不正競争防止法の基本

2022年

不正競争防止法の基本



弁護士 鍵谷 文子

 

事業活動のなかで生み出された営業上の表示、営業秘密、情報、信用などは事業者にとって非常に重要な財産です。これらの財産を保護して事業者の営業上の利益を守り、かつ、公正な競争秩序を守るための法律が、不正競争防止法です。今回は、不正競争防止法の基本についてご説明します。

 

1 「不正競争」とは

特許法や商標法等の産業財産権法が特許権や商標権などの権利を与える方法で知的財産の保護を図るのに対し、不正競争防止法は、「不正競争」に該当する行為を規制することで事業者の営業上の利益や公正な競争秩序を守ろうとするものです。不正競争防止法第2条で、「不正競争」に該当するとされているのは、以下の行為です。

①周知な商品等表示の混同惹起

他人の商品や営業の表示として広く認識されているものと同一又は類似の表示を使用して、その他人の商品・営業との混同を生じさせる行為です(不正競争防止法第2条第1項第1号)。「広く認識」は、特定の分野の取引相手などでもよく、また、全国的な知名度がなくても一地方で知られている場合も含まれます。

具体例としては、ソニー㈱の「ウオークマン」の名称を看板や商号に使用した事例(千葉地判平成8年4月17日)、有名コーヒーチェーン店と類似する店舗外観を同業者が使用した事例(東京地判平成28年12月19日)などが、これに該当するとされました。

②著名な商品等表示の冒用

他人の商品や営業の表示として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為です(不正競争防止法第2条第1項第2号)。

先ほどの①との違いとしては、「広く認識」では足りず、世間一般に・全国的に知られている必要があること、「混同を生じさせる」かどうかは問題とならないこと、などがポイントです。

具体例としては、有名海外ブランドのロゴを使用した事例(知財高判平成30年3月26日)、任天堂㈱の「MARIO KART」「マリオ」等と類似する表示やキャラクターコスチューム等を営業に使用した事例(知財高判令和2年1月29日)などが、これに該当するとされました。

③形態模倣商品の提供

他人の商品の形態(商品の内部及び外部の形状、形状に結合した模様、色、光沢、質感)を模倣した商品を、売ったり貸したり、または輸出入したりする行為です(不正競争防止法第2条第1項第3号)。

「模倣」商品とは、他人の商品の形態に依拠した実質的に同一の形態の商品のことをいいますので、たまたま似てしまった場合や形態が似ているだけで実質的に同一とまではいえない場合は、この規定には当たりません。また、商品の機能を確保するために不可欠な形態や「ありふれた」形態については「模倣」から除外されています。

なお、保護される商品は、日本国内で最初に販売された日から3年以内の商品に限られます。

④営業秘密の侵害

窃取等の不正の手段によって営業秘密を取得し、自ら使用し、もしくは第三者に開示する行為等です(不正競争防止法第2条第1項第4号~第10号)。

研究開発や営業活動で生み出された技術情報や営業情報を守るための規定です。

具体例としては、家電量販大手の元幹部社員が退職し同業他社へ転職する際に、住宅リフォーム事業などに関する数万件の営業秘密を不正に持ち出し、転職先に不正開示した事例(大阪地判令和2年10月1日)などがあります。

本規定について注意が必要なのは、保護されるのは「営業秘密」の3要件を満たした情報に限られるという点です(不正競争防止法第2条第6項)。3要件とは、①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)、③公然と知られていないものであること(非公知性)です。企業としては、アクセス制限や「マル秘」表示などによって秘密情報であることをわかるように管理しておく必要があります。

⑤限定提供データの不正取得等

窃取等の不正の手段によって限定提供データを取得し、自ら使用し、もしくは第三者に開示する行為等です(不正競争防止法第2条第1項第11号~第16号)。

「限定提供データ」であるというためには、①業として特定の者に提供されるものであること(限定提供性)、②電磁的方法により相当量蓄積され、それにより価値を有するものであること(相当蓄積性)、③電磁的方法により特定の者に対してのみ提供するものとして管理されていること(電磁的管理性、例えばID・パスワードによるアクセス制限など)の3要件を満たすことが必要です。例えば、災害時に、公共機関が道路状況把握等を目的として、自動車メーカーから提供を受ける、車両走行データなどが「限定提供データ」にあたります。

⑥技術的制限手段の無効化装置等の提供

技術的制限手段により制限されているコンテンツの視聴や記録、プログラムの実行、情報の処理を可能とする(技術的制限手段の効果を無効化する)装置、プログラム、指令符号、役務を提供等する行為です(不正競争防止法第2条第1項第17号~第18号)。

具体例としては、マイクロソフト社の「Office2013 Professional Plus」のライセンス認証システムによる認証を回避し実行可能にするクラックプログラムをインターネット上で販売した事例(大阪地判平成28年12月26日)などがあります。

⑦ドメイン名の不正取得等

図利加害目的で、他人の商品・役務の表示(特定商品等表示)と同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有、又はそのドメイン名を使用する行為です(不正競争防止法第2条第1項第19号)。

⑧商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起

商品・役務又はその広告等に、その原産地、品質・質、内容等について誤認させるような表示をする行為、又はその表示をした商品を譲渡等する行為です(不正競争防止法第2条第1項第20号)。

具体的には、製品の品質に関する検査データを改ざんし一定の品質を満たしたかのように偽って販売した事例(立川簡判平成31年3月14日)などがあります。

⑨信用毀損行為

競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為です(不正競争防止法第2条第1項第21号)。

具体的には、事業者が、競争関係にある他社について、インターネット通販サイト運営者に対して、実際には商標権侵害がないにもかかわらず、同他社が販売しているのは商標権を侵害する商品である旨を告知したことが信用棄損行為にあたるとされた事例(東京地判令和2年7月10日)などがあります。

⑩代理人等の商標冒用行為

 

2 「不正競争」に該当する場合の措置

(1)民事上の措置

「不正競争」によって営業上の利益を侵害された場合または侵害のおそれがある場合、差止請求(不正競争防止法第3条)ができます。

また、故意または過失により営業上の利益を侵害した者に対しては、損害賠償請求(同第4条)、信用回復措置請求(同第14条)ができます。

これらの請求に関しては、損害額や営業秘密の不正使用についての推定規定などにより、営業上の利益を侵害された側の立証の負担が一部軽減されています(不正競争防止法第5条、同5条の2、同9条)。

(2)刑事責任

「不正競争」のうち、周知な商品等表示の混同惹起、著名な商品等表示の冒用、形態模倣商品の提供、技術的制限手段の無効化装置等の提供、商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起行為などの特に違法性の高い行為については、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金という刑事罰が定められています。営業秘密の侵害については、10年以下の懲役又は2000万円(海外使用等は3000万円)以下の罰金と規定されています。

また、各行為が法人の業務に関して行われた場合は、当該法人も、3億円(営業秘密の侵害は5億円(海外使用等は10億円)以下の罰金の対象となります。

 

3 さいごに

自社の営業上の利益を守り、また、知らないうちに他社の権利を侵害してしまう事態が発生することのないよう、「不正競争」の類型や営業秘密の要件などをご確認いただき、事業活動にお役立ていただければと思います。

 

 

【参照】

経済産業省知的財産政策室「不正競争防止法の概要(2021年11月)」

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/2020_unfaircompetition_textbook.pdf

経済産業省知的財産政策室編「逐条解説 不正競争防止法(令和元年7月1日施行版)」

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/20190701Chikujyou.pdf