私的整理について(事業再生に関する近時の傾向など)

法律コラム

私的整理について(事業再生に関する近時の傾向など)



2017年8月 弁護士 上田 倫史

1.

我々弁護士は、厳しい経営状態の会社から、事業の再生に関するご相談を受けることが少なくないのですが、近時、このような事業再生の分野では、「私的整理」が注目を集めています。

「私的整理」とは、破産や民事再生のような裁判所における法的手続(「私的整理」との比較で、「法的整理」と言われることもあります)を用いずに、債権者との合意に基づいて、事業の再建を図る方法のことを言います。具体的には、融資を受けている銀行等との間で、毎月の返済額を減額して、長期間にわたる分割払いを了承してもらう方法(いわゆるリスケジュール)や、一定の資産や事業そのものをスポンサー等の第三者に売却して、その売却代金を債権者に分配する方法などが、私的整理の例として挙げられます。

2.

このような私的整理では、特定の債権者との間で非公開で協議を行うため(多くの事案では、融資先の金融機関との間だけで協議を行います)、債権者との間で合意に至れば、取引先や一般消費者に知られることなく事業の再生を図ることができる点が、大きな特徴として挙げられます。破産や民事再生などの法的整理では、全ての債権者を対象にしなければならないため、会社の信用が大幅に悪化してしまうことが多いのですが、私的整理の場合は、このような信用悪化を起こすことなく、手続を進めることができます。

他方で、私的整理の場合、協議対象となる債権者全員との間で合意に至らなければ、再生計画を実施することはできません。この点は、法的整理の場合(民事再生であれば、総債権者のうち、過半数の債権額及び人数の債権者の賛成が得られれば、再生計画が認可されます)よりもハードルが高く、私的整理を進めていく場合は、対象となる全ての債権者の意向を確認し、全員の賛成が得られるような再生計画を策定する必要があります。
(私的整理と法的整理のメリット・デメリットについては、下表もご参照ください。)

メリット デメリット
法的整理
(民事再生等)
●一定の要件を満たせば、全ての債権者の賛成が得られなくとも、計画の実施が可能。 ●全ての債権者が対象となるため、会社の信用が大幅に悪化してしまうことが多い。
●裁判所の関与の下で手続を進めるので、公平性・透明性などの観点で疑念を持たれることが少ない。 ●申立て時に、まとまった資金が必要となる(弁護士費用や、当面の運転資金)
私的整理 ●特定の債権者(主として金融機関)との間で非公開で協議するので、取引債権者や一般消費者に知られずに再生を図ることが可能。 ●協議対象となる債権者との間では、全員の同意を得る必要がある(特に、負債のカットを伴う事業再生の場合、債権者の同意を得ることは容易でない)。
●経営者の保証債務を整理する場面で、法的整理の場合よりも資産を残せる余地がある。
メリット デメリット
法的整理
(民事再生等)
●一定の要件を満たせば、全ての債権者の賛成が得られなくとも、計画の実施が可能。 ●全ての債権者が対象となるため、会社の信用が大幅に悪化してしまうことが多い。
●裁判所の関与の下で手続を進めるので、公平性・透明性などの観点で疑念を持たれることが少ない。 ●申立て時に、まとまった資金が必要となる(弁護士費用や、当面の運転資金)
私的整理 ●特定の債権者(主として金融機関)との間で非公開で協議するので、取引債権者や一般消費者に知られずに再生を図ることが可能。 ●協議対象となる債権者との間では、全員の同意を得る必要がある(特に、負債のカットを伴う事業再生の場合、債権者の同意を得ることは容易でない)。
●経営者の保証債務を整理する場面で、法的整理の場合よりも資産を残せる余地がある。

3.

また、私的整理は、進め方等に法的な制約がないため、当事者間での話し合いだけで進めていくことも可能ですが、公的機関の中には、私的整理に関する独自のルールを設け、企業からの各種相談に応じたり、第三者的な立場で私的整理のあっせん等を行ってくれる機関もあります。特に、事業再生のために負債のカットが不可避となるような事案では、当事者間での話し合いだけでは債権者の了承が得られないことが多いため、このような公的機関を利用することが考えられます。具体的には、中小企業再生支援協議会や、地域経済活性化支援機構(通称「REVIC」)などといった機関が、このような私的整理を取り扱っているのですが、近年、これらの機関の取扱件数は増加傾向にあります。

弊事務所では、これまでも、破産や民事再生といった法的整理の案件を多数取り扱っておりましたが、近時、このような私的整理に関する相談も増えており、実際に前述のような公的機関を利用することで、会社の信用悪化を招くことなく、私的整理による事業再生に成功したケースもあります。

4.

もっとも、私的整理と法的整理には、それぞれに前述のようなメリット・デメリットがありますので、個別の案件においてどの手続が望ましいかについては、詳しい事実関係を確認した上で吟味する必要があります。また、このような事業再生の手法は、経営状態が悪化すればするほど、採り得る選択肢が狭まってしまう傾向にあります。

もとより、このようなご相談はないに越したことはないものですが、経営状態が芳しくない、経営が大変そうな知人がいる、といった事情がありましたら、どうぞ気軽にお声掛けいただければと思っております。

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