京都国際調停センターが開設されました! ~国際調停のすすめ~

法律コラム

京都国際調停センターが開設されました! ~国際調停のすすめ~



弁護士 豊島 ひろ江

 

2018年11月20日、日本初の国際調停の常設機関を備えた調停専門機関として、京都国際調停センター(Japan International Mediation Center in Kyoto, JIMC-Kyoto)が、同志社大学キャンパス内に開設されました(https://www.jimc-kyoto-jpn.jp)。同センターでは、主に海外取引に関連する紛争について、国際的に活用されている手法による調停を実施し、日本企業や海外企業の国際的な紛争を解決に導きます。今後、国際仲裁と同様に、国際調停が、国際的な紛争解決手段の一つして、日本企業による利用が期待されています。

 

1.国際調停のメリット

紛争解決手段としては、裁判・仲裁・調停などの手続がありますが、国際的な紛争解決の手段としては、国際仲裁が主流です。しかしながら、国際仲裁は、仲裁機関・仲裁人・代理人費用等の仲裁コストが高額になったり、英米法系の証拠開示手続が負担になったり、一回的解決と言いながら仲裁判断の取消にまで至ると数年を要したりするなど、いったん紛争になった場合の当事者の経済的・時間的負担は相当なものになる傾向にあります。また、仲裁や裁判は、対立構造が鮮明で感情的な対立が助長され、取引を継続するという選択肢を失ってしまうことも少なくはありません。その点、国際調停は、後述するように、短期間・低コストによる解決が図られる可能性があり、また単に金銭的な解決のみならず、取引の継続を踏まえた創造的な解決を図ることも可能となります。このような利点から、国際調停は、近時、世界的にも国際紛争解決手段として注目されるようになっています。

 

2.国際調停とは?

では、国際調停とはどのような手続なのでしょうか。日本においては、調停は、裁判所が主催する国内調停手続について、古くから馴染んでいます。しかしながら、日本の裁判所調停と「国際調停」とはその特徴は大きく異なっています。

国内の裁判所による調停手続では、一方当事者が裁判所に申し立てることにより開始しますが、1か月に1度の調停期日を前提としているため、終了するのに数か月に及ぶ場合が通常となっています。また2人の調停委員により手続は進められ、当事者が交代で調停委員との面談を行う、別席調停(国際的には「コーカス」と呼ばれています)が原則です。また、調停委員は、当事者の事実や法的な主張から、裁判になった場合の結果の予想を言及することにより解決を図る手法が主流です(これは「評価型(Evaluative)」と呼ばれています)。さらには、家事調停においては、家事調停の結果が後の人事訴訟に反映されることが認められており、調停手続で話した内容は、後の裁判官による判決に影響があります。しかしながら、国際調停は異なる特徴を有しています。

 

当事者の合意

まず国際調停において重要なのは、当事者の合意です。通常、取引契約書には仲裁条項や裁判管轄条項などが合意されていますが、それらの紛争解決手続に移行した後であっても、あるいは移行する前に、当事者が話し合いによる解決を図ることを希望すれば、いつでも国際調停を開始することができます。たとえば、仲裁手続の前に調停手続を行ったり(「Mid-Arb」と呼ばれたりします)、いったん仲裁手続を開始した後に調停手続を行ったり(「Arb-Mid」と呼ばれたりします)というように、当事者の紛争解決に対する姿勢次第で柔軟に手続の選択を行うことができます。

 

1人の調停人

当事者は、合意した調停機関に調停を申し立て、調停人を選任したうえで、調停手続を開始します。国際調停では、通常、調停人は1人を選任します。当事者の合意で調停人が選任できない場合には、調停機関の規則次第ですが、調停機関により選任されるのが通常です。当事者は、調停機関に手続管理費用と、調停人に対する報酬を支払います。

 

短期集中期日

国際調停では、調停人、当事者および代理人は、世界各地にいるため、期日を1~2日連続して集中して開催し、短期で終了することを目指します。国際的な調停機関では、原則として申し立てから2~3か月以内に終結することが規則で規定されており、短期間による解決が意図されています。したがって、当事者は、国際調停を選択する以上、予め、解決案を熟慮したうえで手続に臨み、短期集中による解決を目指すことが期待されます。

 

別席調停のみならず同席調停の利用

国際調停においても、調停人が一方当事者とのみ話し合いを行う別席調停が行われますが、同時に調停人の面前で両当事者が同席しながら話し合いを行う同席調停も適時利用されます。同時調停の利用によって、当事者が相手方の主張を正確に把握することにより、納得を得やすくなると考えられています。

