民法改正について-シリーズ第2回 定型約款-
弁護士 鍵谷 文子
2017年(平成29年)6月2日に公布された改正民法の主要なテーマについて、前回に引き続き、ご紹介をいたします。第2回のテーマは「定型約款」です。
現在の日常生活や取引においては、数多くの「約款」が使用されています。しかし、現行民法では、約款の定義や約款に関するルールについての規定はありませんでした。改正民法では、新しく「定型約款」の規定をおいて、その定義やルールを明確化しています(改正民法第548条の2から548条の4)。
1.定型約款とは
改正民法で新しく規定が置かれた「定型約款」とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体」と定義されています。
また、定型約款の定義にある「定型取引」とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう」とされています(改正民法第548条の2第1項)。
不特定多数の者との取引に関するものであること、取引内容の画一性が双方当事者にとって合理的であることなどの要件がポイントで、具体的には、銀行の預金規定や、割賦販売契約書の裏面約款などが「定型約款」に該当する、とされています。
他方で、上記の定義に当てはまらない場合には、仮に「約款」という名称がついていたり定型的な契約書を使っていたりしたとしても、改正民法上の「定型約款」には含まれません。たとえば、事業者間取引で使用される単なるひな型や労働契約などは、「定型約款」に該当しないものと考えられます。「定型約款」に含まれない約款等については、今後も、現行民法下での議論や裁判例等を参考にして解釈していくこととなります。
2.定型約款が契約内容となるためには
次の要件のいずれかを満たして定型取引の合意をしたときには、定型約款の個別条項が、当事者間の契約(合意)の内容になります(改正民法第548条の2第1項)。
① 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき
② 定型約款準備者があらかじめ定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき
①②のいずれかの要件を満たしていれば足り、両方を満たしている必要はありません。また、定型約款の事前開示や定型約款の詳細な内容の認識・了解は、要件とはされていません。
もっとも、定型約款準備者が定型約款の開示を求められた場合にはこれに応じる必要があり(改正民法第548条の3第1項)、定型約款準備者が開示請求を拒否した場合には、当該定型約款は契約内容になりません(改正民法第548条の3第2項)。
3.定型約款の効力が制限される場合
上記2の要件を満たす場合でも、定型約款準備者に一方的に有利な条項や、相手方が予測できないような契約条項は、契約の内容にはなりません。具体的には、
① 相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項で、
② その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの
は、当事者間で合意したものとはみなされず、法的拘束力を有しないものとされています(改正民法第548条の2第2項)。
いわゆる不当条項だけでなく、相手方が合理的に予測できないような条項(不意打ち条項)も、本規定によって法的拘束力を有しない、との判断となりえます。
また、上記②に該当するかどうかの判断にあたっては、約款条項の文言や趣旨だけでなく、契約全体の内容、特に不利益の存否、内容、程度、定型取引の態様、性質、実情、取引上の社会通念など、全ての事情を総合的に考慮して判断されることとなります。
4.定型約款を変更するには
次の要件をいずれかに該当するときは、当事者間の個別の合意がなくても、定型約款準備者において、定型約款を変更することができます(改正民法第548条の4第1項)。
① 相手方の一般の利益に適合するとき
② 契約した目的に反せず、変更の必要性、変更の内容の相当性、変更条項の有無・内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
なお、上記①②のいずれかに該当して定型約款を変更する場合、定型約款準備者は、効力発生時期を定め、約款変更する旨・変更後の約款内容・変更の発生時期を、インターネットの利用など適切な方法で周知する必要があります(改正民法第548条の4第2項)。ただし、上記②の場合は、効力発生時期の到来までに周知をする必要があります(改正民法第548条の4第3項)。
新設される定型約款に関する規定の概要は以上のとおりです。具体的な取引で使用されている約款が「定型約款」に該当するかどうか、改正民法をふまえての契約書や「約款」の整備など、気になることがありましたら、是非ご相談下さい。