため、会社設立前に「あらかじめ」契約しておきたいところですが、会社設立後であっても契約は可能です。ぜひご参考としていただければと思います。
1 この場合も、会社設立後に第三者から新たに出資を受けるような場合には、その出資者に何パーセントの株を持ってもらうか、という同様の問題が生じます。
2 ⑴のように最初から株式保有割合に差をつける場合でも、意見が一致しないときや会社を辞めるときを見据えて株主間契約を締結しておくことは有益です。