マタハラ防止措置が義務化されます! ―男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の改正―

法律コラム

マタハラ防止措置が義務化されます! ―男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の改正―



弁護士 長門 英悟

 

1.はじめに

近年、マタハラについての労働局への相談件数が増加の一途を辿り、2015年は全国の相談件数が4269件(前年度比19%増)の過去最多の件数となっています。

これを受けて、厚労省が、妊娠、出産、育休取得等(以下「妊娠等」といいます)を理由とした不利益取扱いの禁止に関する新たな通達を発出したことは、前回の事務所報(2016年Vol.10)において紹介させていただきました。

これに加えて、平成28年4月に男女雇用機会均等法、育児・介護休業法が改正され、平成29年1月1日から、会社にマタハラを防止する措置をとることが義務づけられることになりましたので、今回は、このマタハラ防止措置義務を紹介させていただきます。

 

2.改正点について

従前より、男女雇用機会均等法などにより、事業主が、その雇用する労働者の妊娠等を理由とする不利益的取扱いを禁止する条項が設けられておりました。しかし、従来の規定は、事業主が労働者に対して、妊娠等を理由とする不利益取扱いを禁止するのみであり、職場における上司・同僚が、妊娠等した労働者に対してハラスメントを行う場合について十分対応出来ていないという問題点がありました。

そこで今回の改正は、事業主に対してさらに進んで、職場の上司・同僚が、妊娠等に関する言動により、妊娠等した従業員の就業環境を害することがないよう防止措置を講じる義務を課すことになりました。ⅰ

本改正は、平成29年1月1日より施行されるため、事業主としては、同改正に対応出来るよう、マタハラ防止措置について、整備を行う必要があります。

 

3.防止措置の具体的内容

では、具体的に事業主としては、どのような措置を整備する必要があるのでしょうか。この点について、厚労省は、事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき処置についての指針ⅱを公表し、事業主が講ずべき措置のポイントを以下の通り示しております。

⑴事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

・ ①妊娠等に関するハラスメントの内容、②妊娠等に関する否定的な言動が妊娠等に関するハラスメントの背景等となり得ること、③妊娠等に関するハラスメントがあってはならない旨の方針、④妊娠等に関する制度等の利用ができる旨を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

・ 妊娠等に関するハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

⑵相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

・ 相談窓口をあらかじめ定めること。

・ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、職場における妊娠等に関するハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場における妊娠等に関するハラスメントに該当するか否か微妙な場合等であっても、広く相談に対応すること。

・ その他のハラスメントの相談窓口と一体的に相談窓口を設置し、相談も一元的に受け付ける体制の整備が望ましいこと。

⑶職場における妊娠等に関するハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応

・ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

・ 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。

・ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。

・ 再発防止に向けた措置を講ずること。(事実確認ができなかった場合も同様)

⑷職場における妊娠等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

・ 業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること。

・ 妊娠等した労働者に対し、妊娠等した労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等を周知・啓発することが望ましいこと。

⑸その他併せて講ずべき措置

・ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。

・ 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

 

4.マタハラ防止措置を整備しないリスク

上記のとおり、平成29年1月1日より、事業主は防止措置を整備することが義務として課されることになりましたので、防止措置を講じないことは違法となりえます。法違反の事実や、その疑いがある場合、事業主は厚生労働大臣から報告を求められ、また、助言・指導・勧告、公表等がなされる場合があります。

また、会社の従業員が行ったマタハラ行為が不法行為を構成する場合、防止措置を十分に講じていなかった事業主は、使用者責任(民法715条)・安全配慮義務違反等により、損害賠償責任を負うリスクが高まります。

さらには、これらが公表、報道されることにより、レピュテーションリスクなどが生じることも考えられますので、会社としては、平成29年1月1日から施行される上記法改正に向けて十分な対策を講じておくことが必要と考えます。

 

ⅰ 【男女雇用機会均等法第11条の2】

事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労 働基準法第65 条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

【育児・介護休業法第25条】

事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 

ⅱ 平成28年厚労省告示第312号