労働法の最高裁判例(2020年10月・同一労働同一賃金関連)

法律コラム

労働法の最高裁判例(2020年10月・同一労働同一賃金関連)



 弁護士 上田 倫史

 

本稿では、同一労働同一賃金に関して、令和2年10月に立て続けに出された最高裁判決を紹介いたします。

 

1 同一労働同一賃金とは

「同一労働同一賃金」とは、同一企業・団体における正社員(フルタイムの無期雇用労働者)と非正規社員(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との不合理な待遇差を禁止すべきとする考え方のことです。

労働契約法20条は、この考え方に立脚しており、有期雇用労働者の労働条件が正社員(無期雇用労働者)と相違する場合には、①職務の内容(業務の内容及びそれに伴う責任の程度)、②当該職務の内容及び配置変更の範囲、③その他の事情、を考慮して、不合理であってはならない旨を定めています。 同趣旨の規定は、令和2年4月に施行されたパートタイム・有期雇用労働法8条や9条にも定められている他、厚労省が策定した「同一労働同一賃金ガイドライン」では、いかなる待遇差が合理的であり、又は不合理とされるかについて、具体例を交えながら示されています(これらの法規定やガイドラインについては、本誌のバックナンバー(Vol.16の2頁以下)で詳しく紹介させていただいています)。

 

2 最高裁判決の整理

⑴ 今回の最高裁判決は、いずれも、正社員と非正規社員との待遇差が、労働契約法20条の言う不合理な待遇差に該当するかどうかが争われた事例になります。紙幅の都合上、要点を絞っての紹介となりますが、各判決の概要を下表で整理しております。

⑵ これらを見ると、賞与(大阪医科薬科大学事件)や退職金(メトロコマース事件)については、結論的には正社員・非正規社員間の待遇差を許容する判決が示されています。もっとも、これらの判決は、個々の事案において、上記①から③の各考慮要素において、正社員と非正規社員に相応の差異が存することを前提に、当該事案において待遇差を許容しているに過ぎず、安易に一般化できるものではありません。上記1で触れたガイドラインの中でも、賞与の待遇差が問題となる例として、会社の業績等への貢献度が正社員と同程度である有期雇用労働者に対して、賞与を支給していないケースが挙げられています。

他方で、日本郵便事件では、各種手当の支給や休暇の付与に関して、結論的には正社員・非正規社員間の待遇差を是正すべき旨の判決が示されています。この判決の中でも、正社員と非正規社員との間には、上記①から③の各考慮要素において相応の差異は存することが前提として指摘されています。そして、それぞれの手当・休暇の趣旨に言及した上で、当該趣旨が正社員だけでなく非正規社員にも当てはまることを理由に、非正規社員に手当や休暇を付与しないのは不合理であると判断しています。

⑶ これらの最高裁判決は、いずれも近時の改正法や上記ガイドラインと同趣旨のものと位置付けられますが、全体的な傾向として、裁判所は、正社員・非正規社員間の待遇差を容易には認めず、同一労働同一賃金の考え方を重視しているものと言えます。

経営者・管理者の皆様におかれましては、自社の労務環境を踏まえ、給与、各種手当、休暇の付与等に関して不合理な待遇差が生じていないかをご確認いただければと思います。