濫用的会社分割をめぐる問題 〜最判平成24年10月12日を中心として

法律コラム

濫用的会社分割をめぐる問題 〜最判平成24年10月12日を中心として



2013年1月 弁護士 朝倉 舞

1 会社分割の制度趣旨

会社分割とは、会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を当該会社から既存の会社(吸収分割)または新たに設立する会社(新設分割)に承継させるものです。

会社分割制度は、企業の国際的競争力を向上・維持させる目的で、柔軟な組織再編成を迅速に進めるための法整備の一環として、平成12年商法改正により導入されました。

そして、会社分割は、成長部門を切り離して更なる競争力の向上を図ったり、不採算部門を切り離して他企業に吸収させるといった、経営効率化のための事業承継の場面、持株会社による事業統合、同一企業グループ内の重複部門を集約・統合させるグループ会社の再編やM&Aの場面等、様々な場面で利用されています。またこの他、事業再生の手法としても利用されています。

2 濫用的会社分割の問題

会社法では、迅速な組織再編を可能とするため、一定の場合に、債権者の異議手続きを経ることなく会社分割を行うことが認められています。

例えば、ある株式会社(以下「分割会社」といい ます。)が株式会社を設立(以下「新設会社」といいます。)し、そこに自社事業の一部を承継させ、対価として、分割会社が新設会社株式を取得するという一般的な新設分割の場合であれば、会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求することができる債権者、つまり、(1)新設会社に承継されない債務の債権者や、(2)新設会社に債務は承継されるものの、分割会社がその債務を重畳的債務引受あるいは連帯保証をした場合の当該債務の債権者には、会社法上異議手続きが必要とされていません。

そこで、これを利用して、倒産寸前の会社が、一部の優良事業(資産)および一部債務のみを新設会社に承継させ、他方で、その他の債権者への支払いを免れるために、債権者の異議手続きをとることなく、不採算事業およびその他債務を分割会社に残すという、会社分割を濫用的に行うケースが相次ぎました。

このような手法により、新設会社に承継された債務の債権者は新設会社からの履行が見込める一方、分割会社に残った債権者は、分割により債務の弁済を受けることがより困難になります。すなわち、分割会社が新設会社の株式を取得したとしても、実際にそれを換価することが困難な場合が多いからです。そのため、分割会社の残存債権者には、外に引当てとなる財産がなく、事実上弁済を受けることができない状態となることから、問題となりました。

3 最高裁平成24年10月12日判決

本判決は、上記のような手法により、債務超過にあった会社が新設分割を行ったケースです。事案の概要は、分割会社が、自己の不動産に関する営業や所有不動産、および一部債務のみを新設会社に承継させる会社分割を行った(それにより分割会社には新設会社株式以外資産がなくなった)ところ、残存債権者である原告が、詐害行為取消権に基づき、新設会社に対し、会社分割の取消しおよび承継された不動産の所有権移転登記の抹消登記手続を求めたというものです。

そして最高裁では、(1)会社の組織行為について詐害行為取消権行使が認められるか、(2)詐害行為取消を認めることにより法的安定性を害さないか、(3)債権者異議手続の対象とされていない債権者に、同手続の対象とされている債権者以上の保護を与えることにならないかといった「会社分割の詐害行為取消しの可否」が争点となりました。

これに対して最高裁は、「新設分割設立株式会社にその債権にかかる債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる」との初判断を示しました。

もっとも、本判決では、従来、下級審で議論されてきた、当該会社分割に詐害性が認められるかという点や、会社分割を取消した場合の効果(現物分割あるいは価格賠償)等については争点とされておらず(なお補足意見では詐害性に触れています。)、これらの論点に対する判断基準は、今後更なる判例の集積が待たれるところです。

4 濫用的な会社分割に対して債権者がとりうる他の手段

(1)会社法22条1項(事業譲渡における商号の続用責任)の類推適用

最高裁は、ゴルフ場運営会社が、従前のゴルフクラブの預託金返還債務を残して、新設分割によりゴルフ場事業を新設会社に承継させ、新設会社が従前分割会社の運営していたゴルフクラブの商号を続用していた事案について、会社法22条1項の類推適用を認め、新設会社のゴルフクラブ会員(債権者)に対する預託金返還責任を肯定しました(最判平成20年6月10日)。

(2)法人格否認の法理

この外、下級審では、分割会社が会社分割実行以前に残存債権者に事業再生への協力を求め、会社分割スキームについても相当程度残存債権者と検討・準備を進めていたにもかかわらず、突然残存債権者に知らせることなく、一方的に残存債権者の債権を承継させない会社分割を行った事例において、その後の新設会社の株式譲渡や増資等一連の手続きを、原告に対する債務を免れようという不当な意図、目的に基づくものとして、法人格否認の法理の適用により、新設会社に対して責任を追及(債務履行を請求)することを認めたものもあります(福岡地判平成22年1月14日)。

5 今後に向けて

前掲平成24年最高裁判決により、債権者を侵害する濫用的会社分割に対しては、民法上の詐害行為取消権の行使によって債権者の救済を図る道が示されました。

また、会社法改正に向けて、法制審議会会社法制部会で、詐害的会社分割に対する手当て(分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合、承継した財産の価額を限度として残存債権者に新設会社に対する当該債務の履行請求を認める内容の規定)が盛り込まれた要綱案が承認されました。

そこで、今後会社分割を行うにあたっては、詐害性がある会社分割とされないために、分割会社に残る債権者への説明や全体スキームの検討を行うことが必要になると考えられます。

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