「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(2025年5月成立)の概要

法律コラム

「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(2025年5月成立)の概要



弁護士 鍵谷 文子

 

1 企業の資金調達においては、一般的に、不動産抵当権や個人保証が広く用いられています。一方で、不動産を持たない中小企業やスタートアップ企業、すでに不動産に担保設定を行っている企業からのニーズ、さらには個人保証の負担軽減の観点などから、機械設備や在庫商品などの動産や売掛金などの債権に担保権を設定する手法として、取引実務上、譲渡担保や所有権留保が利用されてきました。

譲渡担保権等については、抵当権や質権、保証などと異なり法律上の明文規定がなく、判例法理及び取引実務のもとで運用されてきましたが、今般、2025年5月30日に「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(以下「譲渡担保法」といいます。)が新たに成立しました。

公布日は2025年6月6日で、原則として2年6カ月以内、すなわち2028年末頃までに施行される予定です。

 

2 譲渡担保・所有権留保とは

⑴ 譲渡担保

債務の担保を目的として、担保権者が債務者から動産や債権の譲渡を受ける手法です。動産譲渡担保では、不動産抵当権と同様に、設定後も債務者が担保目的物を利用することができます。債務者が債務不履行に陥ったときは、担保権者は担保目的物から優先的に債権を回収することができます。

⑵ 集合動産譲渡担保

特定の倉庫内の在庫など、一定の範囲に属する動産を一体として譲渡担保の目的物とする手法です。範囲内の動産が入れ替わっても、新たにその範囲内に入った動産には譲渡担保の効力が及びます。

⑶ 所有権留保

売買などにおいて、代金完済まで売主に所有権が留保され、代金完済時に初めて買主へ所有権移転させる手法です。買主は代金完済前から目的物を利用でき、一方で、売主は不払時には当該目的物を回収して債権の優先的な回収を図ります。

 

3 譲渡担保法のポイント

譲渡担保法の主要ポイントは、以下のとおりです

Ⅰ 判例法理等の明文化・明確化

① 動産譲渡担保権設定者が担保目的動産を使用収益できること

② 集合動産・集合債権譲渡担保権の設定及び規律

③ 根譲渡担保権の譲渡・元本確定事由等

Ⅱ ルールの合理化

① 動産譲渡担保権と他の担保権が競合した場合の優劣関係

② 実行に関する規律

③ 破産手続等における取扱い

④ 一般債権者の弁済原資を確保するための方策

 

本稿では、「集合動産・集合債権譲渡担保権の設定及び規律」「動産譲渡担保権と他の担保権が競合した場合の優劣関係」「実行に関する規律」についてご紹介します。

 

4 集合動産・集合債権譲渡担保権の設定及び規律

一定の範囲に属する多数の動産(集合動産)や多数の債権(集合債権)にまとめて譲渡担保を設定することが可能であること(譲渡担保法40条、同53条)、指定された範囲に設定後に含まれる動産にも担保権が及ぶこと(同41条)、などが明文化されました。

動産や債権の特定方法については、集合動産の場合は種類及び所在場所等を指定すること(例:「X倉庫内に存する貴金属製品」等)、集合債権の場合は債権の発生原因、発生時期等を指定すること、と規定されました(同40条、同53条)。

なお、設定者は、原則として集合動産・集合債権譲渡担保に含まれる動産の処分や債権の取立てが可能であり、これらの動産や債権を事業活動に使うことができます(同42条、同53条)。ただし、一方で、設定者は、集合物・集合債権全体としての価値を維持する義務を負います。(同43条、同54条)。

また、集合動産・集合債権譲渡担保権では、多くの財産に担保権が設定され、その結果、一般債権者への弁済原資が少なくなる可能性があります。そこで、集合譲渡担保権実行後1年以内に設定者に倒産手続開始の申立てがあった場合は、原則として目的財産の価値の1割が倒産財団のために確保されることとなっています(同71条、93条)。

 

5 動産譲渡担保権と他の担保権が競合した場合の優劣関係

⑴  同じ動産について複数の担保権が設定される場合があり

ます。そのような場合にどの担保権者から優先的に弁済を受けることができるか、というのが、以下の議論です。

譲渡担保法では、譲渡担保権が他の譲渡担保権や質権と競合した場合、原則として対抗要件具備の先後によって順位が決まることが明文化されました(譲渡担保法32条、49条、55条)。この原則に対し、2つの例外が定められています。

⑵ 例外①:占有改定劣後ルール

動産譲渡の対抗要件は「引渡し」です(民法178条)。

ところが、動産譲渡担保では、「占有改定」(目的物を設定者のもとに置いたままで設定者が担保権者のために占有する)という引渡し方法が用いられることが多くあります。しかし、占有改定では目的物は設定者のもとにありますので、外部からは引渡しがなされているのかどうかを認識することが困難です。

そこで、譲渡担保法では、動産譲渡担保権の公示性を高めるため、占有改定による対抗力は登記等による対抗力に劣後する、というルールが定められました(譲渡担保法36条)。

このルールを前提とすると、占有改定では後から登場した担保権者に負けてしまう一方で、新しく動産譲渡担保権を設定する債権者にとっては、目的動産について登記等が入っていないかを調査すれば足りる、ということになります。

⑶ 例外②:牽連性担保権の優先

目的動産と牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権(例:売買代金債務を担保するために当該売買の目的物に担保設定する場合)については、設定者の事業継続の観点から、優先的に取り扱う必要性があります。

そこで、牽連性のある金銭債務のみを担保する動産譲渡担保権は、引渡しを受けなくても第三者に対抗することが可能とされました(譲渡担保法31条)。

また、牽連性のある金銭債務が被担保債務の一部に含まれる譲渡担保権は、牽連性のある金銭債務を担保する限度で他の担保権に優先することとされています(同37条)。

 

6 実行に関する規律

⑴ 私的実行

譲渡担保については、裁判所の手続によらない私的実行が可能とされてきました。譲渡担保法でも私的実行(帰属清算方式、処分清算方式)が可能であることが明文化され、具体的な手続も規定されています(譲渡担保法60条、61条)。

ただし、私的実行は短期間で終了してしまうため、設定者(債務者)にとっては、事業の再生に必要な財産を失ってしまう可能性があります。そこで、設定者に猶予期間を与える趣旨で、私的実行の着手(通知)から2週間の経過までは原則として実行が完了しないというルールが設定されました。

⑵ 動産譲渡担保の実行のための裁判手続

動産譲渡担保について、裁判所の手続による実行という選択肢も明記されました(譲渡担保法72条)。

これまで、裁判手続は私的実行と比較して時間を要することから、短期間で価値が下落するうえ隠匿や処分も容易な動産の譲渡担保の実行手段としては実効性に課題があると言われていました。

この課題をふまえ、譲渡担保法では、簡易な手続で動産の現状を保全したり引渡しを受けたりすることができる保全処分、実行前の引渡命令、実行終了後の引渡命令が整備されています(譲渡担保法75条、76条、78条)。

 

7 譲渡担保法は、これまで判例に委ねられてきた譲渡担保法理を体系化し、動産・債権を担保とする資金調達の法的安定性を向上させるものです。紙面の都合上、割愛した点も多くありますので、新法への対応を含めたご相談がございましたら、お気軽にお申し付けください。

 

【参照資料】法務省『譲渡担保法の概要』

https://www.moj.go.jp/content/001440978.pdf

 

 

1 法務省『譲渡担保法の概要』(https://www.moj.go.jp/content/001440978.pdf)3頁参照