「18歳で成人式」時代がやってくる~「成年年齢の引き下げ」問題~

法律コラム

「18歳で成人式」時代がやってくる~「成年年齢の引き下げ」問題~



弁護士 大髙 友一

 

年が明けるとほどなくして成人の日を迎え、各地で成人式が行われます。最近では違う時期に行う地域もあるようですが、二十歳を迎えた新成人が真新しいスーツ姿や美しい振袖姿で街を歩く光景は新春の風物詩といえるでしょう。日本では「年齢二十歳をもって、成年とする」(民法4条)と定められ、満20歳をもって親権者からの保護を離れるとともに、選挙権を得て、酒やたばこも嗜むことができるようになるなどと、半ば常識のように20歳になれば一人前の大人の仲間入りと考えられてきました。

当たり前のように受け入れられてきた「20歳=成人」というこの概念。近いうちに大きく変わる可能性が高くなってきています。早ければ今年の通常国会にも成年年齢を20歳から18歳に引き下げるための民法改正案が提出される見通しです。

実は、世界的に見れば日本のように20歳を成人とする国の方が少数派となっています。アメリカの一部の州やインドネシアのように21歳を成人とする国もありますが、20歳以上の年齢を成年年齢と定めていた国でも成年年齢を18歳に引き下げた国が多く、現在では18歳をもって成人とする国が多数を占めるようになっています。このような世界的な成年年齢引き下げの流れを受けて、日本でも成年年齢を18歳に引き下げることの検討が進められてきました。発端は、2007年に成立した憲法改正のための国民投票法でした。選挙権が20歳以上とされている中、同法により国民投票の投票権は18歳以上と定められ、合わせて公職選挙法や民法等の規定についても必要な措置をとることとされたのです。

この国民投票法の制定を受けて、まず2015年に公職選挙法が改正されて選挙権は18歳以上に引き下げられました。18歳選挙権ということで広く広報され、若者の政治参加が注目されたことは記憶に新しいところです。一方、成年年齢の引き下げについては、慎重な検討が進められてきました。2009年に法務省の法制審議会民法成年年齢部会が「民法の成年年齢引下げについての最終報告書」をとりまとめ、「18歳への成年年齢引き下げが適当である」との提言をしたものの、同時に「若者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題に対応する施策」の実現が必要であるとして、具体的な引き下げの時期については国会の検討に委ねたためです。というのも、成年年齢というのは単に「成人になった」というだけにとどまらず、様々な法的な効果を伴うことから、成年年齢の引き下げに伴うプラスの面だけでなく、マイナスの影響も出ないかどうかの慎重な検討が必要とされたのです。

未成年者が成人となると、それまで制限されていた「行為能力」への制限がなくなります。この「行為能力」とは、簡単に言えば単独で契約等の取引行為を行う資格のことです。未成年者は「制限行為能力者」とされ、単独では契約等の取引行為はできず、原則として親権者の同意が必要とされています(民法5条1項)。同意を得ない未成年者の法律行為は取り消すことができ(民法5条2項)、これによって判断能力が未熟な未成年者を不利益な取引から保護しようというのがその趣旨とされています。

取引分野においてこのような効果を持つ「成年」の年齢が20歳から18歳に引き下げられるということは、これまで単独では契約等の取引行為ができなかった18歳や19歳の若者が親権者の同意なく契約等の取引行為を単独で行うことができるようになることを意味します。例えば、入学したばかりの大学生が下宿を借りるときに遠方の両親の同意を得たりする必要がなくなるということになり、これまでと比較して便利になる側面もあります。

しかしながら、成年年齢の引き下げはこのような便利な側面ばかりではありません。単独で契約ができるということは、不本意に不利益な取引をしてしまったときでも、もはや未成年者取消権を行使することはできないということになります。18歳ともなれば一定の成熟はしているとはいえ、まだまだ判断能力は十分とは言えない若者も少なくない年代です。また、日本で成年年齢が20歳と定められたのは1896(明治29)年のことですが、その当時とは違って18歳までに社会人となる若者はむしろ少数派となっており、18歳が成年年齢となれば社会経験を十分に積まないまま未成年者取消権の保護から離脱するということなりかねません。実際、内閣府消費者委員会の調査でも19歳の消費相談件数と被害額と20歳のそれとの間には大きな差があり、未成年者取消権が若者を消費者被害から守るための一つの武器になっていることがうかがえます。

もっとも、成年年齢の引き下げ自体は世界の趨勢でもあり、若者の自立をさらに促すという観点からも一定の必要性は否定できないところです。それであればこそ、法制審議会の最終報告書が指摘するとおり「消費者被害の拡大のおそれ等の問題に対応する施策」のさらなる充実が求められることになりましょう。政府においても、今年の通常国会にも提出が予定されている成年年齢の引き下げのための民法改正とあわせて消費者契約法を改正し、デート商法や霊感商法といった消費者が合理的判断ができない状況を事業者が作り出して契約をさせた場合などにおける契約取消権の導入を検討しています。しかしながら、これだけでは消費者被害の拡大のおそれに十分対応できるかについては疑問の残るところです。

この成年年齢の引き下げの問題はまだあまり注目をされていませんが、未成年のお子様をお持ちの皆様には今後非常に大きな影響のある問題となります。ぜひ、国会での議論状況を関心を持って見守っていただければと思います。