二重価格表示の問題~将来の販売価格を比較対照にする場合
弁護士 佐藤 碧
1 はじめに
不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)において、商品・サービスの価格その他の取引条件につき、実際のものや競争事業者のものより有利であるかのような表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるもの(有利誤認表示)について禁止されています(第5条2号)。
この類型について、最も問題となりやすいのが、比較対照価格を併記して価格の安さを強調する、いわゆる「二重価格表示」です。一般的には、「当店通常価格1000円のところを期間中2割引」といった、過去の販売価格を比較対照とする二重価格表示が問題となることが多いです。
本稿では、二重価格表示のうち、上記とは異なる、将来の販売価格を比較対照とするものについて、最近の行政処分事例も踏まえてご説明いたします。下記のように、セール期間経過後により高い価格になることを訴え、「今ならお得」と思わせる表示のことです。

(過去の販売価格を比較対照とする場合)(将来の販売価格を比較対照とする場合)
2 二重価格表示に関するガイドライン
⑴ 価格表示ガイドライン
二重価格表示について、どのような場合に有利誤認表示として違法となるのかについては、消費者庁の公表している「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」というガイドライン(価格表示ガイドライン)において細かい考え方が公表されています。過去の販売価格を比較対照とする二重価格表示において、比較対照価格としてよい価格での販売期間などが示されており、表示管理にあたって参照されている方も多いかと思います。
そして、将来の販売価格を比較対照価格とする場合についても同ガイドラインで言及されており、
◦表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないとき(実際に販売することのない価格であるときや、ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎないときなど)には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。
◦将来の価格設定は、将来の不確定な需給状況等に応じて変動するものであることから、将来の価格として表示された価格で販売することが確かな場合以外において、将来の販売価格を用いた二重価格表示を行うことは、適切でない。
とされています。このように、従来より将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示は、相当限定的な場合にのみ認められてきました。
⑵ 将来価格ガイドライン
上記の価格表示ガイドラインをさらに具体的にするものとして、令和2年12月25日、消費者庁は事業者の予見可能性向上等のため、「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」を策定・公表しました。基本的な考え方を示すとともに、消費者庁が景品表示法を適用する際の考慮事項等を明らかにする内容です。
これに先立って、平成30年3月16日、ジュピターショップチャンネル株式会社に対して、不当な二重価格表示を行ったことを理由に措置命令が出されています。同社が家電製品のセール企画をショッピング番組で紹介するにあたり、「明日以降」又は「期間以降」と称する価額を併記した映像を放送し、当該価格に比してセール期間中の販売価格が安いかのように表示していたところ、対象商品がセール期間終了後に販売される期間は2~3日間のみであり、将来の販売価格としての根拠が乏しいとされたものです。将来価格ガイドラインは、この事件も踏まえて策定されたものと考えられます。
3 将来価格ガイドラインにおける執行方針等
同ガイドラインでは、価格表示ガイドラインで示された基本的な考え方を踏襲しつつ、以下のように執行方針等について説明されています。
⑴ 基本的な考え方
将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を見た場合、一般消費者は通常、比較対照とされた将来の販売価格に十分な根拠がある、すなわち、「セール後には本当にその価格で販売される確実な予定がある」と認識します。
したがって、「①将来その価格で販売する」「②確実な予定」がないのに、比較対照価格として示すと、消費者を誤認させ、景品表示法の有利誤認表示に該当する可能性があるとしています。
①については、セール後の一般的な販売活動において比較対照価格で販売することが必要とされています。つまり、一般的でない販売形態(特殊な場所だけで売る等)や、ほとんど購入者がいないような非現実的な高価格を設定するような場合は含まれません。
