「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」に関する近時の動向

法律コラム

「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」に関する近時の動向



弁護士 皆川 征輝

 

本稿では、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(令和2年法律第38号。以下「透明化法」といいます。)に関する近時の動向を、簡単にご案内させていただきます(なお、本稿は令和4年12月7日時点の情報に基づくものです。)。

 

 

① 透明化法で規律される分野に、総合物販オンラインモール及びアプリストアに加えてデジタル広告分野が追加され、新たに3事業者が「特定デジタルプラットフォーム提供者」(以下「特定DPF提供者」といいます。)に指定されました。

② 総合物販オンラインモール及びアプリストアについて、経済産業大臣による評価案が公表されました。この2分野の特定DPF提供者には、確定した評価の結果を踏まえ、自主的かつ積極的に運営改善を図っていくことが求められます。

③ 経済産業省では、広くデジタルプラットフォームに関する取引についての情報を求めています。気になる事項がありましたら、情報提供窓口への連絡を検討ください。

 

 

1 デジタル広告分野の追加

透明化法では、特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いデジタルプラットフォームを提供する事業者を特定DPF提供者として指定し、一定の規律をしています。

2021年4月1日、この特定DPF提供者として、総合物販オンラインモールを提供しているアマゾンジャパン合同会社(Amazon.co.jp)、楽天グループ株式会社(楽天市場)、ヤフー株式会社(Yahoo!ショッピング)及び、アプリストアを提供しているApple Inc.及びiTunes株式会社(App Store)、Google LLC(Google Playストア)が指定されました1 2

 

その後、デジタル広告分野について、デジタル市場競争会議の「デジタル広告市場の競争評価最終報告」(2021年4月27日)3などを踏まえ、透明化法の適用対象を定める政令が改正され、同分野で適用対象となる事業者の事業区分や規模などが定められました4

そして、令和4年10月3日、上記の総合物販オンラインモール・アプリストアの分野に加え、上記政令で定める要件を満たすデジタル広告分野の特定DPF提供者が指定されました5。Google LLC、Meta Platforms,Inc.、ヤフー株式会社の3社です6

デジタル広告は、例えば、YouTubeなどで動画を見ているときに流れるCMや、Yahoo!ニュースなどウェブサイトやFacebook、InstagramなどのSNSアプリで表示される広告などをイメージいただければ分かりやすいのではないかと思います。

(デジタル広告のイメージ)

 

上記政令の改正により追加されたデジタル広告分野に関する事業区分の大まかな内容は、次の2つです7

①メディア一体型広告デジタルプラットフォーム:デジタル広告を自社のウェブサイト8に掲載する事業者

②広告仲介型デジタルプラットフォーム:広告主と広告枠の売り手(ウェブサイト等運営者)とを仲介して、配信する広告を決定する事業者

 

そして、特定DPF提供者として指定を受けた事業者の名称や事業内容(参考)は、次のとおりです。

 

①メディア一体型広告デジタルプラットフォームの運営事業者

 

指定された事業者 (参考)規制対象となる事業の内容
Google LLC 広告主向け広告配信役務である「Google広告」、「Display&Video360」等を通じて「Google検索」又は「YouTube」に広告を表示する事業
Meta Platforms,Inc. 広告主向け広告配信役務である「Facebook広告」を通じて「Facebook(Messenger含む)」又は「Instagram」に広告を表示する事業
ヤフー株式会社 広告主向け広告配信役務である「Yahoo!広告」を通じて「Yahoo!JAPAN(Yahoo!検索含む)」に広告を表示する事業

 

 

②広告仲介型デジタルプラットフォームの運営事業者

 

指定された事業者 (参考)規制対象となる事業の内容
Google LLC 広告主向け広告配信役務である「Google広告」、「Display&Video360」等を通じて、「AdMob」、「Adsense」等により、媒体主の広告枠に広告を表示する事業

 

以上のように特定DPF提供者として指定を受けた事業者には、①取引条件等の情報の開示や②自主的な手続・体制の整備を行うこと、③年1回、実施した措置について自己評価を付した報告書を提出することなど、一定の規律が課せられます。

 

2 モニタリング会合意見とりまとめ公表・大臣評価原案

のパブリックコメントなど

上記のように、透明化法では特定DPF提供者から報告書が提出されることになっているところ、経済産業大臣は、この報告書等をもとに、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価を行います(透明化法9条2項)。

