相続登記の義務化と相続に関するルールの改正について ~続・所有者不明土地の解消のための法整備について~

2022年

相続登記の義務化と相続に関するルールの改正について ~続・所有者不明土地の解消のための法整備について~



弁護士 大髙 友一

○はじめに

前回の事務所報(2021年8月発行)において2021年の通常国会で成立した「所有者不明土地の解消のための法整備」をご紹介させていただいたところ、行方不明となっている相続人の方がいないような場合でも相続登記の義務化や相続に関するルールの改正の適用はあるのかというご質問を複数の方から頂戴いたしました。

これは大変良いご質問で、質問された方がお気づきのとおり、今回の法改正は行方不明となっている方がいらっしゃらない場合でも適用される規定が少なくなく、とりわけ遺産分割協議をはじめとする相続手続には少なからず影響を与えるものと思われるところです。

そこで、本稿では「続・所有者不明土地の解消のための法整備」として、主として相続登記等の義務化と相続に関するルールの改正につき、前回は紙幅の関係でご紹介できなかったところも含めて改めて概要をご紹介します。

 

1 相続登記、住所変更登記の義務化

①相続登記の義務化

これまで、相続による所有権の取得を含め、不動産に関する権利変動があった場合における登記はあくまで当事者の権利であり、当事者に登記をする義務があるとまではされていませんでした。しかし、このようなルールとなっていることが昨今の所有者不明土地問題の一因となっているとの問題意識から、今回の改正では、相続により所有権を取得した者は、所有権取得を知った日から3年以内に登記申請をすることが義務づけられることとなりました。

この登記申請義務は法的義務とされ、正当な理由なく登記申請を怠ったときは10万円以下の過料に処せられます。さらに、この相続登記の義務化は改正法の施行前に相続が生じたような場合にも適用があり、法施行後3年以内の相続登記申請が必要となります。

この相続登記の義務化は、できるだけ早期に相続登記を当事者にさせることによって、将来における所有者不明土地の発生を防ごうという趣旨ですから、当然のことながら、相続人の中に行方不明の方がいらっしゃらない場合であっても当然適用があることになります。

それでは、相続人の一部に行方不明の方がいる場合はもちろんですが、遺産分割協議が紛糾するなどして、3年以内に相続登記を行うことが難しいような場合には、どのようにすれば良いのでしょうか。このような場合は、相続による所有権取得を知った日から3年以内に、相続人が登記名義人の法定相続人である旨を申し出て、その旨を登記する「相続人申告登記」をすることができます。この相続人申告登記をすれば、最低限の義務を果たしたこととなり過料の制裁は科せられないこととなっています。この相続人申告登記は相続による所有権移転の事実を登記するものではなく、あくまで申請人が表示名義人の相続人の一人であることを示すものに過ぎませんので、相続人全員での申請は不要となっており、連絡のつかない相続人がいるような場合であっても登記をすることが可能です。

② 住所変更登記の義務化

さらに、同じく当事者の義務とはされていなかった登記名義人の住所変更登記についても、住所変更から2年以内の登記申請が義務づけられ、正当な理由なく登記申請を怠ったときは5万円以下の過料に処せられることになりました(また、相続登記と同様、法施行前の住所変更についても施行後2年以内の登記申請が義務化されます)。加えて、住民基本台帳ネットワークシステムや法人・商業登記システムとの連携により、登記官が自動的に職権で個人や法人の住所変更登記を行うシステムも導入されることになっています。

一方、住所変更登記の義務化により、例えばDV被害者が加害者に対して最新の住所を秘匿しているような場合などには不都合が生じることも想定されるところです。このような問題に対応するため、申出により、DV被害者が記載されている登記事項証明書等を発行する際において、委任をしている弁護士事務所や法務局の住所などを代わりに表示させる制度の導入がなされることになっています。

 

2 遺産分割未了のまま長期間経過後になされる遺産分割の見直し

遺産分割の協議においては、他の相続人が得た贈与等が特別受益に該当すると主張したり、被相続人の介護を献身的に行ったから寄与分があると主張したりして、自己の取得すべき遺産が法定相続分よりも多くなること(具体的相続分)を主張することが可能です。そして、現行法では、これらの特別受益や寄与分の主張に対する特段の期間制限はないため、遺産分割未了のままで長期間経過した後であっても、相続人は特別受益や寄与分の主張をすることが可能とされています。

しかし、相続開始から長期間が経過すると、証拠が散逸するなどして他の相続人が反証等をすることは困難となるおそれもあり、このような場合にも特別受益や寄与分の主張を可能とすることは、他の相続人を不当に害するおそれがあります。そこで、相続開始から10年が経過したときは、原則として特別受益や寄与分の主張を認めないこととして、画一的な法定相続分により簡明に遺産分割を行う仕組みが創設されることになりました。

これは、いわば特別受益や寄与分の主張に時効を認めるようなものです。例えば半世紀以上も前に亡くなったような方が所有者として登記されている土地があった場合、現時点における相続人が数十人に上ることも珍しくありませんが、改正法の施行により、現在から遡って10年以上前に生じた相続については特別受益や遺留分の主張がなされる可能性がなくなります。つまり、法定相続分の割合による相続人への権利承継があったものとみなすことができることになるので、長年にわたって相続登記が未了で相続人が多数に上るようなケースでも、現在よりはシンプルに手続が進められるようになるのではないかと期待されています。

一方、注意しなければならないのは、この10年という特別受益や寄与分の主張期間は長いようで案外短いということです。例えば、年老いた老夫婦の介護を近所に住んでいた長女が献身的に行っていたところ、父親の方が先に亡くなったとします。このような場合において、すでに母親の認知症も相当程度進行していたというような事情などにより、母親が亡くなってから父親の分とも合わせて相続手続をしようと考えるケースは必ずしも珍しいものではありません。しかし、今後はこのようなケースは要注意となります。もし、母親が父親の死後10年間生存したような場合、その後は父親の相続について寄与分や特別受益の主張をすることは当然にはできなくなります(もちろん、母親の相続については、当然、寄与分や特別受益の主張は可能です)。認知症の母親の介護に専念していたような場合、10年などはあっというまに過ぎてしまったというようなことは決してあり得ない話とはいえないところです。

しかも、この特別受益や寄与分の主張期間の制限規定は、法施行前に生じた相続に対しても原則として適用されます(ただし、法施行後5年間の猶予の経過規定はあります)。様々な事情で相続手続を長期間にわたりされないままにしている方は、今のうちから対応を検討された方が良いかと思われるところです。

 

3 さいごに

今回の法改正等は原則として2023年4月までに施行されることになっています。ただし、相続登記の義務化は2024年4月までに、住所変更登記の義務化は2026年4月までに、それぞれ施行される予定です。法施行は少し先の話にはなりますが、遺産分割協議が円滑に進むケースばかりではないことから、早めに弁護士にご相談をされることをお勧めいたします。