中途採用のチェックポイント~採用者や前職とのトラブルを避けるために~

法律コラム

中途採用のチェックポイント~採用者や前職とのトラブルを避けるために~



弁護士 幸尾 菜摘子

 

近年、多くの企業にとって中途採用は欠かせない戦略となっています。しかし、“即戦力を期待して採用したものの期待していた能力がなかった” “前職から顧客リストを持ち出しているという警告書が届いた”というお困りごとも耳にします。本稿では、採用段階で注意すべきチェックポイントをご紹介します。

 

1 募集要項を明確に記載して「能力不足」を回避

採用後のミスマッチを防ぐため、募集要項を明確に記載しましょう。職種や業務内容、求めるスキルや経験等を具体的に記載します。募集要項を明確に記載すれば、採用後に能力不足が判明した場合の対処もしやすくなります。例えば、試用期間満了に伴う本採用拒否の根拠となります。即戦力を期待した中途採用者についての本採用拒否は認められやすいケースもあるものの、募集要項の記載が曖昧であれば能力不足を指摘することが難しく本採用拒否の根拠が乏しくなってしまいます。

 

2 応募者に関する調査の許容範囲

経歴詐称や不適切な人物の採用を防ぐため、前職やインターネット等の公開情報から応募者について調査がなされることが増えています。前職から在籍情報等を入手する場合は個人情報保護法やプライバシーの観点から、事前に応募者本人に対し調査目的等を説明し同意を得る必要があります。また、ネットで一般公開されている個人情報であっても個人情報保護法の対象になり、特に情報を転記して検索可能な状態にすると「個人データ」に該当するため、安全管理措置など取扱いに注意する必要があります。

 

3 競業避止義務や営業秘密の持ち出しへの予防線

他社の優秀な人材、特にライバル企業の営業担当者などを採用する際には、その者が前職に対して負っている「競業避止義務」への配慮も欠かせません。採用面接時に、前職での役職や代替措置の有無を具体的に確認し、「競業避止義務を負っていないこと」をアンケートや誓約書で書面化することをお勧めします。なお、前職に対する誓約書等に「退職後○年間は競業他社への就職を禁止する」という条項があっても、そのまま拘束されるとは限らず、①守るべき利益(営業秘密等)の有無、②前職での地位、③地域的制限、④期間、⑤禁止範囲、⑥代替措置(手当等)の有無を総合的に考慮して競業避止義務として有効な範囲内で制限が課されますので、あまりに長い期間であれば、公序良俗に反して無効と判断されたり、有効な期間が短縮されて解釈されたりする余地もあります。万一競業避止義務に違反すると、中途採用者が前職から損害賠償請求や差止請求を受け、当初予定していた職務に従事させることができなくなります。採用した会社も「共同不法行為」として責任を問われる可能性があります。

また、前職で入手した営業秘密の持ち出しにも注意が必要です。前職での顧客リストや技術情報は魅力的に映るかもしれませんが、営業秘密に該当するものを利用してしまうと、不正競争防止法違反等の責任を問われ、採用した企業自身が損害賠償請求や差止請求の対象となる可能性があります。裁判例では、①営業秘密に該当するか(秘密管理性・有用性・非公知性)、②前職から不正に持ち出され自社で流用されたか(自社に故意・重過失があるか)、③生じた損害の算定などが争点となります。紛争を予防するため、面接で前職の顧客名簿や営業資料の提出を求めてはいけないのは当然のことですが、さらに前職の秘密情報は持ち込まず、自社では使用しないことを採用時に明確に伝えた上、入社時の誓約書に「営業秘密を持ち込まない」「第三者の秘密情報を使用しない」旨を規定しましょう。

 

中途採用におけるトラブルは、採用段階での対応によって未然に防ぐことが可能です。採用者に求める要件を明確にし、適切な法的プロセスを踏むことが、企業と採用者の双方を守ることにつながります。採用実務や個別の事案でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。