守秘義務

もっとも重要な点として、国際調停手続において重視されるのは、守秘義務です。国際調停における守秘義務では、調停手続の中で議論された内容がその後の仲裁や裁判といった手続での利用が禁止されています。また、別席調停において当事者と調停人との間で話した内容を相手方当事者に開示するかどうかについても当事者の自由な判断に委ねられています。調停人に厳格な守秘義務があり、当事者は、安心して調停人に本音を語り、調停人は双方当事者からギリギリの譲歩案を聞くことによって、和解的解決に導くことが可能となります。

 

評価型のみならず対話促進型

国際調停でも、評価型(Evaluative型)による調停手法が主流ではありますが、同時に、当事者のコミュニケーションを促進させて解決を促す、対話促進型(Facilitative型)を重視する調停人もいます。当事者は合意をして国際調停手続を選択しているので、調停人は、当事者が解決しようとする自助努力を助ける働きをすることになります。双方の調停手法は、調停人の傾向や事案の性質に応じて柔軟に選択されることが期待されています。

 

高い調停成功率

以上のような特徴ある手続のもと、高い技術のある調停人によれば、国際調停は、80%以上の案件で、わずか1日から2日の間で合意が成立すると言われています。たとえば、世界的に有名な国際調停機関の一つであるCEDR(Centre for Effective Dispute Resolution)における調停成功率は89%と報告されています。驚くべき高い成功率ですが、当事者が解決を希望した案件を、専門的訓練を受けた調停人に委ねれば、実際に実現可能であるということです。

 

3.国際的な調停機関

以上のように、国際調停は紛争解決手段としてその効果が注目されており、アジア諸国においても近時調停を推し進める動きが活発になっています。具体的には、調停の専門機関としてシンガポール国際調停センター(Singapore International Mediation Center:SIMC)や京都国際調停センター(JIMC-Koyto)が開設しているほか、アジア地域だけでも、日本商事仲裁センター(JCAA)、 中国国際経済貿易仲裁委員会(CIEATC)、大韓国際仲裁院(KCAB)、香港国際仲裁センター(HKIAC)、アジア国際仲裁センター(AIAC)などでも国際調停の規則を有しており、それらの機関においても調停を行うことは可能です。

4.シンガポール条約の発効

国際調停はこれまで仮に調停合意に至ったとしても、その調停条項には強制執行力がありませんでした。したがって、調停が成立したとしても、相手方の調停条項違反は、民事上の合意違反として裁判所等で救済を求めるしかないのが現状です。しかし、仲裁判断の強制執行に関するニューヨーク条約と同様に、調停条項にも強制執行力を付与せんとする条約が、2019年8月、シンガポールにて締結発効されます。これは、シンガポール国際商事調停条約と言います。日本はまだ批准はしていませんが、今後、批准により日本における国際商事調停における調停条項に国際的な強制力を持たせる日が来るのもそう遠くはないでしょう。

 

5.国際調停のすすめ

以上の通り、国際的な紛争解決方法として国際調停は、短期間に集中して和解的解決に至る手法として、大変魅力的です。さらに、京都国際調停センターは、調停場所として高台寺の境内内施設の利用も提供しています。独特の静寂の中、感情的に対立する当事者が心を落ち着け、紛争解決に至ることが期待されます。京都の国際的な観光地としての魅力も調停成立に向けた心理的好影響が大いに期待されます。

今後、国際的な取引契約の紛争解決条項において、仲裁条項以外に、国際調停条項を追加し、あるいはいったん紛争が生じた後に、京都国際調停センターでの調停手続を行うことを合意することにより、国際的な紛争を、迅速に解決を図る方法として是非利用して頂きたいと思います。

 

ミニ知識

モデル条項案

紛争が発生した場合に調停手続開始に拘束される条項としてどのようなものが考えられるでしょうか。

 

紛争が発生する前の当事者間の合意として、契約書中に記載するモデル調停条項案としては、紛争が発生した場合に調停手続開始に拘束されるモデル条項として、以下が考えられます(京都国際調停センターHPを参照しました)。

 

「本契約に関連した、本契約の当事者間で起こりうるすべての紛争、論争または相違は、その調停規則にもとづいた調停により解決するために、まず京都国際調停センター(以下「本センター」)に申し立てられなければならない。」

“All disputes, controversies or differences which may arise between the parties hereto, out of or in relation to or in connection with this contract shall be first submitted to Japan International Mediation Center in Kyoto (the“Center”) for resolution by mediation in accordance with the Mediation Rules of the Center.”

 

上記以外にも、紛争が発生した場合に調停手続に拘束しない取り決めも可能ですし、またあらかじめ合意していない場合で、紛争が発生した後、いつでも、当事者が合意すれば国際調停は可能となります。