②については、セール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売するための「合理的かつ確実に実施される販売計画」を、セール期間を通じて有している必要があるとされています。
⑵ 執行にあたって考慮される事項
① 有利誤認表示として取り扱われる場合
事業者がセール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で実際に販売している場合は、原則として「合理的かつ確実に実施される販売計画」に基づいているものと推測されます。他方、当該価格で実際に販売されていない場合、特段の事情がない限り、「合理的かつ確実に実施される販売計画」を有していなかったことが推認され、表示開始時点から有利誤認表示として取り扱われます。
② 有利誤認表示として取り扱われない場合
比較対照価格とされた将来の販売価格で実際に販売されていない場合であっても、(ア)「合理的かつ確実に実施される販売計画」を有していたことを示す資料・データがある場合であり、かつ、(イ)将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在する場合においては、かかる特段の事情発生後、遅滞なく表示を取りやめ、顧客に告知しているのであれば、有利誤認表示として取り扱わないとされています。
上記(ア)の資料・データについて、以下のように例示されています。

上記(イ)の特段の事情については、天変地異、感染症流行、仕入先のミス等による不可抗力などかなり限定されており、一般的な需要の増減といった事情については、合理的に予見できないものであったとはいえず、含まれないとされています。
③ 販売期間に関する基準
セール期間経過後の販売期間がごく短期間の場合、原則として「合理的かつ確実に実施される販売計画」を有していなかったと推認されます。一般的に、2週間以上継続した場合はごく短期間とは考えられないとされています。ただし、クリスマスケーキ等の特定期間に需要が集中する商品については、2週間未満であっても通常有利誤認表示として扱われることはないとされています。
4 行政処分事例
将来の販売価格を比較対照とするケースについて、前述の2⑵のとおり、将来価格ガイドラインの策定前に、ジュピターショップチャンネル株式会社に対する措置命令が発出されています。
また、最近、将来価格ガイドラインを前提に行政処分となった事件として、株式会社ジャパネットたかたに対する措置命令(令和7年9月12日公表)があります。同社は、お節料理の表示について、たとえば、令和6年10月8日から同年11月23日まで、自社ウェブサイトにおいて「~大人気おせちが今ならお得!~早期予約キャンペーン」「ジャパネット通常価格29,980円」「値引き後価格19,980円」等、キャンペーン期間経過後に将来の販売価格(29,980円)で販売するかのように表示していました。しかし、消費者庁の調査により、セール期間経過後に上記価格で販売するための「合理的かつ確実に実施される販売計画」はなく、上記価格は将来の販売価格として十分な根拠のあるものではないと認定されました。これにより、本件表示は景品表示法に違反する有利誤認表示として措置命令の対象となりました。
将来価格ガイドラインにおいて求められる「合理的かつ確実に実施される販売計画」を有していないと判断されたケースですが、これに対し、株式会社ジャパネットたかたはHP上で反論を行い、審査請求を申し立てています1。
将来価格ガイドラインにおいては、上記3⑵①のとおり、将来価格での販売が実際に行われていない場合は、原則として「合理的かつ確実に実施される販売計画」を有していないと推認されます。同社HPでの反論内容を見ますと、同様のキャンペーンは毎年行い、期間経過後は表示通りの将来価格で販売してきたものの、たまたま今回に限り対象のおせちが売り切れ、将来価格での販売ができなくなったという事情があったとされています。同社において、上記3⑵②に記載する販売計画に関しての資料・データや、将来価格での販売ができなかった特段の事情が存在するか等が今後の争点になっていくものと思われます。
5 まとめ
株式会社ジャパネットたかたの件については、今後審査請求などでどのような結論が出るのか注目されるところです。個人的には、あくまで将来価格ガイドラインは行政庁の執行方針であり、法令自体ではないこと、そもそも景品表示法の執行で最も重視されるべきは消費者の認識であり、それと事業者内での計画の有無がどこまで結びつくのか検討の余地があることなどから、過度に硬直的な運用を行うことには違和感が残ります。他方、現状において、上記行政処分に見られるように将来価格ガイドラインは実際の法執行において厳格に適用するという姿勢が示されており、今後将来の価格を比較対照として表示することには相当な注意が必要と考えられます。
1 本稿作成時点(令和7年11月)の情報です。


