早期事業再生法の解説
1 はじめに
ここ数年、企業の倒産件数は増加傾向にあると言われています。近時の物価高や原材料高、それに伴う人手不足などといった事情を抱えながら、厳しい経営を強いられている事業者も少なくないように思われます。
2025年6月、「早期事業再生法(正式名称:円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律)」という法律が成立し、本年(2026年)の12月11日に施行される予定となっています。この法律は、新たな事業再生の手法を認めるものですが、後述するように、現行の事業再生手法の「いいとこ取り」とも言うべき制度となっており、今後積極的に活用されていくことが期待されます。
2 現行の事業再生手法(法的整理と任意整理)について
新法の紹介に先立ち、現行の事業再生手法である「法的整理」と「私的整理」の違いについて、簡単に紹介させていただきます。
法的整理とは、民事再生や会社更生といった、裁判所における債務整理手続のことを言います。法的整理のメリットとしては、裁判所の関与の下で手続きが行われるため、公平性・透明性が担保されていることの他、一定の要件を満たせば(民事再生であれば、債権者の頭数及び総債権額の過半数の賛成)、全債権者の同意がなくとも、債権カットや事業の売却などを伴う再生計画が実施可能となる点が挙げられます。他方で、法的整理は公開の手続きである上、原則として全ての債権者を平等に取り扱う必要があるため、大幅な信用悪化は避けられないというのが大きなデメリットとなります。実際にも、裁判所への民事再生や会社更生の申立件数は近時相当少なくなっており、経営難の事業者にとって、法的整理は活用が難しい制度となっていたのが実情です。
これに対し、私的整理とは、裁判所を用いずに、債権者との合意に基づいて事業の再建を図る方法のことを言います。法的整理とは異なり、非公開に、特定の債権者(主として金融機関)との間で協議する手続きですので、取引先や一般消費者に知られることなく、信用悪化を起こすことなく事業の再生を図ることができる点が、大きなメリットとして挙げられます。他方で、私的整理の場合は、協議対象となる債権者全員との間で合意に至らなければ、再生計画を実施することができない点がネックとなるため、特に、債権カットや事業の売却などを伴う再生計画を行うようなケースでは、金融機関等との間で長期にわたって交渉等を重ねる必要が生じることも珍しくなく、事案によっては、特定の債権者の意向から、私的整理そのものを断念するようなこともあり得ました。
3 早期事業再生法の特徴
以下では、上記2で述べたところも踏まえつつ、早期事業再生法に基づく事業再生の特徴を紹介いたします。
⑴ 対象債権者―金融機関等に限定
本制度において調整の対象となる債権者は、金融機関の他、保険会社、貸金業者、サービサー等に限定されており、取引債権者や従業員などは対象外とされています(法2条)。この点は私的整理と共通しており、通常通りの事業活動を続けながら、信用悪化を起こすことなく事業再生を図ることができます。
⑵ 第三者機関(指定確認調査機関)による監督
本制度では、経済産業大臣の指定を受けた「指定確認調査機関」と呼ばれる第三者機関と、この期間が事案ごとに選任する「確認調査員」の確認・監督の下に、手続きが進められます(法3条、46条、52条)。この「指定確認調査機関」や「確認調査員」には、事業再生に関する専門的知識及び実務経験を有することが必要とされており、後者の「確認調査員」に、現行の私的整理手続において監督機関として機能している、中小企業活性化協議会や株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)などでの実務経験者や、法的整理である民事再生手続や会社更生手続における監督委員ないし管財人としての実務経験者などが就くこととなっています(早期事業再生法施行規則35条、36条)。
⑶ 再生計画の実施要件―多数決による権利変更が可能に
本制度では、対象債権者との間での権利変更(リスケジュールによる返済猶予や債権カットなど)については、対象債権者の議決権総額(抵当権などによる保全部分を除く)の4分の3以上の同意をもって可決されることとなっています。ただし、単一の債権者が議決権総額の4分の3以上を占めている場合は、対象債権者の過半数の同意が必要とされています(法20条)。
そして、この多数決による決議の後、裁判所が当該決議を認可することによって、対象債権者との間の権利変更が実現することになります(法27条以下)。
この点が、全ての対象債権者の同意を必要とする私的整理とは大きく異なるところであり、これにより、従前の私的整理手続では困難だと思われていた事案(典型的には、特定の債権者が再生計画の実施を頑なに拒否しているようなケース)でも事業再生が実現できたり、金融機関等との協議に要する期間を短縮できたりするようなメリットが期待できます。

本制度の手続概要イメージ
(出典:経済産業省ホームページ https://www.meti.go.jp/press/2024/03/20250304003/202503004003.html)

4 終わりに
本稿執筆時点では、新法はまだ施行されておらず、本制度の実績等は今後の蓄積を待つ必要がありますが、おそらく今後、本制度は積極的に利用されていくものと予想されます。とりわけ、債権カットや事業の売却などを伴うような、抜本的な措置を伴う再生計画を検討すべき場面では、現行の法的整理・私的整理よりもメリットが大きいものと言えます。
我々弁護士としても、こうした事業再生が広く普及していき、多くの事業や、それに伴う取引・雇用などが救済できれば何よりかと思っています。


