スポットワークの法的問題と留意点

法律コラム

スポットワークの法的問題と留意点



弁護士 桑原 彰子

 

1 はじめに

このたび、厚生労働省より、「いわゆる『スポットワーク』を利用する労働者の労働条件の確保等について」と題する通達(令和7年7月4日付基発0704第3号ほか)が公表されました。これにあわせて、リーフレット2,3を通じた留意事項等の周知が図られています。

スポットワークとは、「スキマバイト」や「単発バイト」とも呼ばれ、一般に「短時間・単発の就労を内容とする雇用契約のもとで働くこと」と定義される働き方です

スポットワークは、その利便性の高さから利用者数が急速に増加している一方、現場では事業主の都合による一方的なキャンセルや賃金未払い等のトラブルが顕在化しています。

今般公表された通達等は、このような現状を是正し、労働条件の適正な確保を図るために策定されたものであり、スポットワークを利用する事業主が適正な労務管理を行う上で重要な指針となります。

本稿では、スポットワークの仕組みを整理したうえで、通達等を踏まえた法的問題及び実務運用における留意点をご紹介します。

 

2 スポットワークの仕組み

スポットワークには様々な形態がありますが、一般的な仕組みは以下のとおりです。

まず、労働者(以下「スポットワーカー」といいます。)と事業主は、それぞれスポットワークの雇用仲介を行う事業者(以下「スポットワーク仲介事業者」といいます。)が提供する雇用仲介アプリ(以下「アプリ」といいます。)に登録します。

登録完了後、事業主がアプリ上に求人を掲載し(下記図①)、スポットワーカーが働きたい求人に応募します(下記図②)。スポットワークでは、履歴書の提出や面接による選考が行われないことが一般的なため、応募が完了しマッチングが成立すれば、スポットワーカーと事業主の間で労働契約が締結されます(下記図③)。

その後、スポットワーカーは指定された日時に勤務場所へ向かい、企業から提示されたQRコード等を自身のスマートフォンで読み取って勤怠管理を行います。出退勤の記録や賃金の支払いは、アプリを通じてスポットワーク仲介事業者が代行する運用が一般的です。

出典:厚生労働省「『スポットワーク』の労務管理(使用者向けリーフレット)」2

 

ここで重要なのは、契約の当事者はあくまで「スポットワーカー」と「事業主」であり、「スポットワーク仲介事業者」は契約当事者にならないということです。そのため、たとえ1時間限りの労働であっても、事業主はスポットワーカーに対して、労働基準法をはじめとする労働関係法令を遵守する責任を負います。

なお、類似した就労形態として「ギグワーク」がありますが、ギグワークでは業務委託契約が締結されることが多いため、雇用を前提とするスポットワークとは法的性質が異なります。

 

3 スポットワークをめぐる法的問題と留意点

⑴ 労働契約の成立時期

労働契約は労働者と使用者の合意により成立します(労働契約法第6条)。労働関係法令は、原則として契約成立時から適用されるため、労使間で契約成立時期の認識を共有することが不可欠です。

これまでの実務では、スポットワークの契約成立時期を、「就労当日」や「現場でQRコードの読み取りなど所定の行為を行った時点」とする解釈が一般的でした。

この解釈によれば、たとえアプリ上でマッチングが成立していても、就労当日に現場で所定の行為を行うまでは労働契約が成立していないことになります。そのため、就労開始直前に事業主が一方的に仕事をキャンセルしても、事業主には労働基準法26条に基づく休業手当の支払義務が生じないと考えられていました。

これに対して、厚生労働省は、今回の通達等で、スポットワークのような「面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人に労働者が応募した時点で労使双方の合意があったものとして、労働契約が成立する」という新たな見解を示しました。

さらに、労使間で解約事由や期限をあらかじめ示した契約(解約権留保付労働契約)を締結する場合には、解約事由が合理的であることはもとより、労働契約法第3条第1項の労使対等の原則の趣旨を踏まえ、スポットワーカーにのみ不利な内容にならないよう十分な留意が必要であるとしています。

このような見解を受けて、一般社団法人スポットワーク協会では、2025年9月1日以降、スポットワークにおける契約成立時期や契約成立後の解約事由を以下のとおり整理しています

出典:スポットワーク協会リーフレット5の記載内容をもとに桑原が作成

 

⑵ 休業させた場合の休業手当について

労働基準法26条では、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合、使用者は休業期間中の労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当(休業手当)を支払わなければならないと定められています。

