チケット不正転売禁止法が施行されました

法律コラム

チケット不正転売禁止法が施行されました



弁護士 大髙 友一

 

先日、来年に迫った東京オリンピックの観戦チケットの第1次抽選販売が行われましたが、皆様は当選されましたでしょうか。小職も申し込んでみましたが、オリンピック組織委員会の予想を遙かに超える申し込みがあったようで、見事に全て落選となってしまいました。

さて、このような人気のあるイベントの開催者が常に頭を悩ませているのが、いわゆる「転売ヤー(転売屋)」と呼ばれる業者や個人によるチケットの高額転売です。彼らは、希少価値の高いチケットを転売目的で大量に購入し、インターネット上のオークションサイトなどを利用して高額で販売します。その結果、チケットが彼らによって買い占められてしまうため、本当にチケットを必要としている消費者が適正な価格で購入できなくなるだけでなく、転売ヤーのみが不当な利益を得て主催者にも利益が入らないという事態が生じることとなります。オリンピック組織委員会もこのような事態を防ぐため、観戦チケットの販売方法には相当な工夫を凝らしたと報道されているところです。

これまで、このような不当なチケットの転売は、「ダフ屋行為」として各都道府県の迷惑防止条例で取り締まられてきました。「ダフ屋行為」とは、転売する目的でチケットを購入したり、会場周辺でチケットを転売したりすることで、野球場周辺のダフ屋などが馴染みのあるところです。ところが、これらの条例は「公共の場所又は公共の乗り物」での売買を「ダフ屋行為」の要件としているところ、近年見られるようなインターネット上での転売については、これまでの迷惑防止条例では取り締まることのできないという問題が指摘されていました。

そこで、これらの「ダフ屋行為」に加え、インターネット上でのチケットの不当な高額転売等も含めて禁止するため、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(通称「チケット不正転売禁止法」)が、昨年の臨時国会で議員立法により成立し、本年(2019年)6月14日から施行されました。ここでは、同法の概要をご紹介します。

 

<法律の概要>

チケット不正転売禁止法は、国内で行われる映画、音楽、舞踊などの芸術・芸能やスポーツイベントなどのチケットのうち、興行主(イベントの主催者)の同意のない有償譲渡を禁止する旨が明示された座席指定等がされたチケット(特定興行入場券)の不正転売や不正転売のための購入を禁止しています。

 

【特定興行入場券とは】

不特定または多数の者に販売され、かつ、次の1から3のいずれにも該当する芸術・芸能やスポーツイベントなどのチケットをいいます(日本国内において行われるイベントに限られます)。

1 販売に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、その旨が券面(電子チケットは映像面)に記載されていること。

2 興行の日時・場所、座席(または入場資格者)が指定されたものであること。

3 例えば、座席が指定されている場合、購入者の氏名と連絡先(電話番号やメールアドレス等)を確認する措置が講じられており、その旨が券面に記載されていること。

 

※ 座席が指定されていない立見のコンサートなどの場合、購入者ではなく、入場資格者の氏名と連絡先(電話番号やメールアドレス等)を確認する措置が講じられており、その旨が券面に記載されていること。

 

 

つまり、特定興行入場券とは、日時や場所等が指定された特定のイベントにのみ入場可能なチケットで、イベントの主催者においてチケット購入者が第三者に無断転売することを禁ずることをチケット上に明示し、かつ購入者の氏名等を確認した上で販売したチケットということとなります。逆に、招待券などの無料で配布されたチケット、転売を禁止する旨の記載がないチケット、販売時に購入者または入場資格者の確認が行われていないチケット、日時の指定のないチケットなどは、「特定興行入場券」には該当せず、この法律の対象外となります。また、「興行」のチケットにはあたらないとされる列車の乗車券や指定券、限定販売のゲームソフトやグッズなどもこの法律の対象外です。

 

【不正転売とは】

この法律でいう「不正転売」とは、興行主に事前の同意を得ずに、反復継続の意思をもって、興行主等の販売価格を超える価格で特定興行入場券を転売することを意味します。

「反復継続の意思をもって」というのは、たまたま行われた1回限りの行為については、この法律による禁止の対象とはしないということです。もっとも、何十回・何百回と繰り返す意図までは必要はなく、数回程度であっても繰り返す意図があったのであれば処罰の対象となりえるものと考えられます。また、繰り返して行う意図がある限り、個人であっても処罰の対象となります。

一方、「販売価格を超える価格での譲渡」という要件については、法文上は1円でも定価を超えて販売すれば要件を満たすということになるものと考えられます。逆に、販売価格以下でチケットを第三者に譲渡する限りにおいては、この法律でいう「不正転売」に該当することはないこととなります。

また、この法律では、「不正転売」を目的としたチケットの購入も禁止されていますので、実際に「不正転売」に及ぶ前であっても、チケットを購入するだけで処罰の対象となり得ることについても注意が必要です。

 

【違反したときの罰則】

1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその両方が科されます。