デジタルプラットフォームをめぐる法制度について

法律コラム

デジタルプラットフォームをめぐる法制度について



弁護士 皆川 征輝

 

1 令和4年6月16日、東京地方裁判所は、「食べログ」のアルゴリズムの変更で点数が下がったことにより売り上げが下がったとして、株式会社韓流村が損害賠償を求めた事案において、運営会社である株式会社カカクコムに対し、独占禁止法違反を理由に損害賠償を命じました。これに対し、株式会社カカクコムは、同日、控訴をしており、控訴審での判決が注目されます。

同月には、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(以下「DPF取引透明化法」といいます。)に基づく第1回目の報告書の提出日を迎えており、前月である5月1日には、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」(以下「取引DPF消費者保護法」といいます。)が施行されました。

このように、昨今、デジタルプラットフォームをめぐる法律関係は大きく動いていることから、本稿では、DPF取引透明化法、及び、取引DPF消費者保護法の概要について述べたいと思います。

 

2 デジタルプラットフォームについて

(1) デジタルプラットフォーム(DPF)とは、「多数の者が利用することを予定して電子計算機を用いた情報処理により構築した場であって、当該場において商品、役務又は権利(以下「商品等」という。)を提供しようとする者の当該商品等に係る情報を表示することを常態とするもの(次の各号のいずれかに掲げる関係を利用したものに限る。)を、多数の者にインターネットその他の高度情報通信ネットワーク(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第一号に規定する放送に用いられるものを除く。)を通じて提供する役務」(DPF取引透明化法2条1項)をいい、オンラインショッピングモール、インターネットオークション・フリーマーケット、アプリストア、検索サービス、コンテンツ配信サービス、シェアリングエコノミー、SNSなど様々な場面でDPFが活用されています。

 

(2) このうち、DPF取引透明化法では、特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いプラットフォームを提供する事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」(特定DPF提供者)として指定し、規制の対象としています(2条1項)[1]

また、取引DPF消費者保護法では、DPFのうち、オンラインモール(2条1項1号)又はオークションサイト(2条1項2号)が「取引デジタルプラットフォーム提供者」(取引DPF提供者)として、対象となっています。

以上のように、DPF取引透明化法と取引DPF消費者保護法は、多岐にわたるDPF提供者のうち特定のDPFの提供者を対象としており、また、2つの法律では対象とするDPF提供者の範囲が異なっています。

(3) DPF取引透明化法と取引DPF消費者保護法は、大きく分けると、前者がDPF提供事業者と取引先事業者との関係、後者がDPF提供事業者と消費者との関係を規律する法律となっています。

3 DPF取引透明化法の概要

(1) 取引条件等の開示義務(第5条)

特定DPF提供者は、利用者に対し、取引条件等(例:取引を拒絶することがある場合に、その判断基準など)の開示や特定の行為を行う際の事前通知(例:取引条件の変更を行う場合の内容及び理由など)を行わなければならないのものとされています。

 

(2) 自主的な手続・体制の整備(第7条)

特定DPF提供者は、特定DPF提供者と商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図るために必要な措置(例:取引先事業者に対するサービス提供が公正に行われることを確保するための体制など)を講じなければならないものとされています。

(3) 報告書の提出・評価(第9条)

特定DPF提供者は、毎年度、報告書を経済産業大臣に提出し、これに対し、経済産業大臣は、利用者、学識経験者等の意見を踏まえ、報告書の評価を行い、その結果を公表するものとされています。

 

(4) その他

経済産業大臣は、特定DPF提供者が独占禁止法に抵触していると判断した場合には、公正取引委員会に対して適当な措置をとるよう請求をすることができるものとされています(第13条)

 

4 取引DPF消費者保護法の概要

(1) 取引DPF提供者の努力義務(第3条)

取引DPF提供者は、消費者と販売業者との間の円滑な連絡を可能とする措置等を実施する努力義務を負い、消費者に対しその概要・実施状況等の開示をしなければならいものとされています。

 

(2) 取引DPFの利用の停止等に係る要請(第4条)

商品の安全性の判断に資する事項等について著しく事実に相違する表示がなされている場合などで、かつ、販売業者が特定不能などの場合には、内閣総理大臣は、取引DPF提供者に出品削除等を要請することができるとされています。

 

(3) 販売業者に係る情報の開示請求(第5条)

消費者が損害賠償請求等を行う場合に必要な範囲で販売業者の情報の開示を取引DPF提供者に対し請求できるものとされています。

 

(4) その他

その他、官民協議会を組織し、悪質な販売業者等への対応など各主体が取り組むべき事項等を協議するものとされており(第6条~第9条)、また、消費者は内閣総理大臣(消費者庁)に対し消費者被害のおそれを申し出て適当な措置の実施を求めることができるとされています(第10条)。

 

5 まとめ

DPF取引透明化法及び取引DPF消費者保護法は、いずれも、事業者の自主的な取組を促進する方法を採用しているところ[2][3]、これは規制の必要性とDPFのイノベーション・発展性との調和を図ったものといえます。今後のDPFの発展やDPFに起因する問題等に応じ、現行の法制度で足りるのか、それとも、より強力な規制を必要とするのか検討がすすむものと考えられます。

 

 

[1] 令和4年8月時点では、政令により、物販総合オンラインモールでは国内流通総額3000億円以上の会社(アマゾンジャパン合同会社、楽天グループ株式会社、ヤフー株式会社)、アプリストアでは国内流通総額2000億円以上の事業者(Apple Inc.及びiTunes株式会社、Google LLC)が特定デジタルプラットフォーム提供者として指定されている。

デジタル市場競争会議最終報告(令和3年4月27日)を踏まえ、デジタル広告を規制対象に追加する予定となっている。

[2] https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digitalplatform/pdf/dppoint.pdf

[3]https://www.caa.go.jp/about_us/about/plans_and_status/digital_platform/assets/consumer_system_cms101_210201_01.pdf