改正景品表示法(課徴金制度導入)の施行について
弁護士 佐藤 碧
平成26年秋に不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律(景品表示法)が改正され、不当表示(優良誤認表示、有利誤認表示)に対する課徴金制度が導入されました。この改正景表法は今年4月から施行されましたので、改めてその概要、改正を受けての留意事項をご説明したいと思います。
1.経緯
約3年前のことになりますが、食品表示等の不正事案が次々と発覚して社会問題化し、景品表示法の機能強化が図られる流れとなりました。この流れを受け、まず平成26年6月に表示管理体制の構築を事業者に義務づける等の内容の改正が行われ、それに続き、執行力強化の観点から課徴金制度が導入されるに至りました。
2.概要
この制度について、詳細な説明は紙幅の関係上省略させていただき、今回は景品表示法の課徴金制度の概要のうち、主要な部分、特徴的な部分をピックアップしたいと思います。
⑴主観的要素
事業者が課徴金対象行為をした期間を通じて、自ら行った表示が不当表示であることを知らず、かつ、知らないことについて相当の注意を怠った者でないと認められるときは、課徴金の納付を命ずることができないとされています。
「相当の注意」を払ったかどうかについては、基本的には通常の商慣習に則った注意(取引先から提供される書類等で当該表示の根拠を確認する等)をしていれば足りるとされています。また、表示について、同法26条に定める「適正に管理するために必要な体制の整備その他の必要な措置」を講じていれば、「相当の注意を怠った者でない」と認定されると考えられています。
⑵算定方法、対象期間
課徴金対象期間における売上額(原則として、直接の取引先に対する売上額です)に、3%を乗じて算定されます。
対象期間は、課徴金対象行為をした期間ですが、
①課徴金対象行為をやめた日から6月を経過する日、又は
②一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置(新聞への謹告文の掲載等)をとった日
のいずれか早い日までの間に、当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の取引をしたときは、課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とされます。
そして、当該期間が3年を超えるときは、当該期間の末日から遡って3年間が対象期間となります。算定期間の規定はやや複雑なのですが、基本的には、不当表示をやめた後でも、当該取引を続けている場合は、不当表示による影響が一定期間消費者に残っている可能性があるため、当該期間も算定期間に含めている、という規定になっています。
⑶自主申告による減額制度
課徴金対象行為に該当する事実を事業者が消費者庁長官に報告したときは、課徴金額から50%相当が減額されます。これは不当表示の早期発見・防止および事業者のコンプライアンス体制構築の促進を図るためとされています。
ただし、当該報告が、調査があったことにより、課徴金納付命令を予知してされたときは減額されません。
⑷自主返金(返金措置)の実施による課徴金額の減額等
一般消費者の被害回復を促進する趣旨で設けられた減額制度です。
事業者は、課徴金対象期間に当該取引を行った消費者に対し、購入額の3%以上の額の返金措置を実施することができます。そして、適式に返金措置が実施されたと認められるときは、返金措置により交付された金銭の額が課徴金額から減額されます。
返金は金銭交付に限定され、商品交換、商品券や代替物の提供等は含まれません。そして、返金対象とする消費者の特定については、ポイントカードの履歴や、レシートの持参といった方法が考えられます。
⑸まとめ-今後の運用について
上記のように景品表示法に導入された課徴金制度は、他の法律では設けられていなかった特徴的な部分も多く含んだものとなっています。今後の制度運用については、特に売上額の算定方法(レストランで提供するコース料理の一部に不当表示があった場合、どのように算定するか)や、主観的要素の認定の方法、自主返金の認定の方法(どのように消費者を特定していくか)等、未だ明確となっていない部分が多くあり、具体的な運用がどのようにされていくのか今後の公表事件に注意しておく必要があります。
3.改正・施行を受けて留意すべきこと
仮に課徴金納付命令の対象となってしまった場合、経済的な負担ももちろんですが、事業者名公表のリスク、代表訴訟等のリスクにも留意しなければなりません。このような事態とならないために、特に以下の点には留意が必要です。
⑴表示の管理体制について
実際に起こった不当表示事件では、対象事業者が意図的に消費者を騙そうと虚偽の表示をしていたと思われるケースもありますが、多くは表示に対する認識が甘かった、というケースではないかと思います。しかし、消費者としては、商品・役務を選択する際に、表示は唯一といっていい情報源ですので、この点の認識の甘さは消費者に商品・役務を供給する事業者としては本質的・致命的な問題となりえます。今回の改正を機会に、表示のもつ意味の大きさ、意識の重要さも再確認する必要があります。
不当表示と一言で言っても、規制する法律は景品表示法だけではなく、健康増進法、薬機法等多岐にわたります。法律だけでなく、業種別のガイドラインも多く存在しますので、定期的に遵守事項を見直してはいかがでしょうか。
⑵消費者対応について
万一不当表示が発覚した場合、行政調査への対応だけではなく、消費者への対応も当然重要になってきます。
返金措置を行った場合は、課徴金の対象となったとしても、上記のように減免措置の対象となります。ただし、課徴金の減免対象となる3%の返金だけを行ったとしても、残額については場合によっては損害賠償請求等の対象になる可能性は残っていますので、ケースに応じて柔軟に消費者対応を行う必要があります。
事件によっては、発覚後の消費者対応に問題があって事業者へのクレームが大量に発生し、信用が損なわれかけたというケースも多々ありました。ネット社会では、SNS等を通じて情報が広まり、あっという間に企業のイメージに関わる事態となってしまいます。問題が発覚した場合は、場合によっては専門家とも相談しながら消費者対応を行う必要があります。