民法改正について −第3回 賃貸借契約−

法律コラム

民法改正について −第3回 賃貸借契約−



2018年8月 弁護士 鍵谷 文子

 2020年4月1日から施行される改正民法の主要なテーマについて、前回に引き続き、ご紹介をいたします。第3回のテーマは「賃貸借契約」です。今後の賃貸借契約の管理や契約書作成等の実務に影響がありうる主要な点をご説明します。

1.賃貸借期間(上限の延長)について(改正民法第604条)

 民法が適用される賃貸借契約の期間の上限が50年となりました(現行法では20年が上限です)。例えば、ゴルフ場や太陽光発電の敷地などについての賃貸借契約は、長期間の利用を見越して、賃貸借期間を50年とする契約を結ぶことができることになります。

 なお、建物賃貸借契約や建物所有目的の土地賃貸借契約については、借地借家法が適用されますので、改正の影響はありません。

2.修繕義務について(改正民法第606条、第607条の2)

⑴ 賃貸借契約において、賃貸人は、目的物の修繕義務を負います。この点に関して、改正民法では、修繕が必要となったことについて賃借人の帰責事由がある場合は賃貸人が修繕義務を負わないことを明文化しました(改正民法第606条第1項ただし書)。

 これにより、例えば、賃借人が故意に建物の壁を壊した場合などには、賃貸人は修繕義務を負わないことが明確になりました。

⑵ 他方で、賃貸人が修繕義務を負っており、修繕が必要であることを知ったにもかかわらず相当の期間内に必要な修繕をしないとき、または、急迫の事情があるときには、賃借人が自ら修繕をすることができます(改正民法第607条の2)。

 賃貸人が修繕に応じない場合に賃借人側で修繕できることを定める規定ですが、実際の場面では、修繕の必要性や範囲、急迫性の有無、費用負担などが問題になることが予想されますので、今回の改正をふまえ、あらかじめ賃貸借契約書でより詳しく定めておくことも考えられます。

3.目的物の使用収益不能と賃料減額について(改正民法第611条、第616条の2)

⑴ 賃貸借の目的物の一部について使用収益できなくなった場合、賃借人に帰責事由がないときは、使用収益できなくなった部分の割合に応じて賃料が減額される、という規定が設けられました(改正民法第611条第1項)。

 現行法611条では、一部「滅失」の場合のみ賃料の減額を請求できるものとされていましたが、改正民法では、一部滅失に限らず一部使用収益不能の場合にも、当然に、賃料が減額されることとなった点がポイントです。

 なお、一部滅失または一部使用収益不能により、残りの部分では賃貸借契約を締結した目的を達成できない場合には、賃借人は、賃貸借契約の解除をすることができます(改正民法第611条第2項)。

⑵ 賃貸借の目的物の全部が滅失または使用収益不能となった場合、賃貸借契約は当然に終了することが明文化されました(改正民法第616条の2)。

4.保証について

 今回の民法改正による保証についてのルールの変更が、賃貸借契約の際の連帯保証にも影響します。

⑴ 極度額(改正民法第465条の2第2項)

 賃貸人が、賃貸借契約にあたり、個人の連帯保証人に、賃借人の一切の債務を連帯保証するよう求める契約は、民法上、「個人根保証契約」といわれるものです。

 改正民法では、個人根保証契約について、極度額(保証人が負担する上限額)を書面で定める必要がある、とされました(改正民法第465条の2第2項、第3項)。

 よって、今後、賃貸借契約書には、この極度額を明記する必要があります。具体的には、金額を明記するほか、「賃料○カ月分」などの方法で記載することなどが考えられます。

⑵ 元本の確定(改正民法第465条の4)

ア 賃借人が死亡した場合、賃貸借契約は終了せずそのまま継続しますが、連帯保証契約の元本が確定します(改正民法第465条の4第1項第3号)。

 よって、連帯保証人は賃借人死亡時点の債務(賃料債務など)のみを保証し、それ以降に賃貸借契約から発生する債務は保証の範囲外となります。

イ 保証人が死亡した場合も、上記アと同様に、賃貸借契約は終了せずそのまま継続しますが、連帯保証契約の元本が確定します(改正民法第465条の4第1項第3号)。

 よって、連帯保証人の相続人は、保証人死亡時点の債務(賃料債務など)のみを保証し、それ以降に賃貸借契約から発生する債務は保証の範囲外となります。

ウ 賃貸人としては、元本が確定すると、連帯保証人に対してそれ以降に発生する債務分を請求することができなくなりますので、新たな連帯保証契約の締結などを検討する必要が生じます。

⑶ そのほか、賃貸人が保証人から賃借人の賃料滞納状況等について問い合わせを受けた場合の情報提供義務(改正民法第458条の2)、事業のための賃料債務を個人が連帯保証する場合の意思確認(改正民法第465条の6)などについても新しいルールが適用されます。

5.賃貸人たる地位の移転(改正民法第605条の2)

賃貸借の目的物を売買する場合、賃貸人たる地位(賃貸借契約上の賃貸人の地位)が当然に買主に移転するとの判例法理が明文化されました(改正民法第605条の2第1項)。

 他方で、賃貸借の目的物となっているテナントビルなどの所有権は取得したいけれど賃貸人としての立場はもとの所有者に残したい(不動産信託など)とのニーズに応えるため、上記の当然移転とは逆に、合意によって、賃貸人たる地位を旧所有者に留保することができる要件も規定されています(改正民法第605条の2第2項)。

上記のほかにも、敷金や原状回復、転貸などについても新しい規定が設けられていますが、主に、これまでの最高裁判例や実務の運用を明文化したものですので、実務への影響は小さいと思われます。

 改正民法のもとでの賃貸借契約の締結、賃貸借契約書のひな型又はすでに締結されている契約書の見直しなど、気になることがありましたら、是非ご相談下さい。

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