会社法改正について
弁護士 鍵谷 文子
改正会社法(2019年12月11日公布)が、いよいよ2021年3月1日から施行されます(株主総会資料の電子提供制度については2022年施行予定です)。今回の改正は、株主総会の運営や取締役の職務執行の一層の適正化を図ることを目的とするものであり、実務への影響も大きいと思われますので、改正内容の概略をご説明します。
改正点1 株主総会資料の電子提供制度の創設
⑴ 株主総会資料(①株主総会参考資料、②議決権行使書面、③437条の計算書類及び事業報告、④444条6項の連結計算書類)を、ウェブサイト等への掲載により株主に提供することができるようになりました(電子提供制度、改正会社法325条の2)。これにより、会社としては、株主に早期に充実した内容の資料を提供することができ、印刷や郵送のための時間と費用も節約できることになります。
⑵ 電子提供制度を採用する場合、定款で定め、登記をする必要があります(改正会社法911条2項12号の2)。
また、株主総会の3週間前(または招集通知を発した日のいずれか早い日)までにウェブサイトへの掲載を開始する必要があること(改正会社法325条の3)、電子提供制度をとる場合であっても招集通知は書面で発送する必要があること、招集通知(会社法299条1項)の発送期限が公開会社・非公開会社を問わず一律に株主総会の2週間前となること(改正会社法325条の4)、については注意が必要です。
⑶ 電子提供制度を利用する場合でも株主から書面交付の請求があった場合(書面交付請求)には、会社は、書面を交付する必要があります(改正会社法325条の5第1項)。
改正点2 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備
近年、一部の株主が多数の株主提案を濫用的に提出し、株主総会の健全な運営が妨げられる事例が問題となっていたことをふまえ、株主総会にむけて株主が提案できる議案の数が、1回の株主総会につき1人10議案までに制限されることになりました(改正会社法305条4項)。なお、10を超える議案が提出された場合にどの議案を排除するかについては、株主が指定した優先順位があればこれに従いますが、指定がなければ取締役が選ぶことになっています(改正会社法305条5項)。
改正点3 取締役の報酬に関する規律の見直し
⑴ 取締役の報酬については、会社法361条で定款または株主総会決議で定めることとされていますが、実務上、取締役全員についての報酬総額を株主総会で決議し、個々の取締役に対する報酬の決定は取締役会に委ねるのが一般的です。
今回の改正でもこの運用そのものに変更はありませんが、上場会社等では、個々の取締役に対する報酬の決定方針を取締役会で定めることが義務付けられました(改正会社法361条7項)。なお、決定方針の開示までは求められていません。
⑵ その他、取締役の報酬として株式や新株予約権を付与する場合について、その上限を株主総会で定めなければならないことも、新しく追加されました(改正会社法361条1項3号、4号)。
改正点4 会社補償及び役員等のために締結される保険契約に関する規律の整備
⑴ 取締役が株主等から責任追及の損害賠償請求を受けた場合の費用負担について、近年、役員等として優秀な人材を確保する必要性や役員の職務の適正性を確保する観点から議論がなされてきたことをふまえ、改正会社法で新しく規定が追加されました。これらの規定の整備により、今後、より積極的な取締役人材の登用が可能になると考えられています。
⑵ まず、会社は、役員等と補償契約を締結することにより、役員等が職務執行に関し法令違反を疑われ、または、責任追及の請求を受けたことに対処するために支出された費用、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失の全部又は一部について、会社が補償することができることが明文化されました(改正会社法430条の2第1項)。補償契約の締結については、取締役会決議(取締役会非設置会社は株主総会決議)が必要です(なお、当該取締役会決議については、形式的には利益相反取引に該当しますが、改正会社法430条の2第6項、第7項により、利益相反取引に関する取締役会決議の規定は排除されています。)。
⑶ 補償される費用については、相当な範囲に補償内容が限定される場合があります(改正会社法430条の2第2項)。
また、会社は、補償契約を締結している場合であっても、役員等が自己もしくは第三者の不正な利益を図り、または会社に損害を与える目的で職務執行をしていたことを事後的に知った場合は、補償した金額の返還を請求できます(改正会社法430条の2第3項)。
⑷ 会社が役員等のためにD&O保険(役員等賠償責任保険契約)を締結する場合も、取締役会決議(取締役会非設置会社は株主総会決議)が必要です(改正会社法430条の3第1項)。
改正点5 社外取締役に関する規律の見直し
⑴ すでに株式会社における社外取締役の活用が進んできているところですが、今回の改正では、上場会社等について、社外取締役を置くことが義務付けられました(改正会社法327条の2)。
⑵ また、社外取締役は「社外」の取締役であること、すなわち、業務執行を直接行わないことにポイントがありますが、今回の改正では、株式会社と取締役の利益が相反する状況が起こる場面など(例えば、マネジメント・バイアウトの場面や親子会社間の取引の場面等)で、取締役会決議により、社外取締役に業務執行を委託することができるようになりました。この決定に従って社外取締役が業務を執行しても、社外性を喪失しないことを定めるものです(改正会社法348条の2第3項、2条15号イ参照)。
なお、この場合であっても、社外取締役が業務執行取締役の指揮命令下で業務執行を行った場合には、社外性が失われることには注意が必要です。
改正点6 社債の管理に関する規律の見直し
会社が社債を発行する場合、社債管理者を置かない場合には社債権者が社債を管理する必要がありましたが、今回の改正では、社債管理補助者を定めて、社債を管理させることができるようになりました(改正会社法714条の2)。
社債管理補助者は、社債管理者よりも権限が限定されていますが、社債の発行額や管理コストに応じた利便性のある取扱いが認められたことになります。
改正点7 株式交付制度の創設
株式交付制度は、株式会社(買収会社・株式交付親会社)が、他の会社(被買収会社・株式交付子会社)を子会社とするために、自社株式を被買収会社の株主に対して交付することができる制度です(改正会社法774条の2以下)。
現行法のもとでも、株式交換制度を利用することにより、買収会社が被買収会社の株主に買収会社の株式を交付して完全子会社化(100%子会社化)することはできました。株式交付制度では、株式交換と異なり、完全子会社化を予定しない場合であっても、買収会社が被買収会社の株主に対して自社株式を交付することができるようになりました。
これにより、M&Aの選択肢が増え、より柔軟な企業統合を検討できるようになっています。