違法な投稿の削除および発信者情報開示請求

法律コラム

違法な投稿の削除および発信者情報開示請求



弁護士 幸尾 菜摘子

 インターネット上で何者かによって会社や個人の名誉やプライバシーを侵害する投稿がなされた場合、投稿を削除させたり、投稿をした人物を特定して損害賠償請求等をしたりするためには、どうすればよいでしょうか。本記事では、削除請求や発信者情報開示請求の法的根拠や手続、最近注目されている争点をご紹介します。

 

 

1.削除請求及び発信者情報開示請求とは

削除請求は、名誉権やプライバシー権などの人格権に基づく妨害排除請求や妨害予防請求としての差止請求等として認められています。

これに対し、発信者情報開示請求は、投稿者に対する損害賠償請求を可能にするため、プロバイダ責任法14条1項で特別に認められています。

 

2.請求のための手続

⑴ 請求前の準備

まず、対象となる投稿及びURL等をスクリーンショットやPDF、印刷などで保存します。URLが長くて途中で切れていないか確認します。開示請求を予定している場合、投稿が削除されると請求できなくなるので早急に準備します。

⑵ 任意の請求

ア サイト管理者に対する請求

任意の削除請求やIPアドレスやタイムスタンプ等の開示請求に応じる管理者も多いです。各サイトが開設するウェブフォームやメールを利用する方法や、ガイドライン2の書式を送付する方法があります。対応は管理者によって異なり、後述する仮処分よりも早いこともあれば、1か月前後かかることもあり、最初から仮処分を選択すべきか見極めが必要です。

イ プロバイダに対する請求

サイト管理者からIPアドレス等が開示されれば、それをもとにWHOIS検索でプロバイダを特定し、契約者情報の開示請求をしますが、プロバイダは任意の開示請求に応じないことが多いです。

なお、IPアドレス等のアクセスログが3~6か月しか保存されないことも多いため、アクセスログの保存を任意で請求します。任意に応じてもらえない場合、発信者情報消去禁止仮処分の申立てを行います。

⑶ 仮処分の申立て

任意に応じてもらえない場合、仮処分を申し立てます。サイト管理者に対する開示請求の場合、プロバイダによるアクセスログの保存期間を過ぎる前にIPアドレス等の開示を受ける必要があるため、訴訟提起でなく仮処分申立が一般的です。また、削除請求の場合も、仮処分決定を得られれば強制執行しなくても任意に削除がなされ、削除後に担保取消・仮処分申立ての取り下げを行っても投稿が再び表示されないことが多いため、訴訟提起でなく、簡易・迅速な仮処分を利用した方がよいと言われています。

ア 手続の概要

まず、管轄裁判所に申立書等を提出します。管轄ですが、開示請求は相手方の普通裁判籍に限られますが(民事保全法12条、民事訴訟法4条)、削除請求は人格権侵害を根拠にするため、普通裁判籍に加え、不法行為地(問題の投稿を見られる場所)にも広く認められます(民事訴訟法5条9号)。

続いて、裁判所にもよりますが、東京地裁と大阪地裁では原則として全件、債権者面接が実施されます(例えば、東京地裁では3日以内)。

その後、審尋が行われ(必要的審尋(民事保全法23条4項本文))、裁判所が仮処分を認める場合、担保決定がなされます(民事保全法14条1項)。削除請求は30万円、開示請求は10万円が一般的です。

担保を供託し、供託書を裁判所に提出すると、裁判所が仮処分を発令し、相手方に決定正本を送達します(民事保全法17条)。なお、東京地裁の場合、供託書の提出は写しで足ります。

イ 相手方が外国法人の場合

2ch、5ch、FC2、Twitter、Facebook、Instagram等のサイトは、外国法人がサイト管理者となっており、次のような注意点があります。

まず、管轄ですが、日本国内を管轄とする上申書(民事訴訟法10条の2、民事訴訟規則6条の2等)を提出します。また、法人によっては、裁判所が無審尋上申(審尋を経ない発令)を認めることがあります。原則どおり双方審尋を行う場合、申立書送達時に訳文が必要となるため、迅速に発送してもらえるよう、事前に準備します。さらに、発令された決定正本写しをメールすれば送達がなくても任意に応じる法人等もあり、遅らせ上申(送達を遅らせる上申)をして、決定正本の海外送達に要する時間・費用を削減することも可能です。

⑷ 訴訟提起

プロバイダに対する契約者情報の開示請求は訴訟提起によるのが一般的です。なぜなら、仮処分を申し立てても、保全の必要性等が厳格に判断され、アクセスログの保存で足りるためです。3

訴訟提起がなされると、プロバイダは契約者に対し発信者情報開示に同意するか否か意見照会がなされ、同意が得られれば判決を待たずに任意開示がなされます。同意が得られない場合、2~3回の期日で終了するのが一般的です。勝訴判決が得られれば、プロバイダから控訴されることは少なく、強制執行をしなくても任意に開示されることが多いです。

 

3.最近注目されている争点

~ログイン型投稿に関する開示請求~

ログイン型投稿とは、登録したアカウントにログインして投稿するもので、ログイン時のIPアドレス等しか保存されていないものをいいます。Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSでの投稿や、Googleマップでの口コミ評価などが該当します。

サイト管理者に対するログイン時のIPアドレス等の開示請求について、東京地裁保全部では開示を命ずる運用がなされています。しかしながら、プロバイダに対する契約者情報の開示請求訴訟は最高裁判例がなく、下級審裁判例で判断が分かれています。例えば、ログイン時に発信する情報はID・パスワードであり、これによる「権利侵害」(プロバイダ責任法4条1項)がないとして棄却する裁判例がある一方で、条文上は広く「権利の侵害に係る発信者情報」と規定されており、ログイン時の情報発信は問題の投稿発信に不可欠として認容した裁判例もあります。4法改正も含め、今後の動向が注目されています。5

 

1 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律

2 インターネットサービスプロバイダ等で構成される一般社団法人テレコムサービス協会の定めるガイドライン(http://www.isplaw.jp/)。

3 東京地方裁判所民事第9部・判事鬼澤友直/判事補目黒大輔「発信者情報の開示を命じる仮処分の可否」判例タイムズ1164号4頁以下

4 本文で紹介した以外にも、同条項の「特定電気通信」「特定電気通信役務提供者」「発信者情報」などの要件が争点になります。肯定例としては、東京高判平成26年9月9日(判タ1411号170頁)・知財高判平成30年4月25日など、否定例としては、東京高判平成26年5月28日(判時2233号113頁)・東京高判平成30年6月13日(判時2418号3頁)などがあります。

5 本記事は当事務所にて取り扱った事例や脚注引用元のほか、下記文献等(※順不同)を参照しております。

中澤佑一「インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル(第2版)」

清水陽平「サイト別ネット中傷・炎上 対応マニュアル(第2版)」

神田知宏「講演録・インターネット社会における弁護士業務妨害と対処法」NIBEN Frontier(2016年10月号・11月号)