フリーランス取引の適正化に関する新法について

法律コラム

フリーランス取引の適正化に関する新法について



弁護士 大髙 友一

1 はじめに

近年、我が国における働き方は多様化が進んでいます。「自分の仕事のスタイルで働きたい」として、あえてフリーランスという働き方を選択することや、デジタル社会の進展に伴って、プラットフォーマーを介する形で単発の仕事を受けるような、いわゆるギグワーカーといった働き方も一般化しつつあります。

その一方、フリーランスが取引先との関係で様々な問題やトラブルに遭遇しているという実態があります。政府による調査によれば、フリーランスの約4割が報酬不払い、支払遅延などのトラブルを経験していることが明らかとなっています。加えて、ハラスメントなどの就業環境に関する相談も、様々な関係機関に寄せられています。

このようなフリーランスに関わる問題やトラブルの背景には、一人の「個人」として業務委託を受けるフリーランスと、「組織」として業務委託を行う発注事業者との間には、交渉力やその前提となる情報収集力の格差が生じやすいことがあると指摘されています。

こうしたフリーランスをめぐる状況を改善し、フリーランスが安定的に働くことができる環境を整備するため、フリーランス取引の適正化と就業環境の整備を図ることを内容とする「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」が2023年通常国会において成立し、2024年11月より施行されることとなりました。

本稿では、このフリーランス新法の概要についてご紹介いたします。

 

2 フリーランス新法が適用される取引の範囲

このフリーランス新法が適用される取引の範囲についての基本的な考え方は以下の3点です。

①「事業者間(BtoB)」の取引であること

フリーランス新法は、発注者が消費者(事業目的で取引をするのではない個人)であるような取引には適用がありません。例えば、個人が自分自身の結婚式等の写真撮影をフリーランスのカメラマンに発注するような場合などです。

一方、事業者間の取引である限り、下請法などとは異なって当事者の資本金などの要件は課されていませんので、どのような規模の事業者であっても新法の対象となる可能性があることには留意が必要です。

②「業務委託」取引であること

「業務委託」とは、事業者が、その事業のために他の事業者に対し

・物品の製造(加工を含む)

・情報成果物の作成

・役務の提供

を委託する行為を指します。モノの製造加工やソフトウェアやコンテンツの作成だけでなく、サービス全般の提供を意味する「役務の提供」も含まれますので、売買以外の事業者間取引が広く対象となると考えて良いでしょう。

③業務委託を受ける側の事業者がフリーランスであること

フリーランス新法では、業務委託を受ける側の事業者が代表者のみで業務をしており従業員を使用していない場合に、「フリーランス」(法律上の名称は特定受託事業者)と位置づけてその保護の対象とし、業務委託を行う側の事業者に様々な規制を課しています。(

従業員を使用していない個人事業主は当然ですが、法人化している場合であっても、法人代表者以外には役員も従業員もいないという場合には、実質的にはフリーランスであるとして、個人事業主と同様にフリーランス新法の保護の対象となります。

なお、「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まれないものとされているほか、同居親族も含まれません。例えば、事業主以外に業務に携わる者がいる場合であっても、繁忙期等に一時的なスタッフの活用があるに過ぎない場合や事業に携わっているのが事業主の同居親族のみである場合は、フリーランス新法上はなお「フリーランス」として扱われることになります。

 

3「フリーランス」に業務委託を行う事業者に課せられる

規制の概要

「フリーランス」に対して業務委託を行う事業者に対しては、その発注事業者自身にも従業員がいるか否か、もしくは継続的に業務を発注しているか否かに応じて、様々な義務や規制が課せられることになりました。以下、これらの規制等の概要をご紹介します。

(1)「フリーランス」に業務委託する全ての事業者に課せられる規制

①書面等による取引条件の明示

委託事業者が「フリーランス」に対して業務委託をする場合、書面等により「委託する業務の内容」「報酬の額」「支払期日」等の取引条件を明示することが必要となります。この取引条件明示義務は、委託事業者に従業員がいない場合、つまり委託事業者自身も「フリーランス」である場合にも適用される義務となることに留意が必要です。

(2)従業員を使用する事業者が「フリーランス」に業務委託する場合に課せられる規制

②報酬支払期日の設定・期日内の支払

委託事業者が発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内の報酬支払期日を設定し、その設定された期日内に報酬を支払うことが必要となります。

③募集情報の的確表示

委託事業者が広告などに「フリーランス」の募集に関する情報を掲載する際、虚偽の表示や誤解を与える表示をすることが禁止されるとともに、その内容を正確かつ最新のものに保つことが求められます。

④ハラスメント対策に関する体制整備

委託事業者に対し、「フリーランス」へのハラスメント行為に関する相談対応のための体制整備などの措置を講じることが義務づけられます。例えば、自社従業員に対するハラスメント研修や「フリーランス」向けの相談窓口の整備等、自社従業員に準じた取り組みをすることが考えられます。

(3)従業員を使用する事業者が「フリーランス」に一定期間以上の継続的業務委託をする場合に課せられる規制

⑤禁止事項

委託事業者が「フリーランス」に1ヶ月以上の継続的業務委託をする場合、「フリーランス」に責任がないにもかかわらず、「発注した物品等を受け取らない」「不当に著しく低い報酬の設定」「報酬額の事後減額」「納品物の事後返品」「一方的な業務内容の変更」といった行為をすることが禁止されます。

⑥中途解約等の事前予告・理由開示

委託事業者が「フリーランス」に6ヶ月以上の継続的業務委託をする場合、継続的業務委託の中途解除や更新をしないときにおいては、原則として30日前に予告することが求められます。また、「フリーランス」から中途解除等の理由開示を求められた場合は、委託事業者はこれに応じなければなりません。

⑦育児介護等と業務の両立に対する配慮

委託事業者が「フリーランス」に6ヶ月以上の継続的業務委託をする場合、「フリーランス」が育児介護などと業務を両立できるよう、「フリーランス」の申出に応じて必要な配慮をすることが求められます。例えば、「フリーランス」が妊婦健診を受診したり、育児介護等と両立したりできるよう就業時間の調整や短縮などに応じる等、自社従業員に準じた取り組みをすることが考えられます。

 

4 違反行為に対するペナルティ

従業員を使用する事業者がフリーランス新法に定められた規制に違反した場合、違反行為を受けた「フリーランス」は公正取引委員会、中小企業庁及び厚生労働省に設置される窓口に申告することができ、行政は、その内容に応じて、違反事業者に対して、報告徴収・立入検査、指導・助言または勧告の措置をとることになっています。

そして、違反事業者が行政からの勧告に従わない場合には、行政は、勧告に従うよう命令するとともに、事業者名を公表することができることになっています。違反事業者が命令にも従わない場合には、50万円以下の罰金も科されます。

 

5 おわりに

このフリーランス新法については、フリーランスの保護がまだまだ十分ではないとの声もあるようですが、取引条件明示がフリーランスに対する全ての業務委託取引に義務づけられたり、禁止事項が規定されたりするなど、これまで特別の保護ルールがなかった状況と比較すれば、一定の意義はあるものと考えられます。

また、発注事業者の側から見ると、フリーランスである外注先が文句を言ってこないからといって、それに甘えることは許されないようになります。今後は、フリーランスに対しても他の一般取引先や自社従業員と同様の適正かつ公正な対応が求められるということになります。11月のフリーランス新法の施行までに自社の業務体制等に問題はないかどうか、点検しておくことが望ましいでしょう。

 

フリーランス新法の規制概要