中小企業成長促進法について

法律コラム

中小企業成長促進法について



弁護士 大髙 友一

1 はじめに

2020年中小企業白書によりますと、我が国における企業数は年々減少傾向にありますが、とりわけ中小企業・小規模事業者の減少が目立つ状況にあります。2014年から2016年の2年間でも、中小企業・小規模事業者は、380万9000者から357万8000者へと6%の減少を見せています。

 

中小企業や小規模事業者は地域経済を支える大きな柱の一つですので、これらの中小企業等のさらなる衰退は地域経済の疲弊に直結するものとなります。このため、優良な中小企業の円滑な事業承継をはかり、さらなる成長の促進をはかることは、地域活性化の観点からも極めて重要な課題となってきています。

 

しかし、 2025年までに平均引退年齢(70歳)を超える中小企業経営者が約245万人にのぼるところ、そのうちの 約半分(約127万人)は後継者が未定という状況にあります。この後継者未定の原因の大半(約80%)はそもそも後継者候補がいないというものですが、残りの約20%は後継者候補がいるにもかかわらず経営者保証があることを理由として事業承継を拒否されている状況にあることが分かっています。もし、このまま後継者未定の中小企業等が廃業に追い込まれた場合、2025年までに650万人の雇用と22兆円ものGDPが失われるという推計もあります。

このような問題意識の下、2020年の通常国会において、中小企業の事業承継時における経営者保証の解除支援等を柱とする中小企業成長促進法が成立し、経営承継借換関連保証制度が2020年10月より導入されました。また、同法の国会審議と並行する形で、2020年4月より信用保証協会による既存の信用保証制度の運用改善が図られ、両制度を活用することにより合計5億6000万円を上限として経営者保証を不要とする融資が得られるようになりました。

 

本稿では、この中小企業成長促進法等による経営者保証解除スキームの概要をご紹介いたします。

 

2 既存の信用保証制度の運用改善による事業承継特別保証制度の導入

3年以内に事業承継を予定する法人、もしくは事業承継日から3年を経過していない法人のうちで、一定の要件を満たす法人(純資産が一定額以上であること、リスケ中でないこと(※)、所有と経営の分離がなされること等)を対象として、事業承継時までに必要な事業資金や経営者保証付き融資の借換資金などのため、2億8000万円を上限(うち無担保8000万円)として信用保証協会が信用保証する制度が2020年4月よりスタートしています。

この事業承継特別保証制度による信用保証を利用して融資を受ける場合、保証人をつけることが不要となります。つまり、この新制度を活用することによって、現経営者の経営者保証付き融資を経営者保証なし融資へと借換えすることが可能となり、後継者候補の方の負担を大幅に軽減することができることになります。

(※)新型コロナウイルス感染症の影響によるリスケは含まれません。

 

3 経営承継借換関連保証制度の導入

さらに、3年以内に事業承継を予定する法人のうち、経営承継円滑化法による都道府県知事の認定を受けた企業については、前記2の事業承継特別保証制度による保証枠に加えて、中小企業成長促進法により新たに導入された特別保証枠(上限2億8000万円、 うち無担保8000万円 )もあわせて利用ができることになりました。つまり合計で最大5億6000万円の保証枠の利用が可能となります。この承継借換関連保証制度は2020年10月より制度がスタートしています。

4 おわりに

現経営者の経営者保証の問題は、円滑な事業承継にあたっての大きなネックの一つでした。もちろん、今回の新制度は全ての事業承継案件で活用ができるとは限りませんが、この経営者保証の問題に対する大きな解決策となりうるものです。この制度の活用には計画的な対応が求められるところですので、後継者にお悩みの経営者の方はぜひお早めに検討されることをお考えください。