債務者財産の開示制度の強化について(民事執行法改正)

法律コラム

債務者財産の開示制度の強化について(民事執行法改正)



弁護士 大髙 友一

 

個人的な貸金や取引上の債権を任意に支払ってもらえない場合、債権者は、債務者に対して民事訴訟を提起して判決を取得し、その上で債務者の財産を差し押さえて競売するなどして強制的にその満足を得ることができます。このように法律上の債権は、原則として、最終的には国家権力の助力を得てこれを強制的に履行させることができることになっており、この強制的な履行を図る手続のことを強制執行手続といいます。

この強制執行手続がなければ、任意に履行しようとしない債務者がいても、債権者は指をくわえて見ているか暴力的な手段で自ら取り立てるしかないということになりかねず、結果として、だれもお金を貸さないようになりますし、また取引も安心してできないこととなります。この意味で、きちんとした強制執行手続があるということは社会の基盤の一つとさえいえます。

しかしながら、現行の強制執行手続には、とりわけ個人的な貸金や取引上の債権といった金銭債権を強制執行手続によって満足を得るためには、一つ大きな障害があるとかねてから指摘をされていました。具体的にいうと、現在の強制執行手続において債務者の財産の差押えや競売を求めるためには、債権者において差押え等を求める財産を具体的に特定する必要があるという点です。つまり、債権者が債務者の財産の在りかを具体的に知らなければ、強制執行を求めようにも求めようがないという大きな問題があるのです。

もちろん、債務者が本当に無一文なのであればそれは致し方がありませんが、真実は債務者は十分な資産を有しているにもかかわらず、債権者がその情報を把握できないとの一事をもって強制執行をすることが事実上できないものとすれば、折角の強制執行手続も絵に描いた餅となりかねません。

このようなことから、2003年の民事執行法改正により債務者の財産に関する情報を債務者自身に陳述させる「財産開示手続」が導入されました。しかし、債務者が財産開示手続に応じなかった場合や虚偽の陳述をした場合の制裁が不十分なため、実効性に欠けるとしてあまり利用されていないのが現状です。そこで、2019年の通常国会にて、債務者財産の開示制度の実効性を高めるための民事執行法改正がなされました。以下、その概要をご紹介します。

 

1.財産開示手続の強化

現行法では財産開示手続の申立ができるのは確定判決等を有する債権者に限られていますが、改正法では、仮執行宣言付判決を得た者や公正証書により金銭の支払いを取り決めた者等についても申立が可能となります。つまり、1審勝訴判決を得たもののまだ判決自体は確定していない段階や養育費などの支払いを公正証書で取り決めた場合においても、財産開示手続が利用できることになりました。

また、現行法では債務者が財産開示手続に応じなかった場合や虚偽の陳述をした場合の制裁は30万円以下の過料しかありませんが、改正法では6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰が科せられることになりました。

 

2.債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設

⑴ 改正内容の概要

2003年の民事執行法改正でも公的機関や金融機関等からの情報取得手続の新設が検討されましたが、個人情報保護の観点から見送りされていました。しかし、債務者自身に自主的な財産開示を期待することには限界があることから、改正法では、債権者による情報取得の必要性、個人情報保護の必要性、第三者の実務上の対応能力などを考慮しつつ、以下の三つの情報取得手続を導入することとしています。

① 債務者の不動産にかかる情報を取得する 手続

不動産登記を扱う登記所(法務局等)に対して、債務者が所有権の登記名義人である土地や建物の情報の提供を求める手続です。不動産登記情報は誰でも閲覧が可能ですが、権利者毎に記録されているわけではないので、財産調査に効果的な手続となります。

② 債務者の給与債権にかかる情報を取得す る手続

市町村や日本年金機構等に対して、債務者が給付を受ける給与等にかかる情報の提供を求める手続です。この給与債権に関する情報は債務者の私生活上の利益に関わる面があることから、特に履行確保の必要性の高い扶養義務等にかかる請求権又は生命・身体侵害による損害賠償請求権を有する場合に限り認められることになっています。

③ 債務者の預貯金債権及び振替社債等に かかる情報を取得する手続

銀行等に対して債務者が当該銀行等に保有する預貯金に関する情報の提供を、証券会社等に対して当該証券会社等で記録されている振替社債等の情報の提供を求める手続です。最高裁判例により銀行口座等の差押にあたっては金融機関名だけでなく支店名まで特定する必要があるとされていることから、その特定をするにあたって効果的な手続となります。

⑵ 要件及び手続

第三者への情報取得手続は、債権者より裁判所に対して申立を行い、裁判所が第三者に対して情報提供を命ずる決定を出すことによって行われます。この第三者への情報取得手続を利用できるのは、改正後の財産開示手続を利用できる債権者と基本的に同一です(②の債務者の給与債権にかかる情報を取得する手続を除く)。ただし、③の債務者の預貯金債権及び振替社債等にかかる情報を取得する手続を除き、まずは財産開示手続を行って、債務者自身による開示をする機会を先行して与えることが必要とされています。もっとも、裁判の決定による強制的な開示が控えていることから、現行法よりも債務者による自主的な開示がなされることがより期待できるものと考えられるところです。

 

3.施行期日

この民事執行法改正は2020517日までの施行が予定されています。なお、債務者の不動産にかかる情報を取得する手続についてのみ、2021517日までの施行とされています。