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民法(債権関係)改正の動向

2015年8月 弁護士 上田 倫史

はじめに

現在開会中の第189回通常国会(平成27年9月27日までの予定)において,民法の改正法案が審議されています。本改正は,1896(明治29)年に民法が制定されて以来初の抜本改正と言われており,取引の根幹をなす債権関係の規定全般が改正の対象となっています。

ただし,個々の改正点を見るに,現行の判例・実務に大きな変動をもたらす改正点は限られています。改正点の中には,既存の判例法理や一般的に承認されている法理等を明文化するものが多く,明らかな変更が加えられる事項の中でも,実務への影響は限定的と推測されるものが少なくありません。

以下では,改正法の中でも特に実務的影響があると思われる,消滅時効,法定利率,保証の3点について,その概要をご紹介いたします。

1 消滅時効-「知った時から5年」ルールの新設

現行法では,消滅時効の原則要件は「権利を行使することができる時から10年間」とされていますが(166条,167条),商行為によって生じた債権については5年という大きな例外がある他(商事消滅時効,商法522条),債権者の職業ごとに多数の短期消滅時効(現行法170条から174条。例えば,旅館や飲食店の代金債権は1年,生産商や卸売商の商品売買に関する債権は2年,医師の報酬債権は3年,など)が設けられているなど,例外規定も多数存在します。

改正案は,「権利を行使することができる時から10年間」という要件(客観的起算点)はそのままに,これとは別に「権利を行使することができることを知った時から5年間」という新たな要件(主観的起算点)を設け,いずれかの要件さえ満たせば,消滅時効が完成するという立場を採用しました。そして,商事消滅時効や職業別の短期消滅時効は廃止されることになりました。

結論的には,通常の契約関係によって生じる債権の多くは「知った時から5年」 のルールによって処理されることになると考えられます。

2 法定利率-3%への引き下げ,変動制の導入

現行法では,一般の法定利率は年5%(404条),商行為によって生じた債権の法定利率は年6%(商法514条)と定められています。このような現行法の定めに対しては,以前から,金融市場における実際の金利水準と比べて高すぎるとの批判がありました。

改正案は,法定利率を3%に変更した上で,その後の金融市場の変動状況を踏まえて,3年ごとに利率の見直しを行う変動制を導入することにしました。この変動制の下では,簡単に言えば,市中金利(短期プライムレートより算定されます)が1%以上変動すれば,法定利率も1%変動することになり,これを過去約40年間の市中金利に適用すると,法定利率が下図(出典:法務省法制審議会―民法(債権関係)部会資料より(http://www.moj.go.jp/content/000125160.pdf))の実線のように変動することになります。

この図を見ても分かるように,変動制が採用されるといっても,短期間のうちに法定利率が頻繁に変動することは考え難く,実務上特段の混乱が生じることはないように思われます。


3 保証

(1)公正証書の作成義務の新設

現行法では,保証契約は書面で作成しなければ効力を生じないとされていますが(446条2項),契約締結の際にこれ以上の要式は求められていません。

これに対し,改正案は,一定の個人保証(事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする個人保証)については厳格な要式を求めることとし,契約締結前1か月以内に公正証書を作成し,保証債務を履行する意思を表示しなければならないものとしました。これは,親族関係や友人関係などから義理で行われることの多い個人保証については,保証人となろうとする者に特に慎重な判断をさせるべきとの趣旨から設けられたものです。

ただし,この規定には例外があり,主たる債務者が会社の場合は,当該会社の取締役,執行役,総株主の議決権の過半数を有する者など,会社の経営者に相当する個人の保証には公正証書の作成は義務付けられません。この例外は,中小企業における融資や取引の実務では,経営者による個人保証が現に多用されており,厳格な要式制を貫くのは実務への影響が大き過ぎるとの配慮に出たものです。

(2)個人根保証契約全般につき極度額の定めが要求

現行法では,主たる債務に融資による債務が含まれている根保証において,個人が保証人となる場合は,極度額(保証人が責任を負う上限額)を定めなければ保証契約の効力は生じないとされています(465条の2第2項)。この規定は,継続的に生じる不特定の債務を保証する根保証では,極度額を定めなければ,保証人の責任が無限定に拡大してしまうことから,平成16年の民法改正の際に導入されたものでした。

改正案は,主たる債務に融資による債務が含まれていない場合でも,個人が継続的に生じる不特定の債務を保証する場合には,必ず極度額の定めがなければならないという立場を採用しています。例えば,不動産の所有者が物件を賃貸する際に,賃借人の賃料等の債務につき個人の保証人を求めることが実務上多くありますが,改正法の下では,このような保証についても極度額の定めが必要となり,これを欠けば保証契約自体が無効になりますので,注意が必要です。

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