データの利活用について

法律コラム

データの利活用について



弁護士 鍵谷 文子

 

1.「データの利活用」とは

「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」や「データの利活用」という言葉を、あらゆる場面で耳にするようになりました。

「データの利活用」とは、例えば社内に蓄積されたデータ(情報資産)を自社内で利用・活用したり、他社へ提供しまたは他社から提供を受けたりすることを指します。既存の製品やサービスの付加価値を高め、新たな事業領域を模索したり、新たなイノベーションを生み出したりする手段として、注目されています。

データを他社へ提供しまたは他社から提供を受ける取組みとしては、例えば、

・「地図」を製作・出版していた会社が地図の製作のもととなった計測データなどの情報を他社に提供し、提供を受けた会社が自社の製品やサービスの付加価値を高める

・消費者向けECサイトの運営会社が顧客データや購買データをメーカー(商品出品者)に提供し、メーカーが消費者ニーズを元に新商品を開発する

などが実践されており、新たな付加価値やサービスが生み出されています。

もっとも、自社のデータを他社に提供する場合または他社からデータの提供を受ける場合には、自社の保有するデータの価値や営業秘密を守るとともに法令違反や権利侵害が発生することのないようにスキームを組み立て、契約書でしっかりと取り決めをしておく必要があります。

以下では、データ提供に関する契約を締結する際の注意点をご説明します。

 

2.データの特定

他社にデータを提供する場合または提供を受ける場合、まずは、提供の対象となるデータを特定することが重要です。

この特定が不十分だと、以下に述べる内容を契約書で定めても、そもそもの対象が分からず、契約で保護されない、という事態になりかねません。

データの提供によって実現しようとしている業務内容を当事者間であらかじめ十分に協議し、共通認識を形成したうえで、契約書上に具体的に特定して記載しておく必要があります。

3.目的外利用の禁止、利用態様・利用可能期間の定め、

第三者提供の禁止、管理方法の指定・義務付け

他社にデータを提供するにあたっては、自社のデータの価値を確保するため、契約書で、目的外利用の禁止、利用態様・利用可能期間の定め、第三者提供の禁止、管理方法の指定・義務付けなどについて規定しておく必要があります。

目的外利用の禁止については、前提として、データ提供の「目的」を契約書上で具体的に特定しておくことが重要です。

また、これらの定めは、営業秘密該当性(不正競争防止法2条6項)の確保という観点からも重要です。不正競争防止法では、秘密管理性・有用性・非公知性という3つの要件を満たす情報のみが「営業秘密」として保護されることとなっています。したがって、提供するデータに自社の営業秘密が含まれている場合には、目的外利用の禁止、第三者提供の禁止に加えて、管理方法の指定・義務付けを具体的に規定することによって、当該情報の秘密管理性や非公知性が失われることがないよう手当てしておく必要があります。

 

 

4.提供するデータの内容(品質保証)

データ提供にあたっては、提供先から提供元に対し、データの「品質」の保証を求められることがあります。

保証の内容としては、データの正確性・完全性・安全性・有効性の保証、「欠損率〇%未満」などの指標の保証、不正取得データでないこと及び提供先への提供が法令違反(不正競争防止法違反、特許権・著作権侵害、個人情報保護法違反など)・第三者との契約違反に該当しないことの保証、故意による改ざん等が行われていないことの保証、などが考えられます。

逆に、保証が難しい内容については保証の対象外であることを明記すること(例えば、地図データにおいては現状との完全一致は困難)、サンプルデータによりデータの精度を事前に確認することでリスクを軽減することなども考えられます。

いずれにせよ、契約目的との関係で必要な内容・品質が何かについて、当事者間であらかじめ十分に協議し、共通認識を形成したうえで契約書の条項に落とし込むことが重要です。

 

5.派生データ・成果物の取扱い

提供データに基づいて派生データや成果物が新たに生み出された場合、両者の間に同一性が認められなければ、基本的には、元データの提供元が派生データや成果物の使用停止などを求めることは困難です。

したがって、提供先で生み出された派生データや成果物を提供元でも使いたい場合には、契約書で、派生データや成果物の帰属・使用権限について定めておく必要があります。

もっとも、実際の場面では、新しく生じた「物」がそもそも派生データや成果物に該当するかが前提として問題となることも多いと思いますので、契約締結にあたっては、派生データや成果物の定義・範囲を確認しておくことが重要です。

 

 

6.契約終了時のデータ消去・廃棄

自社のデータの価値を確保するため、契約書で、契約終了時のデータの取扱いについても定めておく必要があります。具体的には、提供先のデータ消去・廃棄義務を定めるとともに、廃棄を実行したことについて書面で証明することを規定することなどが考えられます。

なお、上記に加えて、データの提供先が第三者(たとえば、提供元の競合先など)に買収された場合に備えて、提供先の買収等をデータ提供契約の解除事由にしておくこと(いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項)なども考えられます。

 

以上、データ提供に関する契約を締結する際の注意点をご説明しました。

データ提供に関しては、「秘密保持契約」「業務委託契約」「データ提供契約」「取引基本契約」など様々な名称で契約書が作成されることになると思います。契約書の名称にとらわれることなく、上記の点にご留意いただきながら、目的の実現に沿う内容の契約を締結していただければと思います。

 

【参考資料】

「データ利活用のポイント集」(経済産業省経済産業政策局知的財産政策室)

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/datapoint.pdf

「データ利活用の事例集」(経済産業省経済産業政策局知的財産政策室)

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/data_jireisyu.pdf