オンラインによる国内外紛争解決手続の進化と発展

法律コラム

オンラインによる国内外紛争解決手続の進化と発展



弁護士 豊島 ひろ江

 

新型コロナウィルスの感染拡大によって、在宅勤務によるリモート会議やオンライン研修が発展し、もはやITツールを利用しない業務や生活は考えられない時代になっています。紛争解決の手段においても同様に、このコロナ禍を経て、様々な形で、オンライン化・IT化は急速に進化し発展しています。

 

裁判のIT化−e提出・e事件管理・e法廷の実現へ

令和2年2月より、現行の民事訴訟法を前提にITツール(マイクロソフト社のTeams)を利用したウェブ会議等を活用した争点整理の新たな運用が大阪などの地方裁判所で開始されました。図らずも新型コロナウィルスの感染拡大とともに運用は急速に進み、今では実際に裁判所に行かない事件が多くなりました。令和4年度中には、民事裁判をIT化するための民事訴訟法等の一部を改正する法律案が施行される見通しです。新法にもとづき、主張や証拠のオンライン提出が認められ(e提出)、裁判書類や裁判期日をオンラインで管理し(e事件管理)、口頭弁論期日や争点整理をウェブ会議で行う(e法廷)ことが正式に認められます。機材の調達等を経て、令和7年には訴状等のオンライン申立や裁判記録の電子化が実現される予定です。この本格導入に向けて、令和4年2月からはオンラインでの申立等の運用の一部の先行実施として、民事裁判書類電子提出システム「mints」(ミンツ)の施行運用が開始され、徐々にではありますが確実に裁判のIT化が実現しつつあります。

 

国際仲裁におけるオンライン審問

国際仲裁では、以前から、電話やテレビ会議等で事前準備会合などが行われていました。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大により海外渡航は禁止され、リアルの対面を前提とする仲裁審問はすっかりオンライン化して、ZoomやTeamsといった各種プラットフォームを利用した証人尋問手続(審問)等が実施されています。当初はオンライン審問(バーチャル審問、リモート審問)手続きの法的根拠が問題になっていましたが、いずれの国際仲裁機関もすみやかに規則を改正するなどして対応をしました。オンライン審問のメリットとしては海外渡航の時間や費用が低廉化され、多数当事者の日程調整が容易であることなどがある一方、証人によるのコーチングなどの不正リスク、情報漏洩やセキュリティ、時差の調整の不公平さなどの問題があげられます。今は、オンライン審問を行うに当たり、これらの問題点について事前に当事者間で取り決めておくことが推奨され、各仲裁機関からガイドラインなどが出されて問題解決にも取り組まれています。オンライン審問は、広く仲裁実務関係者に受け入れられ、ITツールを利用した新しい国際仲裁実務が進化確立しつつあるといえます。

 

裁判外紛争解決手続(ADR)のオンライン化

裁判外紛争解決手続(ADR:Alternative Dispute Resolution)のオンライン化とは、紛争解決にIT技術を利用するODR(Online Dispute Resolution(オンライン紛争解決)になります。世界的には、アメリカやEUにおいて少額紛争や消費者紛争の解決を目的としてODRのプラットフォームを提供する運用が行われています。これらはeBay社という越境ビジネスを行うインターネット関連会社が、顧客の満足度や企業への信頼を高めるという目的で利用者間のトラブルに対してオンライン上に紛争解決のプラットフォームを提供したことが先駆けとなっています。日本においても、令和3年に、第一東京弁護士会で、シェアリングエコノミー分野での紛争を全てオンラインチャットシステムで手続を完結する独自の簡易和解手続きが提供されたり、日本で初めての民間オンライン完結型調停機関「Teuchi」においても全ての手続をスマホで完結するチャットによるODRシステムが提供されるなどしています。さらには、弁護士が中心となってODRを提供する会社を起業してADRを組織するなど、これまでにない民間主導の新しい裁判外のオンライン紛争解決が注目を集めています。オンラインの利用により、安価かつ迅速かつ簡易な紛争解決手続が実現し、これまで司法アクセスを諦めていた人々による利用促進が期待されています。