前述のとおり、スポットワークでは、応募時点で労働契約が成立すると解釈されます。そのため、契約成立後に「予定より早く作業が終わった」「他で人員が確保できたので不要になった」といった事業主側の都合で、就労の全部又は一部を休業させる場合には、原則として、事業主に休業手当の支払義務が生じます。

しかし、単発かつ短時間のスポットワークでは、算定の基礎となる過去の賃金実績がないことが多く、平均賃金の算出が困難な場合があります。そのような場合には、休業手当に代えて、出勤当日に支払われる予定であった賃金額(所定賃金)の全額を支払う運用が認められています。

もっとも、事業主の故意、過失等により労働者を休業させた場合には、休業手当ではなく賃金の全額(休業手当を既に支払っている場合はその差額)を支払う必要があるので、注意が必要です(民法第536条第2項)。

 

⑶ 労働時間の把握について

スポットワーカーと事業主との間に直接労働契約が成立する以上、事業主は労働時間を適正に把握し、労働時間に応じた賃金を支払わなければなりません。

労働時間の該当性は、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否か」という観点から客観的に判断されます(最一小判平12.3.9三菱重工業長崎造船所事件)。

具体的には、事業主の指示により就業場所内で行う着替え等の準備行為や業務終了後の業務に関連した掃除等の後始末にかかる時間などは労働時間に含まれます。

また、現実に作業をしていなくとも来客に備えて店内に待機することが義務付けられている「手待時間」も、指揮命令下に置かれていると評価され、労働時間に該当します。

したがって、事業主がアプリに求人を掲載する際には、実作業時間だけでなく、前後の準備行為等の時間を含めて始業・終業時刻を設定する必要があります。

また、残業や早出等により予定していた時間と実際の労働時間が異なるという申告があった場合には、事業主が速やかに事実確認を行い、正確な労働時間を把握することが必要です。

 

4 まとめ

以上のとおり、今回の通達等により、スポットワークでは原則として「スポットワーカーが求人に応募した時点」で労働契約が成立し、その時点から事業主は労働関係法令を遵守する義務を負うことが明確化されました。

事業主の皆様におかれましては、この新基準に社内規定が適合しているか、以下の留意事項とあわせて今一度ご確認いただければと思います。

① 労働条件の明示

スポットワークでは、「応募時」に労働契約が成立するため、アプリでの求人掲載段階で、業務内容、就業場所、賃金、労働時間などの労働条件を正確かつ具体的に記載する必要があります(労働基準法15条1項)。

労働条件通知書がアプリ上で自動発行される場合であっても、システム任せにせず、記載内容に不備がないか事業主自ら確認するようにしてください。

 

② 労働時間の適正な把握

労働時間の管理責任は、スポットワーク仲介事業者ではなく事業主にあります。アプリによる自動集計に依存しすぎることなく、現場での着替えや待機時間が漏れていないか、事業主自身で管理、把握し、適正な賃金を支払う体制を整えてください。

 

③ ハラスメント防止と安全衛生管理

わずか数時間の勤務であっても、スポットワーカーは「労働者」として扱われます。ハラスメント防止措置(労働施策総合推進法30条の2)や雇入れ時の安全衛生教育(労働安全衛生法第59条)などが適切に講じられているか、改めて確認してください。

また、スポットワーカーが業務中や通勤途中に負傷した場合、就労先の事業について成立する保険関係に基づき労災保険給付を受けることができます(労働者災害補償保険法第7条等)。万が一事故が発生した際には、誤った対応を取らないように注意しましょう。

 

 

1 厚生労働省「いわゆる「スポットワーク」を利用する労働者の労働条件の確保等について(基発0704第3号) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001513165.pdf」

2 厚生労働省「『スポットワーク』の労務管理〔使用者向けリーフレット〕(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001512297.pdf)」

3 厚生労働省「『スポットワーク』の注意点〔労働者向けリーフレット〕(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001512297.pdfhttps://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001512298.pdf)

4 スポットワーク仲介事業者は、スポットワーカーと事業主との雇用契約の成立をあっせんする職業紹介事業に該当するものと整理されています。

5 一般社団法人スポットワーク協会リーフレット(https://www.jaswa.or.jp/wp-content/uploads/2025/07/%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E5%8D%94%E4%BC%9A%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88-1.pdf)

6本稿作成にあたり、脚注で引用したほか、中央経済社「ビジネス法務2025年6月号」(95頁から111頁)を参照しました。