育児・介護休業法改正 ― 産後パパ育休について ―

法律コラム

育児・介護休業法改正 ― 産後パパ育休について ―



弁護士 和田 周

1 はじめに

令和3年6月に育児・介護休業法が大きく改正されました。令和4年4月から段階的に施行されています。本改正では、新たな制度として「出生時育児休業(通称「産後パパ育休」)」なども創設され、今後の働き方や、企業の取り組みに大きな影響を及ぼすものと考えられます。今回は、育児に関する改正の主な点についてご紹介したいと思います。

 

2 改正の背景

今回の改正は、出産・育児等による離職を防ぎ、特に男性の育児休暇の取得を促進し、男女ともに仕事と育児を両立できるようにすることが狙いとされています[1]

内閣府の最新の調査によれば、第1子の出産を機に退職する女性がいまだ46.9%と、約半数にものぼっています。出産を機に退職した女性に対するアンケート調査でも、その理由として最も多かったのが、「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた」という回答となっています。一方、男性の育児休業取得率は、直近で13.97%であり、女性が85.1%であるのに対し、非常に低い水準にとどまっています。もっとも、男性新入社員の約8割は、育休を希望しているというアンケート結果も出ています。

こうした現状を変えるために、今回の改正がなされたと考えられます。

 

3 改正の内容

(1)令和4年(2022年)4月1日施行の内容

①妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置

本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、事業主は育児休業制度等に関する以下の事項の周知と、休業の取得意向の確認を、個別に行わなければなりません。以下の事項のうち、産後パパ育休に関する部分は、令和4年10月1日から施行されています。

 

周知事項 ①育児休業・産後パパ育休に関する制度

②育児休業・産後パパ育休の申し出先

③育児休業給付に関すること

④労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い

個別周知・意向確認の方法 ①面談(オンライン面談を含む) ②書面交付 ③FAX

④電子メール等 のいずれか

 

 

②雇用環境整備の措置の義務化

育児休業と産後パパ育休の申し出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければなりません産後パパ育休に関する部分は、令和4年10月1日から施行されています。

 

①育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施

②育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置等)

③自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供

④自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

 

③有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

改正前は、㋐引き続き雇用された期間が1年以上であり、㋑1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでないことが要件でしたが㋐の要件が撤廃されました。

 

(2)令和4年(2022年)10月1日施行の内容

①出生時育児休業(通称「産後パパ育休」)の創設

産後パパ育休は、育休とは別に、原則として休業の2週間前までに申し出れば、出生後8週間以内の期間に4週間まで休業できるものです。はじめにまとめて申し出れば、分割して2回取得することも可能です。また、労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能となりました。これまでは育休をとらないで働くか、育休をとって働かないかの2択でしたが、この制度を用いれば休業中にどうしても外せない仕事があるときに、働くことができ、賃金も支払われることとなります。産後パパ育休の申し出・取得、産後パパ育休期間中の就業の申し出・同意しなかったこと等を理由とする不利益な取扱いは禁止されています。また、事業主は、上司や同僚からのハラスメントを防止する措置を講じることが義務付けられています。

 

②育児休業の分割取得

育休についても、分割して2回取得することが可能となりました。また、開始日もより柔軟に決めることができるようになりました。

 

(出典:厚生労働省ウェブサイト)

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf

 

(3)令和5年(2023年)4月1日施行

―育児休業取得状況の公表の義務化―

常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主は、育児休業等(産後パパ育休を含む)の取得の状況を年1回公表することが義務付けられます。具体的には、男性労働者の育児休業等の取得割合、もしくは育児休業等と育児目的休暇の取得割合を公表しなくてはならないとされています。

 

4 留意点

今回の改正で、本人または配偶者の妊娠・出産の申し出をした労働者に対し、個別の周知・意向確認の措置をとることが義務付けられましたが、このことは各管理職がきちんと把握できていないと、個別の周知、意向確認が抜け落ちてしまう可能性があります。そのため、各管理職に今回の改正を社内研修等で理解してもらうことが重要です。

また、労働基準法89条1項1号上、就業規則には休暇について記載する必要があるため、産後パパ育休について、記載する必要があります。具体的には、付与要件(対象者等)、取得手続、期間などを明記する必要があります。対象者については、労使協定により一定の例外を設けることが可能となっています。就業規則の記載例については、厚生労働省のひな形(後掲URLリンク先に掲載)が参考となります。

育休中の労働を可能としたい場合は、労使協定で定めることが必要です。もっとも、無制限に可能というわけではなく、①就業させることとした日の数の合計が産後パパ育休期間の所定労働日数の二分の一以下であること(ただし、一日未満の端数があるときは、これを切り捨てた日数であること)、②就業日における労働時間の合計が、産後パパ育休期間における所定労働時間の合計の二分の一以下であること、

③産後パパ育休開始予定日とされた日又は産後パパ育休終了予定日とされた日を就業日とする場合は、当該日の労働時間数は、当該日の所定労働時間数に満たないものであることといった要件を充足する必要があるため注意が必要です(規則21条の17)。

厚生労働省ウェブサイトでは、社内研修資料や就業規則の改定例等が公開されていますので、必要な場合はご活用頂ければと思います。また、個別事案に応じて対応の検討が必要な場合、専門家へのご相談をぜひご検討ください。

 

[1] 厚生労働委員会「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一 部を改正する法律案(閣法第四二号)(先議)要旨」

 

  • 男性の育休に取り組む社内研修資料について

https://ikumen-project.mhlw.go.jp/company/training/

  • 育児・介護休業等に関する規則の規定例

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103533.html

 

【参考資料】

  • 厚生労働省ウェブサイト「育児・介護休業法の改正について」

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf

  • 政府広報オンライン 青木源太・足立梨花Sunday Collection「パパ・ママを笑顔にする新しい育児休業制度」

https://www.gov-online.go.jp/pr/media/radio/sc/text/20220508.html

  • 厚生労働省ウェブサイト「就業規則への記載はもうお済みですか‐育児・介護休業等に関する規則の規定例‐」

https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000685055.pdf