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中国におけるカルテル規制と近時の動向

2015年1月 弁護士 上田 倫史

1 はじめに

2014年8月,中国の国家発展改革委員会(独占禁止法当局)は,日系の自動車関連メーカー計12社に対して,価格カルテル(取扱商品の価格協定)を行っていたとして,総額12億3500万人民元(約200億円)の制裁金の支払いを命じました。本事件については,報道等で既にご存じの方も多いように思いますが,以下では,中国におけるカルテル法制や近時の実務動向などにも触れながら,本事件を紹介させていただきます。

2 価格カルテルに関する中国法の規制

本事件では,競争関係にある自動車部品等のメーカー間で,取扱商品の価格を協議の上で設定していたことが,価格カルテルに当たり,独占禁止法に違反するものとされました。

このような価格カルテルは,市場における正常な価格競争を阻害し,他の事業者や消費者の利益を害するものであることから,中国でも,日本を含む先進諸国と同じような規制がなされています(中国独占禁止法13条1項1号は,競争者間における,商品の価格を固定又は変更する旨の合意を禁止しています。なお,同条は,価格カルテル以外にも,競争者間における商品の生産量・販売量の制限,販売市場等の分割,新技術等の購入,開発の制限などを禁止しています)。

このようなカルテルを実施した事業者への制裁としては,①違法行為の停止,②違法所得の没収,③前年度売上額の1%以上10%以下の制裁金があります(中国独占禁止法46条1項)。刑事罰に関する規定はなく,刑法上の入札談合罪があるにとどまります。

3 リニエンシー制度(制裁金の減免制度)の適用

本事件の特徴として,処分対象となった全12社が,中国当局に対して自発的にカルテルの事実を申告し,いわゆるリニエンシー制度(制裁金の減免制度,中国独占禁止法46条2項)の適用を受けていることが挙げられます(そもそも本事件が摘発されたきっかけは,米国等の他国において,同様の価格カルテルにつき既に調査,処罰を受けた当事者が,中国におけるリニエンシー制度の適用を目指して自発的に申告したことにありました)。

公表資料によると,本事件では,価格の設定に関する協議が頻繁に行われ,長期間にわたりカルテルが実施されていることから,全12社に対して,法令上の上限額である前年度売上額の10%の制裁金を科すことが,言わば「前提的に」明記されています。その上で,各企業の個別の事情(申告を何番目に行ったか,何種類の取扱商品につき価格カルテルを行ったか,価格の設定に関する協議にどの程度主体的に関わったか,などの事情)を踏まえて,2社については制裁金を免除し,残りの10社については,個別の事情に応じて,前年度売上額(過去の処罰例と同様,カルテルに関係する商品の前年度売上額)の2%から8%の制裁金を科すこととされました。

中国で2008年に独占禁止法が施行されて以降,リニエンシー制度が用いられたケースは非常に少なく,同制度の実効性に対して懐疑的な見方もあったのですが,近時の中国独占禁止法当局は,本事件を含めて,このリニエンシー制度を積極的に活用する傾向にあると言えます。

表1 本事件の処分結果等のまとめ
企業 最終的な処分内容 認定された事情
(自動車部品メーカー8社について)
日立オートモティブシステムズ 免除 最初に自発的に申告
デンソー 前年度売上高の4%
1億5056万元(約25億円)
2番目に自発的に申告
矢崎総業 前年度売上高の6%
2億4108万元(約42億円)
1種類の製品のみにつき協議に関与
古河電気工業 前年度売上高の6%
3456万元(約6億円)
住友電気工業 前年度売上高の6%
2億9040万元(約48億円)
愛三工業 前年度売上高の8%
2976万元(約5億円)
2種類以上の製品につき協議に関与
三菱電機 前年度売上高の8%
4488万元(約7億円)
ミツバ 前年度売上高の8%
4072万元(約7億円)
(ベアリングメーカー4社について)
不二越 免除 最初に自発的に申告
日本精工 前年度売上高の4%
1億7492万元(約29億円)
2番目に自発的に申告
NTN 前年度売上高の6%
1億1916万元(約19億円)
一部の価格協議には途中から参加を止めている
ジェイテクト 前年度売上高の8%
1億0936万元(約18億円)
中国市場に特化した価格協議の開催を提案


4 近時の動向と今後の展望

2013年ころより,中国独占禁止法当局による処罰事例は格段に増えています。代表的なものとしては,韓国及び台湾の電機メーカー6社による液晶パネルに関する価格カルテルの案件,国内最大の白酒メーカー2社による再販売価格拘束の案件,外資系の自動車販売会社及びディーラーの価格カルテル及び再販売価格拘束の案件(全く別の外資系企業2社が,同様の独占禁止行為に基づき,それぞれに処罰を受けています)などがあり,この他にも,国内外の様々な業種の企業が調査や処分の対象となっています。

ただし,この規定には例外があり,主たる債務者が会社の場合は,当該会社の取締役,執行役,総株主の議決権の過半数を有する者など,会社の経営者に相当する個人の保証には公正証書の作成は義務付けられません。この例外は,中小企業における融資や取引の実務では,経営者による個人保証が現に多用されており,厳格な要式制を貫くのは実務への影響が大き過ぎるとの配慮に出たものです。

中国の政府当局は,独占禁止法の取締りを強化しており,今後もこのような傾向が続くものと予想されます。また,本事件のようなリニエンシー制度が積極的に活用される事案が出てくることで,自発的な申告がなされるケースが増えていくように思われます。

表2 2013年以降の代表的な処罰事例
処罰の時期 案件 事件の概要 処罰の内容
2013年1月 液晶パネルの価格カルテル案件 サムソン、LGなどの韓国、台湾の企業6社による液晶パネルの価格カルテル 5社に対して総額3億5300万元の制裁金
2013年2月 白酒の再販売価格拘束案件 中国最大の白酒メーカー2社(茅台、五粮液)が、販売代理店に対して再販売価格の制限を実施 2社に対して総額4億4900万元の制裁金
2013年7月 粉ミルクの再販売価格拘束案件 内資・外資の粉ミルクメーカー等が、取引先の販売会社に対して再販売価格の制限を実施 6社に対して総額6億6873万元の制裁金
2014年5月 眼鏡用レンズ・コンタクトレンズの再販売価格拘束案件 内資・外資の眼鏡用レンズ・コンタクトレンズ販売会社が、取引先に再販売価格の制限を実施 5社に対して総額1957万元の制裁金
2014年9月 外資自動車販売会社及び販売代理店のカルテル・再販売価格拘束案件① 外資自動車販売会社(フォルクスワーゲン)が、販売店に再販売価格の制限を実施、販売店間で価格カルテルを実施 外資販売会社に2億4858万元、販売代理店8社に総額2996万元の制裁金
2014年9月 外資自動車販売会社及び販売代理店のカルテル・再販売価格拘束案件② 外資自動車販売会社(クライスラー)が、販売店に再販売価格の制限を実施、販売店間で価格カルテルを実施 外資販売会社に3168.2万元、販売代理店3社に総額214.21万元の制裁金

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