短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の紹介
弁護士 黒栁 武史
【はじめに】
働き方改革の一環として、有期雇用や派遣等の雇用形態に関わらず、公正な待遇を確保するための法改正が行われました。本稿では、そのうち「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「本法」といいます)を取り上げて紹介します。
【主要な改正点】
1 本法は、従前の「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」が、有期雇用労働者も対象とされたことに伴い、題名も含めて改正されたものです。以下、改正内容の概要について触れます。
2 均等待遇・均衡待遇規定、ガイドラインの整備
① 均等待遇・均衡待遇規定の整備
均等待遇とは、正社員と非正規社員の職務内容等が同じ場合には、非正規社員の待遇について正社員と同じ取り扱いを求める原則のことです。
均衡待遇とは、正社員と非正規社員の職務内容等が異なる場合にも、正社員との待遇差は、その相違に応じた合理的なものでなければならいとする原則のことです。
均等待遇については、これまで短時間(パートタイム)労働者についてしか規定がありませんでした。しかし、本法改正により、有期雇用労働者も規定の対象とされました(本法9条)。
他方、均衡待遇については、従来から規定がありました。ただ、本法改正により、待遇差の合理性の判断基準が明確化されました。具体的には、基本給・賞与等の個々の待遇ごとに、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められる事情を考慮して、判断されるべき旨が定められました(本法8条)。
※厚労省「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保【省令・指針反映版】」の図を参照して作成(https://www.mhlw.go.jp/content/000474490.pdf)
② ガイドラインの整備
正社員・非正規社員間の、いかなる待遇差が合理的で、いかなる待遇差が不合理であるかについては、判断に迷う場合があります。
この点、有期雇用労働者の待遇差の合理性に関しては、長澤運輸事件やハマキョウレック事件の各最高裁判決が、個々の待遇ごとに、待遇差の合理性が認められるか否かの判断を示しています。これらの判例は、改正前の労働契約法20条に関するものですが、本法の下でも該当すると解されます。
他方、この点に関する政府のガイドライン(指針)は未整備でした。しかし、本法改正に伴い、新たにガイドラインが整備されることとなりました。(https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000469932.pdf)。ガイドラインにおいては、基本給や賞与、手当等の個々の待遇ごとに、待遇差が問題となる例、問題とならない例の、具体例が掲げられています。
また、厚生労働省は、「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」(https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000494536.pdf)等の各種マニュアルを発行しており、参考になります。
3 事業主の説明義務について
本法改正により、短時間労働者のみならず有期雇用労働者に対しても、雇用管理上の措置の内容(賃金制度の内容、福利厚生施設の利用等)や、待遇決定に際しての考慮事項の説明義務が課されることになりました(本法14条1項、2項)。
また、労働者が説明を求めた場合に、待遇差の内容・理由について説明する義務が、新たに課されることになりました(本法14条2項)。
加えて、制度の実効性確保のため、労働者が説明を求めたことを理由に、事業主が不利益取り扱いを行うことが禁止されました(本法14条3項)。
4 紛争解決手続等について
均等待遇・均衡待遇の違反がある場合、非正規労働者は、裁判所に対して司法的救済(損害賠償請求等)を求めていくことが可能です。ただ、迅速な救済のためには、行政による指導・勧告及び企業名の公表等の措置や、行政上の紛争解決手続(ADR)の整備が必要となります。
この点について、本法改正により、短時間労働者のみならず有期雇用労働者も、これらの制度が利用できるようになりました(本法18条、24条から27条)。また、均衡待遇違反についても、行政ADRの対象とされました。ただ、上記措置のうち、企業名の公表については、均等待遇については対象とされていますが、均衡待遇については対象とされていません(本法18条2項)。
【本法の施行日等】
施行日は、大企業2020年4月1日、中小企業2021年4月1日とされています。施行までに若干の猶予はあるといえ、賃金体系等の見直しには相当の時間がかかることが予想されます。そのため、正社員と非正規社員に待遇差がある場合は、上記ガイドラインやマニュアルなどを踏まえて、早期に点検や見直しを進める必要性があるといえます。