また、経済産業大臣は、当該評価にあたって、一定の有識者の意見を聴くことができるものとされています(透明化法9条4項)。そして、経済産業省は、令和3年12月から、有識者等からの意見聴取のため「デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合」(座長:岡田羊祐一橋大学大学院経済学研究科教授、以下「モニタリング会合」といいます。)を開催し9、当該モニタリング会合において特定DPF提供者に対するヒアリングなどを実施し、検討を重ねました10

そして、令和4年11月11日、モニタリング会合の意見のとりまとめが公表され11、同日、同意見とりまとめの内容なども踏まえた経済産業大臣による特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(以下「大臣評価」といいます。)の原案に対するパブリックコメントが開始されました(期間:令和4年11月11日~令和4年12月11日)12

パブリックコメントを経て、大臣評価が確定したのち、公表されることになります。

本年は、総合物販オンラインモール・アプリストアを対象として検討・評価がなされており、特定DPF提供者が、提供しているデジタルプラットフォームにおいて、自社や関連会社を優遇することの是非、アカウント停止・アプリ削除の手続などが議論となりました。また、特定DPF提供者から説明のあった取組についての担保・裏付けをどのように求めていくのかといった点も課題として指摘されました。

大臣評価の原案には、上記のようなモニタリング会合の議論も踏まえ、特定DPF提供者に今後期待される取組の方向性(改善点)が盛り込まれています。また、特定DPF提供者には、確定した大臣評価の結果を踏まえ、自主的かつ積極的に運営改善を図っていくことが求められます(透明化法9条6項)。

特定DPF提供者による取組について、関係者で議論をしながら、デジタルプラットフォームと利用事業者との取引関係をより良いものにしていく。これが、透明化法に基づく「モニタリング・レビュー」と呼ばれる特徴的な枠組みとなっています。

来年は、デジタル広告分野についても大臣評価の対象となるため、モニタリング会合を通じて、特定DPF提供者による報告内容や、利用事業者の声などを踏まえた検討をすすめていくことになります。デジタル広告分野は、総合物販オンラインモールやアプリストア以上に仕組みが複雑であることから、まずは実態の解明が課題になるのではないかと思います。

 

3 最後に

上記のデジタル広告分野に関して、特定DPF提供者として指定されていないAmazonの広告売上が増加しているというニュースや13、広告を掲載する媒体をFacebookからTikTokに変更するといったニュース14があるなど、デジタル広告分野の情勢は目まぐるしく変化しているといえます。

このように変化の多い業界において、取引環境の透明性・公正性の向上を目指すためには、広く情報を収集・整理することも重要といえます。

経済産業省では、特定デジタルプラットフォームの取引に関し、出店者などの利用事業者向けに、デジタルプラットフォーム取引相談窓口を設置しているほか、広くデジタルプラットフォーム一般に関する取引実態や利用状況についての相談・情報提供窓口も用意しています15。もし、デジタルプラットフォームとの取引に関して気になる事項がありましたら、弁護士への相談のほか、上記相談窓口への相談・情報提供もご検討ください。

 

 

1 https://www.meti.go.jp/press/2021/04/20210401003/20210401003.html

2 括弧内は、特定DPF提供者として指定を受けた事業者が提供する物販総合オンラインモール・アプリストア。

3 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/kyosokaigi/dai5/siryou3s.pdf

4 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digitalplatform/01_gordinance.pdf

5 テレビ・ラジオで流れているCMに関する規制としては「放送法」など。

6 https://www.meti.go.jp/press/2022/10/20221003006/20221003006.html

7 主としてオークション形式が採用されていることなどの要件がありますが、本稿では細かい要件についての説明は割愛します。本改正に関する詳細に

ついては、NBL No.1224(2022.8.15)及びNBL No.1226(2022.9.15)などを参照。

8 検索サービス、ポータルサイト、SNS等

9 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_platform_monitoring/index.html

10 https://www.meti.go.jp/press/2021/12/20211221001/20211221001.html

11 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_platform_monitoring/pdf/20221111_1.pdf

12 https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595222071&Mode=0

13 https://netshop.impress.co.jp/node/9999

14 https://digiday.jp/platforms/why-health-care-brand-supergut-traded-facebook-for-tiktok/

15 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digitalplatform/business.html